シニア転職の現場では、選考中や入社後にトラブルが起こることもある。求職者と会社側が「話が違う!」と揉めて、しかも両者の言い分が全然違う……なんて事態だ。
その実態を、シニア専門転職支援会社「シニアジョブ」代表の中島康恵氏が解説する。

■「パワハラされた!」「してない!」主張は平行線

まずは、どんな言い分の食い違いがあるのかを紹介したい。比較的よく見聞きするのは、求人企業に紹介したシニアが「就業先からパワハラを受けた」と言って、すぐに離職してしまうケースだ。

一方、企業側は「パワハラなどしていない。むしろ、スキルが不十分な人を紹介されて迷惑を被った」という主張をする。スキルの虚偽申告や資格の詐称なら紹介会社からも求職者を厳しく追求するが、パワハラの有無などは紹介会社による調査や解決が難しく、当事者間で泥沼化する可能性が高い。

パワハラだけでなく、入社したシニアから寄せられる「周囲が冷たく、馴染めない」、「上司や社長が相談に応じてくれない」、「上司や社長が指示をくれず、放置される」といった話も解決が難しい。

会社側に確認をしても「そんなことはない、むしろ、〇〇さんのほうが…」と返されるだけで、人間関係トラブルの証明ができないからだ。

■「嘘」や「後出しジャンケン」などあり得ない原因も

こうした採用後のトラブルが起こる原因には、企業とシニア人材のどちらかの「嘘や勘違い」がある。勘違いはともかく、嘘は悪質だ。言われた側は身に覚えのない話なので否定するしかなく、原因究明までトラブルが続いてしまう。

次に見かけるのが、「事前に言っていない話が出てくる」ケース。嘘や勘違いにも近いが、後出しジャンケンのように「聞いていない話」が後から出てきてトラブルになる。実際に、企業とシニアの言い分が大きく食い違った象徴的な事例があるので紹介しよう。


まず、そのシニア人材が最初に聞いていた仕事内容と入社後の仕事が違っていた。そのシニアの前職はマーケターだったが、入社後は事前説明にないリストラの断行など人事業務もやらされたという。

さらにそのシニアは足が悪いことを事前に伝えていたが、取引先などを招いた接待の席で畳に正座を強要され、さらに容態を悪化させた。これらについてその企業のトップは仕事内容もシニアの障害も「言っていない」「聞いていない」とシニアが辞めるまで話が平行線だった。

それもそのはず、あとでわかったことだが、社長とシニアの間に入っていたナンバー2がすべて自分の都合の良いように情報を操作していたという。このように明らかに悪意を持った人物が関与していた場合、その人物を正さない限り、企業と人材の食い違いは解消できない。もし途中のどこかでナンバー2とのやり取りの記録などを持って、トップとシニアが直接話し合うような場面があったならば、トラブルの解消は早かっただろう。

■最大のトラブル原因は「歩み寄り」のなさ

ほかにも、入社後の体制の不備によるトラブルも起こる。「教育が十分でない」「上司と部下の対話などのコミュニケーションが少ない」といったことでも、企業と社員の言い分が食い違う……。

大手企業ならまだしも、中小・スタートアップにとってはこういった体制の整備は重荷だが、十分でないならないなりに選考時点で人材に伝えるべきだろう。また、採用もそうした企業の状況を反映した訓練期間が短くて済む即戦力人材を対象にすることが望ましい。

そもそも、トラブル発生後にそれを拡大させてしまう原因は、双方に「歩み寄りや反省がないこと」が大きい。


企業側にも勘違いは起こり得る。しかし、選考・採用する側だからと言って、折れることなく勘違いをそのまま押し切ろうとするのはいただけない。食い違いが起こるのは仕方のない面もあるが、そこで態度を硬直化せずに、歩み寄りと対話をすればトラブルは最小に抑えるられるはずだ。

【中島康恵】
50代以上のシニアに特化した転職支援を提供する「シニアジョブ」代表取締役。大学在学中に仲間を募り、シニアジョブの前身となる会社を設立。2014年8月、シニアジョブ設立。当初はIT会社を設立したが、シニア転職の難しさを目の当たりにし、シニアの支援をライフワークとすることを誓う。シニアの転職・キャリアプラン、シニア採用等のテーマで連載・寄稿中
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