キャッシュレス決済やポイントカードの普及によって、財布を持ち歩かなくても買い物ができる時代になった。しかし、便利になった一方で、レジ前でのトラブルも増加しているようだ。
操作に手間取り、冷や汗をかくことも少なくないこともある。当事者に実体験を尋ねてみよう。
“無言の圧力”で脂汗が…50代男性がスーパーで「二度と味わい...の画像はこちら >>

「ポイント2倍」の日に妻から受けた指令

 会社員の佐藤隆行さん(仮名・53歳)は、パート勤務の妻と小学生の娘の3人暮らし。普段の買い物は妻に任せっきりだったが、その日は違ったという。

「今日は『ポイント2倍』だから。帰りにスーパー寄ってきて。絶対に忘れないでね」

 出勤前の慌ただしい時間、妻から念を押された佐藤さん。たかが数十円分のポイントとはいえ、妻は家計を真剣に管理している。

「わかった、大丈夫」と軽く返事をし、その日は仕事帰りに指定されたスーパーへと向かう。カゴいっぱいに商品を詰め込み、意気揚々とレジへ向かう佐藤さん。ここまでは順調だった。

なぜかログインできず、その場で焦りまくる

 全ての商品が精算済みになると、マニュアル通りのセリフを言う店員。

「ポイントカードはお持ちですか?」

 その問いかけに、佐藤さんはスマホを取り出した。このポイントのために、今日は買い物にきているのだ。
にもかかわらず、アプリのアイコンをタップしても、見慣れたバーコードが表示されない。画面には「再ログインしてください」の文字。

「あれ?おかしいな」と思いつつ、記憶にあるパスワードを入力するが、弾かれてしまう。どうやらパスワードが違うらしい。

「えっと、すいません。少々お待ちください」

 店員にそう告げ、パスワードの再設定を試みる佐藤さん。焦れば焦るほど指先が震えてしまう。再設定のメールが届かないのだ。運悪く、店内の通信状況も悪かったそう。額に脂汗がにじむ。

背後に並ぶ列から突き刺さる無言の圧力

 ふと背後に気配を感じて振り返ると、数人の客がカゴを抱えて並んでいた。

「ポイント2倍DAYだったので、いつもより混んでいたんです。後ろの方たちの『早くしてくれよ』という表情から、早くしてくれよと思っているのが痛いほど伝わってきました」

 店員も、困ったような、気まずそうな顔で手持ち無沙汰にしていたそう。
時間にしたら、わずか30秒ほどだったかもしれない。佐藤さんにとって、その時間は永遠のように長く感じられたという。

「ただのポイントカードなので、数十円にしかならないんですよね。でも、妻との約束だし、ギリギリまで粘ったのですが…」

 葛藤する佐藤さんだったが、突き刺さる無言の圧には勝てなかった。

逃げるように店外へ。妻は落胆「あんなに言ったのに」

「すいません。ポイントなしでお願いします」

 佐藤さんが、絞り出すようにそう告げると、店員は少しホッとした顔で会計を進めた。支払いを済ませて袋詰めの台へ移動すると、止まっていた後ろの列がようやく動き出したという。

「もう、逃げるように店を出ました。あの時の空気は、もう二度と味わいたくないですね」と言う佐藤さん。

 試練はまだ終わっていなかった。帰宅後、妻への報告が待っていたのだ。


「ごめん。ポイント、つけられなかった……」

 正直に話したという佐藤さん。妻は、怒るでもなく、ただ深くため息をついたという。

「妻の表情は、『あんなに言ったのに』という感じの落胆した表情でした。レジでの失敗以上に、胸に突き刺さりましたよ。あれからは、店に入る前どころか、家を出る前には必ずアプリを開いて確認するようにしています」

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 レジ前でスマホを握りしめて焦る人に対して、イライラすることもあるだろう。ただ、自分もいつか“待たせる側”になる可能性を秘めているからこそ、多少大目に見てあげても良いかもしれない。

<TEXT/maki>

【maki】
ライター・エッセイストとして活動中。趣味は人間観察と読書。取材からエッセイ、コラムまで幅広く執筆している
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