まことしやかにささやかれているのが、ラーメンは客によって進化していくという説だ。ある有名店では「お客様は我が味の師なり」という言葉もあるように、常連の好みやアドバイスを聞くことで「究極のスープ」が完成したというケースもある。

 ただ、なんであれ行き過ぎた行為は迷惑でしかない。都内のIT企業に勤務する濱井雄一さん(仮名・42歳)は、まさに店側を困らせた経験を持っている。

「今日のスープ、濃度がブレてないか?」ラーメンオタク常連客の...の画像はこちら >>

かつて週3回は通いつめたラーメン店

 濱井さんが、そのラーメン店と出会ったのは、3年前のことだった。個人で運営している家系ラーメン店だが、パンチの効いたスープの味に惚れ込み、仕事帰りのルーティンとして通うようになった。

「週3で通うようになり、当然顔を覚えられました。店主も気さくな人で、『いつもありがとうございます!』と声をかけてくれる。それが心地よくて。そのうちラーメンについてもいろいろ話すようになり、仲良くなったと思っていました」

 足繁く通い、会話をするなかで、ある日店主から相談を受けたという。

「『最近客足が悪くなっているような気がする。スープの味、どう思いますか』と質問されて。私も得意気になってしまって、『あそこのスープはああだった』とか、『ラーメンの美味しさはしょっぱさ。もっと味を濃くしても良いのでは』とYouTubeで見た知識を参考に、アドバイスしたんです」

プロデューサーを気取った「ダメ出し」

 もともと凝り性で、SNSでもラーメンの食べ歩きレビューを投稿していた濱井さん。いつしか、店主が特に質問していなくても、うんちくを述べるようになった。

「若い層を狙うならもう少しカエシを強くして、鶏油の香りを立たせた方がいいとか、トッピングの海苔はもう少し厚みのあるものにした方が、スープに浸してもバラバラにならないとか、聞かれてもいないのに得意げにアドバイスしちゃってましたね」

 濱井さんは店主が「なるほど、勉強になります!」と笑顔で応じ、自分の意見が反映されることもあったことで、調子に乗ってしまった。


「自分のアドバイスで、店が良くなっていく。店主と一緒にこの店を作っているんだという、一種の錯覚に陥ってしまいました。そこからはもう、止まらなかった……」

 濱井さんは聞かれてもいないのに、来店するたびに「ダメ出し」をするようになった。

「今思えばですが、『今日のチャーシュー、ちょっと煮込みすぎじゃないか』、『卓上調味料に刻み生姜を置いた方が、回転率が上がる』、『SNSをやったほうがいい』など、来店するたびに口を出してしまって。自分が店を作っているような感覚に陥ってしまった。次第に店主が『……あぁ、そうっすね』と素っ気ない返事をする機会が増えていたのですが、当時の僕はそれを『職人特有の照れ』だと都合よく解釈していたんです」

過剰な干渉はいつしか一線を越えていた

 ある日の夜、いつものようにカウンターに座り、スープを一口啜るなり店主を呼びつけて、「今日のスープ、少し濃度がブレてないか?」と声をかけると、思わぬ言葉が返ってきた。

「店長がいきなり、『もう、来ないでください。今日で出禁です』と言うんです。『えっ? 良かれと思って言ってるんだよ。酷いじゃないか』と返したのですが……」

 店長は鬱憤を晴らすように、まくし立てたという。

「はっきりとは覚えていないけれど、『ここは私の店だ。確かにアドバイスを求めたことはあって、それは感謝しているけど、最近のあなたは高慢すぎる。
迷惑だ』というようなことを言われました。もうラーメンも食べずに、涙をこらえて退店しました。自分が迷惑だと思われていたなんて、ショックでしたよ」

 冷静になった濱井さんは、現在の心境をこう語る。

「最初は『店主からアドバイスを求めてきたから言っただけじゃないか』と憤りがありましたが、次第になにも言われていないのにプロデューサー気取りでアドバイスをするようになって、鬱陶しかったと思います。反省して、今はラーメン店の店主や店員とは一切話さず、食べるだけにしています」

 どれだけ店を思っているつもりでも、頼まれてもいないアドバイスを連発するのは、相手からすればただの「お節介」でしかない。「限度」をわきまえたうえで接するべきだっただろう。

<TEXT/佐藤俊治>

【佐藤俊治】
複数媒体で執筆中のサラリーマンライター。ファミレスでも美味しい鰻を出すライターを目指している。得意分野は社会、スポーツ、将棋など
編集部おすすめ