何事にも始まりはある。そしてそこには、今では想像もつかない状況や苦労も伴う。
医者の一言でのどに優しい飴の開発を決める
菓子食品の業界で日本で初めて「のど飴」という言葉が商品名に入ったのは、カンロ株式会社が1981年に発売した『カンロ 健康のど飴』だ。開発担当の安田さんによれば、軽い風邪をひいた当時の社長が病院に訪れた際の“ある一言”が発売のきっかけだという。
「お医者さんに『おたくのカンロ飴や黒飴を舐めておけば大丈夫ですよ』と言われたそうなんです。そこから、のどに優しい飴を作ろうというアイデアが浮かんだそうなんです」(開発・安田さん)
当時、製薬会社がのどへの効能を謳った飴を販売していたが、消費者が手軽に買えるような「お菓子」としてののど飴が、こうして誕生することになった。
効能と味の両立に苦闘
社長の発案から、のどに優しい“お菓子”としての飴の開発がスタートするわけだが、それは簡単なことではなかったと安田さん。「お菓子のメーカーですから、開発チームはそれまでも美味しさは追求していました。そこに初めて“効能感”が求められるようになったので、社内でも違和感を持つ人もいたようです」(開発・安田さん)
それでも、海外の文献などを研究し、ハーブを配合させることで目指す形に近づけた。
「お菓子売り場に出すことになるので、ハーブを入れて効能感を充実させるのと、美味しさを両立させないといけません。まだ日本ではあまりメジャーではなかったハーブを使いながら美味しさを追求するのには、当時の開発チームもかなり苦労したみたいですね」(開発・安田さん)
今では当たり前だが、嗜好品であるお菓子に効能感という新たな価値観を持たせる壁と向き合いながらの開発だったのだ。
「ハーブ」を浸透させるべく奔走
そんな苦労の上で発売された「カンロ健康のど飴」は、現在では定番商品ではあるが、消費者に受け入れられるまでには障壁もあった。そう話すのは、広報担当の高田橋(こうだばし)さん。「まずは食べてもらわないといけないので、試食販売もしていたそうなんです。ただ、ハーブが当時の日本では馴染みが薄く、それまでにないような、いわば“薬くさい”味わいだったこともあって期待していた反応は得られなかったようですね」(広報・高田橋さん)
また、値段もネックになったようだが、それでもあきらめず魅力を伝えようと奔走した人々もいた。
「社内の資料によれば、弊社が当時発売していたカンロ飴の約2倍の値段だったとありました。当時の人にしてみれば『高いし、薬臭いし、そもそもハーブってなんだ?』という感じだったと思います。ですが、当時の営業の方も諦めず、スーパーなどの小売店はもちろん、カラオケ店や歌の教室にまでアピールをしに行っていたようです」(広報・高田橋さん)
こうした努力によって次第に認知は広まっていくものの、数年は思うような結果がでなかったという。変化が起きたのは、『健康のど飴』の発売から8年経った頃のこと。
「他のメーカーさんも『のど飴』と銘打った商品を発売するようになってきて、市場が広がったこと。その中で、弊社が1989年に『健康梅のど飴』を発売しました。効能感を保ちながらも梅によって味わいを高めたことが奏功して、やっと多くの方に手にとっていただけるようになったのではないかと思います」(広報・高田橋さん)
のど飴がようやく定着するに至った背景には、たゆまぬ営業努力によって、日本人が徐々にハーブに慣れていったこともあるだろう。
“美味しすぎない”味の哲学
こうして、今では私たちがのど飴を気軽に手に取れるようになったが、1981年に発売された“元祖”である『健康のど飴ブランド』は当時から変わった点はあるのだろうか。「小さなアップデートは常に続けていましたが、発売から40年が経った2001年にハーブの種類や配合のバランスを大きく見直しました。そこからは、のどへの“効能感”よりは“いたわり”を追求した飴になっています」(開発・安田さん)
のど飴としての付加価値においては、時代の変化に合わせて常に変わり続けているようだ。
「言い方が難しいんですが、のど飴って美味しすぎてもいけないと思うんですよね。『良薬口に苦し』ということばもありますので、“あえて”複雑な味わいを残して、体感としてものどをいたわっている感覚を得てもらおうとしていることもあります」(開発・安田さん)
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「なにげない医者の一言」から生まれた一粒の飴。まだまだ寒い日が続くこの季節、「なにげない医者の一言」から生まれた飴で、のどをいたわってみてはいかがだろう。
<取材・文/Mr.tsubaking>
―[ヒット商品&サービス「はじまりの物語」]―
【Mr.tsubaking】
Boogie the マッハモータースのドラマーとして、NHK「大!天才てれびくん」の主題歌を担当し、サエキけんぞうや野宮真貴らのバックバンドも務める。またBS朝日「世界の名画」をはじめ、放送作家としても活動し、Webサイト「世界の美術館」での美術コラムやニュースサイト「TABLO」での珍スポット連載を執筆。そのほか、旅行会社などで仏像解説も。
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