指示が伝わらない、空気が読めない、些細なことで感情が爆発するetc…
あなたの職場には、こういった「なんとなく仕事がしづらい人」はいないだろうか?

実際、診断名はつかないけど、本人も周囲も困るといった人が増えている。『あなたの職場を憂鬱にする人たち』(インターナショナル新書)を上梓した、心理学者でカウンセラーの舟木彩乃氏によると、こうした人を「グレーゾーン社員」と呼ぶことがあるという。


現場で起きたトラブルと舟木氏の解説を通して、グレーゾーン社員の特徴や接し方を見ていこう。

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職場にいる「困った人」、実はグレーゾーンかも

「いつも5分だけ遅刻する」「探し物ばかりしている」「ダブルブッキングを繰り返す」。

こうした行動は、職場でよく見かける。注意しても改善せず、やる気がない、協調性がないと誤解されることもある。

しかし、その裏には本人が意図していない特性が隠れている場合があると、心理学者でカウンセラーの舟木彩乃氏は指摘する。

「発達障害グレーゾーンとは、医学的な診断はつかないものの、ASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠如・多動症)の特性を一部持つ人たちのことを指します」

「診断済みで障害者手帳を持つ人は、就職時にそれに対する配慮を受けますが、グレーゾーンの人は一般就労の枠で働くため、配慮の対象になりにくいんです。結果として、本人も周囲も気づかないまま『なんとなく仕事ができない人』というレッテルを貼られてしまうのです」

多くの場合、問題が表に出るのは適応障害などを発症してからだ。

遅刻やミスを繰り返し、上司から注意を受け続けるうちに本人も「なぜ自分はうまくいかないのか」と追い詰められ、受診をきっかけに初めてグレーゾーンだったと分かるという。

特徴的なのは、こうした特性が「微妙に現れる」点だ。発達障害の特性が明確な場合では、約束そのものを忘れていたり、1時間単位で遅刻するところを、グレーゾーンでは10分程度に収まることも多い。

「本人の努力次第では表面上は普通を保てますが、その裏では常に気を張り、エネルギーを消耗し続けています」と舟木氏。

さらに、ADHD傾向の人は時間管理が苦手で、予定を詰め込みすぎたり、思いつきで行動を変えたりする。

ASD傾向の人は曖昧な指示を理解しづらく、空気を読まない率直な指摘をしてしまうこともある。
こうした特性が少しだけ見えるのが、グレーゾーンの特徴だ。

実際に、グレーゾーン社員の特性が原因で職場にトラブルが起きることも少なくない。舟木氏は現場で相談を受けた事例を紹介する。

40代で発覚する人も急増…3つの事例でわかる「グレーゾーン社員」の特徴。ハラスメントにならない接し方も紹介
心理学者・カウンセラーの舟木彩乃氏


【事例①】居酒屋の騒音で限界……先輩に「キモい!」と爆発

職場の懇親会で居酒屋に行ったAさん(20代女性、ADHD傾向)。

店内は大音量のBGM、複数のグループの会話、店員の動きで刺激が溢れていた。

Aさんは感覚過敏の特性があり、最初は我慢していたが徐々にイライラが高まる。隣に座った先輩に肩を叩かれた瞬間、ついに限界がきた。

「ほんっとにキモいんですけど!」

強い口調で怒鳴ってしまい、先輩も反発。場は険悪になった。上司がAさんを静かな場所に連れ出し落ち着かせ、翌日、双方で話し合いの場を設けた。

「Aさんは主にADHD傾向で、刺激に対して過敏に反応しやすい特性があります。ADHDもASDも共通して感覚過敏がある場合が多く、聴覚が敏感な場合では騒がしい場所や強い音に弱いのです。

イライラが高まると我慢がきかなくなり、本人の意思とは無関係に行動が爆発することもあります。
環境や接し方を少し変えるだけで、全体のストレスは大幅に減らせます」

【事例②】曖昧な指示でズレまくり……会議が大混乱

社員Cさん(ASD傾向)は、上司から「急ぎでこの資料を夕方の会議用にまとめておいて」と口頭で指示された。

さらに「役員も参加するから、とにかく丁寧に」と付け加えられた。

しかし、指示の範囲や形式が曖昧で、Cさんは自分なりの解釈で作業を進めてしまった。会議で必要だったのは数字の比較表だったが、Cさんが作ったのは文章中心の長文。

会議はスムーズに進まず、参加者一同はイライラが募った。

「CさんのようなASD傾向のある方は、曖昧な指示を自分なりに解釈してしまう特性があります。

『これ』『あれ』『適当に』『丁寧に』といった抽象的な言葉が理解しづらく、自分なりの正解で動いてしまうのです。

こうしたズレは、指示の意図を確認する習慣や、箇条書きで明確に伝えるルールを作ることで、大幅に減らせます」

この事件以降、指示は箇条書きで明確に、期限・形式・目的をメールに残すルールに変更。Cさん自身も「作業前に『このような解釈で合っていますか?』と聞く」習慣をつけた。

結果、指示のすれ違いが減り、チーム全体のコミュニケーションが改善したという。

【事例③】会議で上司を論破…場が凍りつく

社員Dさん(ASD傾向)は、会議中に(上司の上司にあたる)事業部長の説明に対して、こう指摘した。

「そのデータは根拠として弱いです」「論理的に矛盾しています」

内容自体は正しい。しかし、事業部長は面子を潰されたと感じ、周囲は凍りついた。

「DさんはASD傾向で、論理的に正確であることを重視する特性があります。


場の空気や相手の感情を読むのが苦手で、本人の意図とは関係なく周囲が驚く行動につながることがあります」

対応策としては、事前に資料を共有する、会議で指摘する際は場を選ぶよう指導するなど、環境やルールを工夫することが重要だ。

「Dさんの分析力は会議外で活かすこともできます。発言のタイミングや場所を工夫すれば、本人もチームもストレスを減らしつつ能力を活かせます」

40代で発覚する人も急増…3つの事例でわかる「グレーゾーン社員」の特徴。ハラスメントにならない接し方も紹介
『あなたの職場を憂鬱にする人たち』(インターナショナル新書)


40代で発覚する人も急増中

最近は、40代以降の中高年になって初めて「自分はグレーゾーンかもしれない」と気づくケースが増えている。舟木氏によると、そのきっかけは環境の変化だという。

「部署異動や転職、昇進などがきっかけになることが多いですね。特に管理職になったタイミングで、うまく回らなくなるケースが目立ちます」

その理由は、部下として働いている間は、周囲のフォローがあったからだ。

KY発言や多少の失礼な言動も、ある程度は許されてきた。ミスをしても上司が軌道修正してくれた。ところが管理職になると、立場が逆転する。

「それまでやってこなかったフォロー側にうまく回れないのです。その結果、配慮に欠ける発言によってハラスメントを疑われたりして、職場全体がギクシャクすることも少なくありません」

加えて、40代以降は認知機能の低下も影響する。

「我慢がきかなくなり、怒りっぽくなる傾向があります。最近話題のカスタマーハラスメントも、この影響が関係しているかもしれません」

グレーゾーン社員に対して絶対NGな対応

グレーゾーン社員に対して、まずやってはいけないのが叱責だ。

「彼らは人一倍努力しているのに、適応できずに悩んできた人たちです。
普通の人なら『怒られちゃった』で済むことでも、何倍も重く受け止めてしまう。場合によってはパワハラと感じることもあります」

さらに、ADHD傾向の人は衝動性が強く、叱責されるとカッとなって口論に発展することも少なくない。上司の立場でADHD傾向があった場合、話し合いの中で出てしまった言動がパワハラと受け取られるリスクもある。

また、善意のつもりでもNGな対応がある。

「もしかしてグレーゾーンかも。受診したら?」などのアドバイスが、結果的に本人を傷つけハラスメントになってしまうことも。

仲良くなろうとして肩をポンと叩くなど、ボディタッチも避けた方がいい。

感覚過敏の人にとって、軽いボディタッチは強い不快感を引き起こす。居酒屋で爆発したAさんのケースも、こうした積み重ねが原因だ。

それぞれの特性に合った対処法とは

では、どう対応すればいいのか。最も効果的かつシンプルなのは環境調整だ。

「音に敏感な人はコピー機から離れた席にする。この人とだけは合わないという場合は席を離す。
居酒屋での懇親会が苦手なら、静かな個室にしたり、参加自由制に変更することです」

ASD傾向の人には、理由を添えて説明することも有効だ。

「会議で相手を論破してしまったDさんのケースでは、『今の言い方は相手を傷つけたと思うよ。なぜなら、人前で否定されると面子を潰された気持ちになるから』と伝えるといいと思います。感情論ではなく、論理で説明することで理解しやすくなります」

人事や管理職がグレーゾーンについてある程度理解を深めることができれば、対応は変えることができる。

「『ただのわがまま』と捉えるか、『環境を整えれば改善できる特性』と捉えるか。組織として理解することが、お互いの生きやすさにつながるのです」

管理職にしない、適材適所に配置する、といった人事の調整も有効だ。細やかな配慮の積み重ねが、職場全体のストレスを減らしていく。

「もしかして自分も?」セルフチェックと相談先

自分がグレーゾーンかもしれないと感じたとき、どう判断すればいいのか。

「一番のヒントは、今の職場環境に無理なく適応できているかどうかです。

遅刻を繰り返す、指示が理解できない、周囲とうまくいかない……こうした困りごとが続くなら、グレーゾーンの可能性があります」

相談先は困りごとによって異なる。職場の騒音が気になる場合は、上司や人事に「静かな席に変えてほしい」「耳栓の使用を許可してほしい」と配慮を求めることができる。

職場で相談しづらい場合は、発達障害の専門医がいる病院の受診も一つの方法だ。


「受診するときは、『発達障害かもしれない』とはっきり伝えることが重要です。曖昧だと、適応障害やうつ状態の診断だけで終わってしまうことがあります」

何より大切なのは、一人で抱え込まないこと。周囲の理解と適切な環境調整があれば、グレーゾーンは必ずしも「障害」にはならず、「特性」としてとらえることもできる。

そうすることで、職場でもプライベートな人間関係でも悩むことは少なくなり、ぐっと生きやすくなるだろう。

<取材・文・写真/安倍川モチ子>

【舟木彩乃】
心理学者(筑波大学大学院博士課程修了/ヒューマン・ケア科学博士)。公認心理師・精神保健福祉士。官公庁カウンセラー。株式会社メンタルシンクタンク(筑波大学発ベンチャー)副社長。博士論文の研究テーマは「国会議員秘書のストレスに関する研究」(筑波大学大学院専攻長賞受賞)。カウンセラーとして約1万人の相談に対応し、中央官庁や地方自治体のメンタルヘルス対策に携わる。Yahoo!ニュース エキスパート オーサーとして「職場の心理学」をテーマにした記事・コメントを発信中。

【安倍川モチ子】
東京在住のフリーライター。 お笑い、歴史、グルメ、美容・健康など、専門を作らずに興味の惹かれるまま幅広いジャンルで活動中。X(旧Twitter):@mochico_abekawa
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