平日、朝8時。待ち合わせの渋谷駅ハチ公前広場にお手製のヒーローマスクをかぶった、黒と白のスーツに金色のアーマーを付けた男が現れた。彼こそ、アルバイトを掛け持ちしながら、8年間にわたってゴミ拾いを続けている“リアルライフヒーロー”ことスミレンジャーZさん(29歳)だ。ゴミ袋や特製のほうきとちりとりを大柄のキャリーカートに載せた彼は、道玄坂を登りながら淡々とゴミ拾いを始めた。
「早朝に清掃業者が入るのでパッと見はきれいなんですけどね」
そう話す彼が、道路沿いの穴が開けられた配電盤や壊された車止めに手を入れると、紙くずやペットボトル、空き缶、食べ残しの生ゴミなどが詰め込まれていて、まるで即席ゴミ箱だった。ほかにも、排水溝にはふやけた吸い殻が浮かんでいて、それを手やトングを使ってゴミ袋に入れていった。
大通りから裏路地に入っていく。ラブホテル街に向かう階段は路上飲みスポット化していて、酒の空き缶やウイスキーの空きビンなどが散乱。また階段と雑居ビルの隙間をほうきで掃くと、使用済みのゴムやら「ラブブ」らしき人形、精力剤の空き瓶まで現れた。スミレンジャーZさんは、「エリア的には使用済みのオトナのオモチャ、コスプレ衣装なんかも多い。
渋谷のゴミが減らない理由は「利権絡みの構造」
クラブ帰りの若者や通勤に急ぐ社会人が、彼の横を通り過ぎていく。立ち止まるのは、 “本物”と勘違いして面白がる訪日外国人ぐらいだ。「注目されるためにやっているわけじゃないし、パフォーマンスではない。朝10時までには終わらせないと通行人が増える。トラブルに巻き込まれたというヒーローもいる。だから黙々とやるだけ」
約1時間半の清掃で、200リットル収納の大型キャリーカートは、ゴミ袋10袋近くでぱんぱんに。近くの公園でゴミの分別をしたら、最後に活動記録として収拾したゴミの山を写真に撮ってXに投稿。これにて本日の任務は完了だ。
「ゴミ箱を増やすのがいちばん効果的ですが、行政は『区民の税金で負担を強いるわけにはいかない』として拒んでいる。しかし、それはゴミがなくなったら問題ありきのビジネスが止まる。
多くの政党から「議員に興味ないか?」と誘われているそうだが、「現地の目線を持って身近な問題を解決する地域のヒーローでいたい」と断っている。
ヒーローの自宅は家賃5万円のワンルームで「質素な生活」
そんなヒーローはどんな私生活を送っているのか。スミレンジャーZさんが住んでいる杉並区・方南町の自宅にお邪魔した。駅から15分ほど歩いたところにある家賃5万円のアパート。6畳のワンルームに通されると、幼少期から好きだというヒーローのフィギュアがたくさん置かれていた。そんな彼がボランティア活動に目覚めたのは、14歳だったという。「4歳年上の兄が優秀で、中学では生徒会長を務め、成績はいつも学年トップだった。親には『兄を見習いなさい』と何度も言われていました。幼い頃から発達障害を抱えていた私は、学校の勉強についていけずに中学ではいじめの対象になってしまい、不登校になりました。自宅に引きこもっているときに知り合いから誘われたのが、保育園で子供保育をするボランティアだったんです。自分は落ちこぼれだと思っていたけど、保母さんや子供たちから『ありがとう』と言われたことが嬉しくて、ボランティアにのめり込んでいきました」
それから前身のヒーロー“スラウザー”として活動を開始。
「活動初期に会いに行き交流が始まり、精神的に病んでいたときにも励ましてくれました。師匠はお世辞にも仕事ができる人ではないけど、とにかく地域の人たちに愛されている存在。本人も誰かに自慢するわけでもなく、コツコツ継続している。その姿勢は、私の今の活動の信念にも繫がっていると思います。師匠はすでに引退されていますが、“方南町”と書かれたこのプロテクターと思いは引き継いでいます」
ヒーロー活動が理解されずに29歳で婚約破棄を2回経験
ダンボール箱が積み重なった部屋は、ひとり暮らしという雰囲気。どうしても気になるのは、ヒロイン(彼女)の存在だ。尋ねると「今年30歳になるんですけど、実は2回も婚約破棄してるんです」と衝撃のカミングアウト。「これまでの彼女は、ヒーロー界隈やボランティア活動を通じて知り合った人が多いんです。
今後のリアルライフヒーロー活動については、「どうにか続けていくための環境を整えていきたい」と話す。
「スミレンジャーZがXで話題になって取材されるようになって、ずっと見返したいと思っていた兄が『あいつはすごいな』と言ってくれていたと母から聞きました。ただ、両親からは『自分の好きなことをやるのも大事だけど、日々の生活も大事だ』と心配されています(苦笑)。今のところ足りてないのは、収入ですね。調子いいときはヒーロー活動だけで食べていけるんですけど、稼ぎが少ない月はタイミーを入れて頑張っています。昨年は年収200万円ぐらいだったので」
そんな大変な状況でも、「ゴミ拾いは自分の使命だ」と話すスミレンジャーZさん。清掃中に渋谷のスクランブル交差点で信号待ちをしていると、小学生の集団から「かっこいいじゃん、ありがとう。自信を持って!」と声援を受け、それに手を上げて応えていた。お金には変えられない小さな感謝がヒーローにとっての生きがいなのだ。
―[ゴミを拾う覆面ヒーローに密着]―
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