2月3日、退職代行モームリを運営するアルバトロスの社長・谷本慎二容疑者と妻の志織容疑者が、弁護士法違反の容疑で逮捕された。容疑者らは提携弁護士らに法律事務を斡旋し報酬を得たとされている。
一方、転職を経験した20代の5人に1人が退職代行を利用しているとの調査結果も(マイナビ’24年公表)
元放送作家・鈴木おさむ氏は今回の逮捕報道が“便利な悪役探し”に終わることへ警鐘を鳴らす。(以下、鈴木氏による寄稿)

「モームリ」社長逮捕に鈴木おさむが感じた“小さな違和感”。退...の画像はこちら >>

退職代行を断罪する前に、「辞められない」社会の異常性に向き合うべきだ

退職代行「モームリ」の社長らが逮捕された。弁護士資格がないにもかかわらず、報酬目的で顧客の勤務先との交渉事務を提携先の弁護士らに斡旋したことが、非弁行為にあたるとのこと。だが、今回のニュースの何が問題で逮捕に至ったのか、中身をきちんと理解しないまま、「退職代行の代表が逮捕された」という事実だけが独り歩きしている気がする。結果として、「やっぱり退職代行は怪しい」「退職代行=悪」という雑なレッテルを貼りたい人が、少なからずいるのではないか。

昨年くらいから僕の周りでも「昨日、退職代行から連絡が来て……」と話題に上るようになった。辞められる側からしたら、退職代行は迷惑なサービスだとネガティブな気持ちになる人も多いだろう。だから「逮捕」と聞き、「やっぱりな~」と思いたい。ただ、退職代行がなぜここまで一気に広まったのか? それは「辞めたい」と言えない人が、想像以上に増えたからだ。利用者に対して「甘えだ」「逃げだ」「自分で言え」という声は根強い。

でも、その「自分で言え」が簡単ではないことを本気で想像している人は、どれぐらいいるのだろう。辞める意思を伝えた瞬間、「お前はどこも通用しない」と言われ、人格を否定され、脅され、感情をえぐられる経験をした人も少なくない。それでも「直接言うのが社会人だ」と言い切れるほど、今の職場環境は健全なのかと思うこともある。


代行を依頼する社会こそが異常

もちろん、退職代行のすべてを肯定するつもりはない。乱暴な運営、誇張された広告、問題のあるやり方があったなら、そこは正されるべきだ。今回の件も、そうした文脈で検証される必要がある。ただ、だからといって、退職代行の仕組みそのものを「悪」と断じるのは、あまりにも短絡的だ。追い込まれ、心が限界に近づいた人にとって、退職代行は「逃げ道」であると同時に、「生き延びるための装置」でもある。逃げることと、壊れないこと、この二つは、決してイコールではない。

退職代行は、本来いらないサービスだと思う。なぜなら、辞める自由は最初から労働者にあるはずだからだ。それを“代行”してもらわなければ行使できない社会こそが、異常なのだと思う。誰かを悪者にすれば話は簡単だ。でもそれでは、同じ問題が形を変えて繰り返されるだけだ。退職代行は、社会の歪みを映す鏡だ。
鏡を叩いても、映っている現実は消えない。本当に向き合うべきなのは、その奥にある構造のほうなのだと思う。

「モームリ」社長逮捕に鈴木おさむが感じた“小さな違和感”。退職代行を断罪する前にやるべきことがある
鈴木おさむ
<文/鈴木おさむ>

【鈴木おさむ】
すずきおさむ●スタートアップファクトリー代表 1972年、千葉県生まれ。19歳で放送作家となり、その後32年間、さまざまなコンテンツを生み出す。現在はスタートアップ企業の若者たちの応援を始める。コンサル、講演なども行っている
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