若い頃に行う上京は、大きな期待もある反面、相応の不安も付きまとうもの。滝田啓司さん(仮名・36歳)は、安心して上京生活を送るために選んだ行動で、トラウマになるような経験をしたという。

更新のたびに家賃が上がるのに「離れられない」住人たち…地方出...の画像はこちら >>

「大家の人柄」で新居を決めた

「大学入学とともに地方にある実家を出て、都内で一人暮らしを始めました。選んだのは大学の近くにあるアパートで、住人の多くが同じ大学に通う学生でした」

アパートの隣には大家が住む一軒家がある。大家は大柄な年配女性で、彼女の人柄の良さが家を選ぶ際の決め手になったという。

「大家は自分のために住人の大学生を集めて、歓迎会を開いてくれました。近くに知り合いもいない中での上京だったので、先輩たちとつながりができたのはとてもありがたかったです」

私生活に侵入してくるように

大家は困りごとがあると相談に乗ってくれ、時には「ご飯を食べにおいで」と誘ってくれた。上京してきたばかりの滝田さんにとって頼もしい存在でもあった。

「うちの親は過保護でなんでもやってくれていたため、一人暮らしを始めて、自分の至らないことに色々と気づくことになりました。大家から挨拶や洗濯物の干し方などを指摘されるのも、最初のうちはありがたかったんです」

だが、次第に大家の発言が気になるようになっていった。

「気心が知れてくると『大学で女の子と話していたらしいね。彼女かい?』と言われたり、『語学の単位を落としたらしいね。ちゃんと勉強しなよ』など、大家に話してもいないことであれこれと指摘されるようになったんです」

家賃が上がっても「離れられない」住人たち

だんだんと居心地の悪さを感じるようにもなったという。

「アパートの先輩に聞いてみると、大家は同じアパートに住む住人から情報を集めているらしく、直接話をしていないことも知っていたりすると言われました。ですが、先輩はそのことに違和感を持っていないようでした。大家に全幅の信頼を置いているようで、『このアパートから離れられない』とまで語るのはどうかと思い……」

ある時、その先輩から「大家と一緒に旅行に行くが、君もどうか」と誘われた。

「旅行に行くほど仲が良かったわけではないので、さすがに断りましたが、繰り返し誘われることになり、断るのに苦労しました。
どうも一部の住人は大家を過剰なまでに信頼しているらしく、だんだんと怖く思うようになったんです」

アパートの住人の中には卒業生もいるが、その中には、転勤の辞令が出たものの、このアパートを退去するのが嫌で退職した人間もいるのだという。

「先輩によると、アパートは更新のたびに家賃が上がるそうでした。『ここに住めるなら家賃が上がるのもたいしたことじゃない』と言われたのですが、自分は共感できませんでした」

バイトの誘いを断ったら態度が冷たく…

ある日、大家に「あんた、バイト先の子に振られたらしいね」と笑われたことがあった。

「また干渉してきたと思いましたが、ふと考えると変なんです。住人たちや大学では、その話をしていなかった。部屋でバイト先の友人に電話で話をしただけのはずなので、怖くなりました」

その後も、大家から怪しい自己啓発本を読むよう何度も勧められたり、どう考えても割に合わなそうなバイト先を紹介されたりと干渉が続いた。

「バイトは大家の親族がやっている会社の倉庫で行う肉体労働で、時給は相場よりもかなり低く、最低賃金に近い条件のものでした。なので断り続けていたのですが、次第に大家の態度が冷たくなっていきました。挨拶しても無視されたり、裏で『あいつは人間性が低いからまともな社会人になれない』と陰口を言われるようにもなって」

引越しを決めたら嫌がらせをされるように

嫌気がさした滝田さんは、2年を経たずに引越しを決めた。

「大家に何度も引き止められましたが、それでも態度を変えないと攻撃されるようになりました。大して物音を立てていないのに、『騒音で苦情が上がっているから静かにしろ』と怒鳴られたり、1階のベランダに干していた服に、何かわからない茶色のシミをつけられるようにもなったんです」

さらには、他の先輩からも敵視され、夜中に部屋のドアを蹴られたり、貸したノートが返ってこないなど嫌がらせをされるようになった。

「退去を承諾してもらい、引越しが終わるまでの間、ストレスが酷くて、頭がぼーっとするような頭痛に悩まされ続けました。あんな経験、二度としたくないですよ」

その後、アパートの周囲を歩くのも嫌で、引越したあとも遠回りして通学していたという。
いったい、あの場所は何だったのか。いまだに思い出すことはあっても、結局答えは出ないままだそうだ。

<TEXT/和泉太郎>

【和泉太郎】
込み入った話や怖い体験談を収集しているサラリーマンライター。趣味はドキュメンタリー番組を観ることと仏像フィギュア集め
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