―[連載『孤独のファイナル弁当』]―

『孤独のグルメ』原作者で、弁当大好きな久住昌之が「人生最後に食べたい弁当」を追い求めるグルメエッセイ。今回『孤独のファイナル弁当』として取り上げるのは「おにぎり」。
果たして、お味はいかに?

『孤独のグルメ』原作者が「おにぎり」の具に迷う。人生最後に食...の画像はこちら >>

孤独のファイナル弁当 vol.23 「おにぎり2個と味噌汁弁当、だが」

 今、御茶ノ水の名酒センターという酒屋にて、ボクのイラスト展をやっている。(※編集部注:執筆時の状況、現在は終了しています)

 その作品搬入の日、お腹が空いていたので駅の近くのおにぎり屋で、おにぎり2個を買い、コンビニでカップ味噌汁を買った。

 ところが仕事場に着いた途端、作品を運ぶ車が到着してしまい、結局味噌汁は作らず、おにぎりは車の中で食べた。

 おにぎりを買う時「あ、このおにぎりをファイナル弁当にしよう」と思った。

 そしたら急におにぎりの具のセレクトに考え込んでしまった。これが一生の最後の2個だとしたら、何おにぎりを食べるべきか?

 定番のシャケか。しかし、ファイナルに定番の必要はあるのか? あるはずがない。

 一番よく食べるのは最近何周かして梅干しだ。何周、というのは自分でお金を出しておにぎりを買うようになってからだから、もう40年以上になる。40年もの間、俺はおにぎりを買う時迷い続けてきた。絶対焼きたらこを入れていた時期もあった。それが明太子に取って代わられ、また焼きたらこに戻って、今もたらこは好きだ。
でもたらこを買って、もう一個を梅干しにすることも増えた。

 梅干し、ごはん、海苔、このシンプルな組み合わせに今立ち戻って、俺の食欲が梅干しおにぎりを欲している時期かもしれない67歳。

 だけど、平均して最近よく買うおにぎりでいいのか、ファイナルが。自分にとって「平均」が正しいか? 違うだろう。

 今日は妙におかかのおにぎりが気になる。なぜだろう。たぶん、先月ぐらいに東海林さだおさんのエッセイを読んで、そこにおかかのおにぎりのことが書いてあったのが残っているんだと思う。そこには「おかかのおにぎりは、人気順位が低いが自分は絶対に好きだ、なぜならああでこうだからだ、だからおにぎりにおけるおかかの人気順位をなんとか引き上げたい」というようなことが書いてあって、それを読んだとき猛烈におかかのおにぎりが食べたくなったのです。

 それでファイナルがおかか? それを食べて「うん、東海林さん、確かにおっしゃる通りです」と納得して終わり。それでいいのか。俺のファイナルだぜ。他人の説を確認して終了は寂しいだろう。


 となると何を食って納得して死ぬか。

 え、納得? 納得のために食うのか?

 もうだめだ。並んだおにぎりを前に混乱するばかりで時が過ぎていく(それで車が来ちゃって味噌汁が飲めなかったのだ)。

 結局、いくらのおにぎりと、高菜の包みおにぎり葉唐辛子入り、の2個を購入。走っている夜の車の助手席で食べた。今そのことを書こうとして、あまり思い出せない。割とおいしかったような気がする。それでおしまいか。きっと、これでいいのだ。

『孤独のグルメ』原作者が「おにぎり」の具に迷う。人生最後に食べるならと悩んで選んだ2個/久住昌之
おにぎりの具に悩み続けて40年。今は梅干しのターンであり、おかかも気になるが、この日選ばれたのは「いくらのおにぎり」と「高菜包みおにぎり葉唐辛子入り」だった


―[連載『孤独のファイナル弁当』]―

【久住昌之】
1958年、東京都出身。漫画家・音楽家。代表作に『孤独のグルメ』(作画・谷口ジロー)、『花のズボラ飯』(作画・水沢悦子)など。
Xアカウント:@qusumi
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