すでに短期滞在外国人による“ヒットアンドアウェー型”犯罪は増加傾向にあり、元当事者や現地事情に詳しい関係者は「受け子だけでなく強盗への転用もあり得る」と警鐘を鳴らす。国境を越えて進化する犯罪ネットワークの実態と、日本の治安が直面するリアルなリスクを追った。
日本人にとって新たな脅威が浮上
「特殊詐欺の王がついに、司直の手に落ちた」今年1月、カンボジアから発信されたニュースは一筋の光明に見えた。日本はもとより、欧州、アメリカ、中国本土にまで特殊詐欺をグローバルに展開していたプリンスグループのトップ、陳チェンジー志が身柄を拘束され、中国へ移送されたのだ。
「福建省出身で中国からカンボジアに渡った陳は30代という若さながら、カンボジア国内に『園区』と呼ばれる複数の大規模詐欺拠点を持ち、カンボジアの政権にも食い込んでいた特殊詐欺界の超大物です。彼が逮捕されたことにより、カンボジアでは特殊詐欺拠点の摘発が相次ぎ、大慌てで引っ越しをする映像が連日報道されています」
そう語るのは、アジアの犯罪事情に詳しいジャーナリストの泰梨沙子氏だ。だが、朗報の裏で我々日本人にとって新たな脅威が浮上している。
「関係者の一部はタイやミャンマー、ラオスといった近隣国に国外脱出していますが、日本も選択肢として挙がっています。中国人コミュニティが既に存在する日本は、彼らにとって魅力的な逃亡先のひとつのようです」
国籍を洗浄して来日する詐欺集団の構成員たち
陳をはじめとするカンボジアで活動していた特殊詐欺グループの元締たちは、中国出身者が大半を占める。カンボジア在住で現地事情に詳しい小市琢磨氏が解説する。「いわゆる二重国籍状態で、彼らが中国本土に送還されれば重刑は免れない。だから彼らはバヌアツやキプロスといった第三国のパスポートを取得し、国籍を洗浄。そのうえで日本へ入国するという段取りを踏む。
日本では経営・管理ビザ制度などを悪用し、ペーパーカンパニーをつくって長期滞在資格を得るという流れが出来上がっています。日本法人に犯罪収益金を移し、タワマンを買い、家族を呼び寄せて優雅に暮らす。こんな事例が多数あると聞いていますよ」
実行部隊までもが日本へ流入
「特殊詐欺グループで最も先鋭化したのは、ルフィグループでした。彼らは現金が置いてありそうな家を下調べしたうえ、直接乗り込んで強奪するアポ電強盗を全国展開して死者まで出した。
ルフィらが使ったのはSNSで募集した闇バイトでしたが、今後、海外から来た特殊詐欺従事者が同じことをするのがトレンドになると思います」
特殊詐欺の受け子にしているケースはすでにある
そう語るのは、自身が特殊詐欺に関わっていた過去を持つA氏である。「カンボジアで詐欺をしていた現場の末端連中を日本に呼び寄せ、特殊詐欺の受け子にしているケースはすでにあります。日本に短期滞在させて現金の回収役や運搬、ATMから特殊詐欺で得たカネを下ろす役割を担わせ、一件あたり10万~20万円を支払う。
そういう現場を短期滞在中にいくつも踏ませるんです。航空券と宿が無料だと声をかければ、簡単に人は集まります。こいつらがあまりに使い勝手がいいので、受け子だけでなくタタキ(強盗)やアポ電強盗に手を染めさせる未来は容易に見えますね。僕が知っている例で言うと、目を失明させるレベルの怪我を負わせて日当30万円を受け取り、犯行当日に出国したケースがありました」
監視、拷問役を担ってきた末端構成員があぶれている
「特殊詐欺グループの幹部連中は自分たちのことを経済マフィア、知能犯だと自任しており、暴力沙汰に積極的ではありません。だが、カンボジアの詐欺拠点で人集めや拷問役を担っていた末端の構成員はその限りではない。彼らがカンボジア国内で宙ぶらりんとなっているなら、確かに危険な犯罪の担い手をリクルートするのに最適な場所になるかもしれませんね」
警察当局も手をこまねいているわけではない
むろん、警察当局も手をこまねいているわけではない。徳島県警捜査一課で長年、凶悪犯罪と対峙してきたリーゼント刑事こと秋山博康氏はこう語る。「昨年、特殊詐欺の被害額は1000億円を超え、過去最高を記録。警察を騙る手口も横行し、メンツをつぶされた警察庁の怒りは頂点に達しています。訪日外国人による“ヒットアンドアウェー型”の犯行が増えていることも当然把握しており、ICPO(国際刑事警察機構)やアジア各国の警察当局との連携に力を入れ、特殊詐欺撲滅に本腰を入れている。
先日、二次団体としては異例の特別対策本部を立ち上げた住吉会の幸平一家など日本側の“大元”を摘発しようと集中的に動いています。それだけ脅威が根深いということです」
国境を越え、法制度の隙間を縫って変幻自在に姿を変える犯罪者たち。カンボジアの園区で醸成された犯罪ノウハウと人材は、いまや日本という新たな宿主を見つけ、増殖を始めている。街ですれ違った訪日観光客が、冷酷なミッションを帯びた“使い捨ての兵隊”かもしれない――。
共同通信系メディアを経て’21年に独立。タイ、ミャンマー、カンボジア、ラオスなど東南アジアの政治・経済、人道問題について執筆
【カンボジア日本人会会長 小市琢磨氏】
カンボジアで日本人会会長を務め、現地の事情に精通。noteで「カンボジア太郎の備忘録」を執筆するなど、さまざまな情報を発信
【元徳島県警刑事 秋山博康氏】
元徳島県警捜査一課警部、通称は「リーゼント刑事」。31年間の刑事人生を経て現在は犯罪コメンテーターとして活躍中
取材・文/週刊SPA!編集部
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