その一方で、定年後の再雇用を巡り、高齢社員のメンタル崩壊が静かに増えているという。大幅な給与減と権限喪失、年下上司との関係に苦しむ当事者の証言から、制度の光と影に迫った。
メンタル崩壊を起こす高齢社員が続出
昨年4月、改正高年齢者雇用安定法が施行され、すべての企業に「希望する社員には65歳までの再雇用(または定年延長、定年廃止)」が義務づけられた。定年後の仕事継続、収入確保がしやすくなった一方で、メンタル崩壊を起こす高齢社員が続出している。「一昨年、60歳で定年を迎えましたが、再雇用を希望し、定年前と同じ部署(営業系)で今も働き続けています。業務内容はほぼ同じですが、給与、待遇、扱われ方には天と地の差があるのが現実で、想像以上に過酷。ストレスで精神安定剤が手放せなくなりました」
給料が下がるのはいいが…
こう語るのは、定年前まで大手重機製造会社で営業系の部長を務めていた湯原宏さん(仮名・62歳)。“現役時代”の年収は最高で約1200万円だったというが、定年後、嘱託社員として再雇用されてからは500万円程度に減額となった。「給料が下がるのはいい。けど、何の権限もないのがこれほど苦しいとは。元部下から明らかに判断ミスと思われる指示が来ても、黙って従うしかありません。収入が下がったことで、女房からも軽く扱われているような気がして……些細なことでカッとなってしまい、家庭にも居づらい」
「老害扱いに耐えきれず辞表を叩きつけた」
「金融やメーカーの場合、最低でも現役時代の5割はもらえる。しかし、斜陽産業の出版系は、3分の1、下手すれば実質的に4分の1です。私は住宅ローンが70歳まであるうえ、息子は来年大学受験。
でも、不動産管理業務とは名ばかりで、要は倉庫の掃除係。簡単な業務とはいえ勝手がわからないことを年下の上司に聞くと、老害呼ばわりされました。社畜以下の扱いです。こんなことなら経済苦のほうがマシだと思って辞表を叩きつけた。後悔しても仕方ないので、今は求職中です」
定年後の再雇用は“意識変革”が必須
高齢者の就労問題に詳しいリクルートワークス研究所研究員の坂本貴志氏は、定年後の再雇用は“意識変革”が必須だと語る。「法改正によって65歳まではよほど問題がない限り、これまでの会社で働くことができるようになり、年金受給まで一定の収入を得る道ができた。一方で、従業員の職務やその成果に見合った報酬体系を設計できていない企業もまだあります。
従業員側としては、自社の人事制度を正確に理解したうえで、長く勤めてきた会社で働き続けるか他社に移るかを選択する必要があります。これまでの会社で働き続けるのであれば、上司としてのプライドを捨て、目の前の実務にいかに向き合うかを意識する必要があるでしょうね」
人生最後のアップデートの成否が老後を左右するのだ。
【リクルートワークス研究所 坂本貴志氏】
リクルートワークス研究所研究員。一橋大学国際公共政策大学院を経て、厚生労働省入省後、民間で活躍。
取材・文/週刊SPA!編集部
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