金利2%シナリオの壁。日銀利上げの現実ライン
「政策金利が0.75%になり、長期金利は節目となる2%台を利上げ前から超えていました。だからといって、『政策金利も2%台になる』と考えるのは早計です。実はリーマンショック前の2006年にも10年国債の利回りは一時2%に乗せたときもありました。現状、長期金利が2%を超えたからといって大騒ぎするものではありません」そう話すのは業界歴35年超えのベテランFP深野康彦氏だ。今後の日銀がどのように政策金利を動かしていくかについて、氏はこう予想する。
「日銀の植田総裁は、『賃金や物価の上昇の持続性や上昇ペースを見て多用な視点から判断していく』と話しています。これから3月に出る春闘での賃上げの状況や、消費者物価指数などインフレの状況を加味した上で利上げを行っていくでしょう。今年2026年中に1回の利上げで政策金利は1%へ。来年2027年に利上げできて2回。政策金利は1.5%が現実的な水準ではないでしょうか」
長期金利の10年国債が2%台に乗っていても、政策金利が2%にまで上がるには至らないという。
国外発の金融ショックが政策金利2%の引き金に!?
「そもそも、政策金利が2%に上がるためには、0.25%の利上げが少なくともあと5回必要です。今回の利上げは2024年春のマイナス金利解除が1回目で、既に3回上げている。過去を振り返ると日銀が5回連続で利上げをしたのには1979年~80年にまで溯ります。更にその前では1973年~75年には連続で8回利上げをしています。この時、何があったかというと中東戦争に端を発する『オイルショック』です」オイルショックと言えばトイレットペーパーの買い占めパニックなどが発生したと社会の授業で習った人も多いはず。このときインフレ率は15%~20%の上昇を記録している。1970年にかけうどん1杯100円程度だったのが、5年後の1975年には倍の200円になるようなインフレだった。
「当時の政策金利は年利8%台になっていました。裏返せば、今から政策金利が2%になるためには、毎年5%以上の物価高が続く必要がある。現状の原材料高と賃金上昇のコストプッシュインフレに加えて、需要が供給を上回るディマンドプルインフレになるには、オイルショックのような海外情勢の変化が起きているはずです」
石油周りの国際情勢と言えば、奇しくも2026年1月にアメリカがベネズエラを攻撃したり、アメリカとイランの攻撃で原油高になる可能性も指摘されているが……。
「トランプ氏は今年2026年に中間選挙を控えていますからあまり物事を荒立てる手段には出づらいでしょう。原油価格も60ドル台とそこまで上がっておらず落ち着いている状況です。
1973年の第一次オイルショックの引き金になったのはイスラエルとエジプトやシリアをはじめとするアラブ諸国とで勃発した中東戦争で、79年からの第二次オイルショックはイラン革命を契機にしている。「歴史を動かすような大きな出来事が起きない限りは日本の政策金利も2%台にはいかない」と深野氏は断言する。
「それだけに景気がどうなるかが重要です。アメリカもインフレが落ち着いてきて景気もしぼみつつある状況です。EUもあまり景気が良いとはいえません。元々EUでは2030年までにガソリン車の新車販売を禁止するとしていたのですが、それを撤廃しました。それだけ経済の状況が厳しいわけです。欧米がこぞって利下げなのに、日本だけ利上げの状況にあることを理解しておきましょう。私の予想としては政策金利2%に乗せるシナリオは大分低いのではと思っています」
10年国債はまだ買い時か
昨今は日銀の利上げもあり日本の10年国債が節目の2%台に乗ったことが報じられているが……。果たして、今日本の国債は買いなのだろうか。「利回り2%台に乗った10年国債の投資の対象にするのはまだ早い、ですね。打診買いならばまだしも正直、この水準で10年の固定はしたくありません。
日本国債の利回りが上がっているからといって、今すぐに多くの資産を日本国債に投入するのは考え直したほうがいい、というわけだ。
「そのなかでは、1年以内の金利が高い定期預金を選び、毎年繋いでいくという手もあります。当面使う予定のないお金は定期預金に入れて、金利収入を得る。今は金利の上昇局面ですから、つなぎとして使って、ピーク圏が来たら5~10年物の定期預金に入れる。あるいは10年固定の新窓販国債などを購入すればよいのです」
バブル期以前にはこの方法で財を成した人も一定いたのだそう。時代は巡って金利がある世界になったからこそ、もう一度通用する手法である。同時に深野氏はこれまで持て囃されていた高配当株への投資は要注意と指摘する。
「2026年の高配当株は『逆利回り革命』が終わり厳しい年になる可能性があります。これまで株式投資の配当利回りよりも、債券の利回りが低い状態が続いてきましたが、これは『逆利回り』と言います。本来の正常な経済の状態だと株の金利よりも債券の利回りの方が高い状態になる。
まだ、TOPIXの利回りと長期債券を比べると株の方が上回っているが日経平均の単純平均とで比べると株の利回りのほうが下回っている。故に、高配当株を買っていれば安心ではなく、厳選して株を購入する必要性が出てくるのだ。
利上げで地銀の再編が進む!?
もう一つ、深野氏は今後の日銀の利上げに伴って大きく変わるのは金融セクターの特に地銀や信用金庫などであると指摘する。「金利が上がるなかでは、地銀の再編が進むのではと考えています。金利の上昇により地銀や信用金庫は債券の含み損が積み上がっています。銀行の場合はBIS規制があり自己資本比率を8%以上にするなどあまりリスク資産を持てない縛りがあります。すると、結果的に債券に投資するのですが、金利が上がると含み損になる。地銀の場合、2010年代以前に購入した債券が重しになり、単独で処理できない会社が出てきた場合には、金融庁も指導を行い金融業界の合併を進める可能性があります。大分、地銀の数も減ったとはいえ、金融庁は1県1行体制を諦めていないと思いますね」
利上げに伴うなかで、地銀の数が減ると覚えておけば、銀行セクターのなかでも狙い目になる株とそうでない株が見えてくるはずだ。利上げに関連して見ておきたいセクターなどはあるのだろうか?
「利上げにより円安が進む状況のなかで日本の産業で核になるものが正直難しいところだったりします。昨今ではIPビジネスで、ソニーやサンリオなどが注目されていましたが、やはり雇用を生み出すかと言われると厳しい。日本は社会インフラが老朽化している国でもあるので、建築業界のなかでも修繕に特化した会社はビジネスチャンスがあるのではと思います」
2026年の株式は上がりづらい年に!?
一方で深野氏は2026年の株価は難しいとも指摘する。「巷では日経平均株価が6万円台にという話もありますが……。
株に投資するなら医薬品や公共セクターである、電力株やガスなどが良いかも知れません。例えば、北海道電力などは泊原発の再稼働もあり収支がよくなりつつ、北海道にラピダスの大規模工場の誘致もあります。地方の電力株、あるいはデータセンターの建築需要がある電気工事関連株も狙い目かと思います。ただし、東京電力だけは原発の再稼働ができないのでダメです」
今後の日本株について、深野氏はどう考えているのだろうか?
「今のところ日本株において、日本発になるリスクはないと思います。10年単位でみたときに、7%の成長を考えれば、今後10年以内に日経平均株価が10万円の水準を付けるのはあり得ない数字ではありません。ちゃんと景気が良く、経済が成長して、賃金が上がって……。デフレ的な要素がなければ確実性は高いと思います」
一方でこんなシナリオについても深野氏は言及する。
「日本は比較的格差の少ない社会ではありますが、日本もアメリカや欧州のように『K字型の格差社会』が広まる可能性は十分になる。富める人はより富み、持たざる人はより持たない2極化が進む。
今後の景気がどう転ぶかも見越しながら。自分自身の資産戦略は考えてみては。
<取材・文/上野智(まてい社)>
【深野康彦】
ファイナンシャルリサーチ代表。大学卒業後、クレジット会社を経て独立系FP会社に入社。その後、1996年に独立し、現在の有限会社ファイナンシャルリサーチは2社目の起業。FP業界歴35年(2024年10月現在)を誇り、そのキャリアを通じて日本経済の浮沈を見守ってきた。メディア出演やセミナーを通じて、資産運用や住宅ローン、生命保険、税金、年金など幅広く「お金の知識」を発信している。著書『金利で損しない方法、教えてください!人気FPが教える金利上昇時代の「お金の新ルール」』
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