爆笑問題・太田光が高市早苗首相に“ぶっ込んだ”一件から、この危機的状況を考えます。
太田の質問に「なんか意地悪やなあ」
2月8日のTBS系の衆院選特番『選挙の日2026』で、太田が食料品にかかる消費税を2年間ゼロにするという高市首相の公約について、それが達成されなかった場合の責任の所在について問いただす場面がありました。これに対して高市首相が、「なんか意地悪やなあ」と関西弁を交え、「一生懸命いまからやるんですよ。できなかった場合とか、暗い話しないでください」と気色ばんだのです。
確かに緊張感漂うシーンでした。しかし、太田は特別厳しい訊き方をしたわけでもなければ、炎上上等で無礼を働いたわけでもありません。為政者に対する批判的な視点を保ちつつ、礼節を失わずに、有権者が知りたいところや押さえておくべきところをついていました。
どこから見ても、太田光の質問と振る舞いは報道番組の王道をいくものだったのです。
太田を批判する人たちが見逃していること
ところが、これがなぜか炎上しているのですから驚きです。ネット上では“太田は一国の首相に対する敬意に欠けている”とか、“先に失敗のことばかり指摘するからチャレンジする文化が育たない”などと、高市首相を擁護するようなコメントが多いのが特徴的です。加えて、SNSのインフルエンサーたちも、“そもそも太田の質問のロジックがおかしい”だとか、“チーフディレクターがお笑い芸人に本番前にスベったら責任取りますか、芸人辞めますかなんて言うかという話”などの論調で、太田の言動を批判していました。
しかしながら、太田を批判する人たちが見逃している点があります。それは、高市首相の「意地悪やなあ」という発言のズルさです。太田が首相という公人の職務について訊ねている最中に、このカジュアルなフレーズで「首相」の肩書をいったん外して、私人としての高市早苗を押し出して論点をずらしてみせたからです。
これは議論に負けない話術という面で見れば非常に巧妙であるけれども、一国の宰相として真摯さに欠けると言わざるを得ません。「意地悪やなあ」という言葉には、せっかく真剣に迫った太田をピエロにしてしまう屈折した策略がにじんでいるからです。
「首相を擁護する意見が多い」ことの問題点
もっとも、ここで高市首相の論法や性格についてあれこれ言っても仕方ありません。問題は、今回の一件でこのような姿勢を見せた高市首相を擁護する意見がとても多かったことです。なぜ問題なのかというと、答えは簡単です。為政者、権力者に対して、ここまで過保護な言葉が飛び交うことは異常事態だからです。
その背景には、政策的、思想的な共鳴以上に、だらしない感情的なもたれ合いが政治家と有権者との間に生まれてしまった昨今の風潮があります。高市早苗=自民党に投票した人たちが、自らの投票行動を正当化する必要を感じているために、ほんのわずかな批判的な視線をも敵視しなければならない精神状態ができあがってしまった可能性です。
つまり、有権者の政治を見る視線が、そこに全てを賭けるオールインになってしまっているのですね。これは自民党や高市首相を支持する人たちに限った問題ではありません。“自民党に投票するやつはバカ”とか“偏差値60以上なければリベラルの政策は理解できない”といった言葉も、野党にオールインという意味では同じだからです。
政治にまつわる言葉が極めて脆弱なものになってしまった
そこにはSNS選挙全盛の時代における、エコーチェンバー現象、そして、それが加速させる選挙の推し活化も影響しているでしょう。このオールインをする姿勢によって敵味方、白黒をはっきりつけるという状況が、政治にまつわる言葉を極めて脆弱なものにしているのではないでしょうか。
にもかかわらず、先般の選挙に関わる言論を振り返ると、このグラデーションとは程遠いやり取りばかりに終始していました。
それは、額面上の激しさとは裏腹に、何の重みも含みもない言葉が静かに沈殿していくように見えました。
つまり、今起きている深刻な事態とは、右翼や左翼、保守やリベラルといった対立などという甘っちょろい話ではないのです。極限まで液状化した地盤に、政治の言葉が埋もれていく。この白黒思考のガキのケンカに拘泥している限り、有権者の声が窒息していくのみ。その構図こそが、危機なのです。
太田光の問いかけに対する高市首相を保護する社会状況は、それを如実に映し出しているのです。
文/石黒隆之
【石黒隆之】
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。X: @TakayukiIshigu4
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