作家の乙武洋匡氏は「選挙は“誰のための制度”なのか。その前提が、今回の解散・日程設定で見失われていたのではないか」と語る(以下、乙武氏による寄稿)。
点字が利用できない環境で投票を迫られた障害者も…
先の衆院選は自民党の歴史的大勝に終わった。高市旋風が吹き荒れたと言っても過言ではない。しかし、結果はさておき今回の選挙のタイミングに疑問を抱いた人も少なくない。報道やネット上では「雪国の状況をわかっていない」「受験生にとって大事な時期なのに」といった批判の声は聞こえてきた。だが、メディアでさえあまり取り上げなかった問題がある。今回は“冬の総選挙”だったのと同時に、降って湧いた突然の選挙でもあり、それに伴って超短期決戦にもなった。そのために視覚障害者の方々が非常に不便な思いを強いられることとなったのだ。視覚障害者は晴眼者(視覚に障害がない人)と異なり、文字によるコミュニケーションが難しい。そのため、点字を利用する方が非常に多いのだが、点字を打刻するにはエンボス加工と呼ばれる、紙の表面に凹凸をつけて文字や模様を立体的に浮き上がらせる加工を施すことが必要になる。
しかし、今回の衆院選はあまりに突然の選挙だったこともあり、投票用紙にエンボス加工を施すことが間に合わず、視覚障害者が点字を利用できないという事態が起こってしまったというのだ。
このタイミングでの選挙の意義について
東京都選挙管理委員会はNHKの取材に対して、「選挙管理委員会というのは選挙を当然のことながら執行することが使命ですので、大変心苦しい判断にはなったんですけど、点字を施すことができない点字投票用紙を作ることになりました」とのコメントを残している。もちろん、選挙管理委員会には何の罪もない。上から降ってきた条件下で精いっぱいタスクをこなそうとした結果、どうしても収まりきらない“漏れ”が生じてしまったのだ。問題は「上から降ってきた条件」のほうにある。冒頭でも述べたように、雪国では投票以前に積雪でまともな選挙活動ができない地域も多くあった。車椅子ユーザーは、果たして大雪の中で投票所に行けただろうか。18歳で初めて投票する機会を持てた有権者も、自身の受験を控えて候補者について十分に調べる時間が取れなかったかもしれない。そして視覚に障害のある方々は点字を利用できない環境での投票を強いられた。果たして、このタイミングで選挙を行うことは適切だったのかという問いは、今回の選挙を機にしっかり検証されるべきだと考える。
【乙武洋匡】
1976年、東京都生まれ。大学在学中に執筆した『五体不満足』が600万部を超すベストセラーに。
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