しかし、今年は少し違っていた。アメリカ東海岸とは14時間の時差がある日本で、高市首相率いる自民党が衆院選で圧勝し、「スーパーボウル」の朝にこのニュースがアメリカに伝わった。日本初の女性首相が誕生して以来、アメリカのメディアは高市首相の動向をことあるごとに報じてきた。アメリカで高市首相は現在も高い注目度を維持しており、「高市圧勝」のニュースは「スーパーボウル」に埋没することはなく、アメリカに広がった。
「勝因分析」「マーケットへの影響」「右傾化への警戒」などアメリカのメディアは日本メディアさながらに幅広く「高市圧勝」について伝えたが、気になったのは、大衆紙の「べたぼめ」と、ローカルメディアの「さりげない批判」だ。二つの報道を合わせてみると、高市首相の対米外交の危うさが見えてくる。
保守系大衆紙「高市はとてつもなく新鮮な風を吹き込んでいる」
保守系の大衆紙「ニューヨーク・ポスト」は「高市圧勝」を社説で取り上げた。高市首相を「日本のマーガレット・サッチャー」と称し、「台湾問題で中国の支配層に毅然と立ち向かっている」「真の勇気を持つ指導者のもとに日本国民が結集しているのは素晴らしいことだ」と選挙結果を絶賛した。英国のサッチャー元首相を「憧れの人」と慕う高市首相にとっては、泣いて喜ぶような評価だった。
同紙は若い世代を中心に熱狂的な支持を集めたことを言い表した「Sanamania(サナマニア)」という言葉を使い「彼女の『サナマニア』の根底にあるのは、バイクへの愛なのか、ヘビーメタルのドラム演奏なのか、トレードマークのピンクのボールペンと黒い革のハンドバッグなのか、あるいは伝統的な道徳を堅持しつつもガラスの天井を打ち破り続ける独特のやり方なのかはともかく、彼女はとてつもなく新鮮な風を吹き込んでいる」と勝因を分析した。
サッチャー元首相だけでなく、選挙にはめっぽう強かったロナルド・レーガン元大統領とも重ねた。レーガン大統領が再選を目指した大統領選では、レーガン陣営が制作した「アメリカの朝」というテレビCMが話題となった。
一般市民の希望に満ちた朝の出勤風景を描写してレーガン政権の功績を表現したものだが、社説は「レーガン大統領が新たな『アメリカの朝』をもたらしたように、高市氏は、世界中の文明の力を強化しながら、日本を新たな活力のある未来へと導くことを約束している」と記している。
何を言っているのかよくわからないので、訳すのに苦労するが、高市首相をべたぼめしていることはよくわかる。
トランプ大統領は投票前に自身のSNSで高市首相について「強く、力強く、そして賢明な」指導者だと賞賛した。「ニューヨーク・ポスト」は保守的な白人労働者階級が主な読者でトランプ大統領を支持する新聞社だ。高市首相はトランプ陣営と、それを支持するメディアから全幅の信頼を得たことになる。
「サナエは保守化している」元インターン先議員の懸念を報じたリベラルメディア
一方で中道、リベラル系のメディアは、外国人対策強化や防衛予算増強問題、対中政策などに触れ、今後の日本の右傾化の動きを警戒しているが、コロラド州デンバーのローカルメディア「ウエストワード」は、高市首相が20代のころインターンとしてアメリカの女性下院議員の事務所で働いていたことを関係者の証言で振り返った。高市首相がインターンをしていたのは、米民主党のコロラド州選出のパトリシア・シュローダー氏だ。1972年に初当選し、24年間にわたり下院議員を務めた。’87年には大統領選への立候補が取りざたされたが、アメリカ政治の岩盤のような「男性社会の壁」に阻まれ出馬を断念した。不出馬会見で支持者の前で大粒の涙を流したが、高市首相はこの涙を見てシュローダー氏の事務所に連絡を取り、インターンとして働くことになった。
記事で、シュローダー氏の元広報担当者であるキップ・シュロウテス氏は「高市氏はシュローダー氏の教えをスポンジのように吸収した」と回想し、「彼女の成功はシュローダー氏が街頭で人々と接し、店に入り、あいさつをし、握手する様子を見てきたからだと思う。シュローダー氏から人とのつながり方を学んだのだと思う」と話している。
シュローダー氏が典型的なリベラル政治家であったのに対し、学んだ側の高市首相は超保守派。
リベラル議員に学びながら、超保守政策を掲げる高市首相
シュロウテス氏は「サッチャー氏の政治とシュローダー氏のスタイルが共存しているという矛盾。そこが私を面白がらせている」とも話しており、ともに働いた人々の戸惑いを浮き彫りにした。シュローダー氏は2023年に死去したが、シュローダー氏のスタッフらは現在も民主党とのつながりは強い。リベラルな議員の元で勉強しておきながら、現在は超保守的な政策を掲げる高市首相へのスタッフの感情は複雑で、「裏切られた」というような気持ちもあるかもしれない。
高市首相の若いころの情報は元シュローダー陣営から民主党の中枢に報告されているとみられる。高市政権が長期政権になった場合、トランプ後に民主党政権と向き合うこともありえる。その際はかなり厳しい視線が高市首相に向けられることになりそうだ。
高市政権がトランプ大統領べったりで対米外交を突き進むならば、大きなしっぺ返しをくらう可能性は高い。2期目就任1年を過ぎてトランプ大統領の支持率低下が深刻になっている。アメリカの「トランプ疲れ」は急速に広がる兆しで、トランプ政権の後を追う高市首相にも影響を及ぼしそうだ。
【谷中太郎】
ニューヨークを拠点に活動するフリージャーナリスト。業界紙、地方紙、全国紙、テレビ、雑誌を渡り歩いたたたき上げ。専門は経済だが、事件・事故、政治、行政、スポーツ、文化芸能など守備範囲は幅広い。
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