「田舎暮らし」に漠然と憧れを抱く都会人は多い。しかし、都会から見た「地方」は一種の幻想に過ぎず、その土地で生まれ育った人間にしかわからない「地元」がある。
実の娘とコンビを組む「完熟フレッシュ」のパパ・池田57CRAZY氏は、工業都市で知られる山口県宇部市の出身。同市の一角に、「宇部のサウスブロンクス(USB)」とも呼ばれる、ワイルドでファンキーな地域があった――。ハチャメチャな個性が入り乱れる街の記憶を綴った連載4回目をお届けする。

「九龍城」と呼ばれる中学校

完熟フレッシュのパパが中学時代に体験した、ヤンキー高校生との...の画像はこちら >>
57が通っていた中学は3つの小学校から進学者が集まる、当時山口県で1番のマンモス校だった。毎年春先には「No.1」や「マンモス」とグランドで人文字を作って航空写真を撮るのが恒例だったほど。

そもそも学校自体が古いのに、1学年500人ちょいいるので余裕で教室が足らずプレハブが建ちまくっている。他の中学の連中からは今はなき香港の無法地帯に引っかけて「九龍城」と呼ばれているような中学校だった。

ここまで読んで想像がつくとは思うけど、ちゃんと「荒れている」中学でもあった。

校内でガラスが割られたり、近隣の学校の人間がバイクで登場したりとかはまだ良いほう。ときには、授業抜けて何人かで屋根裏でサボッてたら重みで天井が抜けちゃって、授業中に天井から友達が降ってくることもあった。

「晴れ、時々人」って何?

腕力が強いだけではなかった

ここまで読んでると漫画の「クローズ」や「WORST」みたいな荒廃した血みどろな学校を想像する人がいるかもしれない。けど、古いボロい以外は人が多いにも関わらず、仲間意識が強いのか、なぜか皆、仲が良かった。

普通に考えたら絶対交わる事がなさそうな、めっちゃヤンキーと真面目な奴も、普通に教室で話していたりすることが日常。

まぁ、そういう得体の知れない感じが、街の中でも「オリジナル路線」を行っていると思われていたり、修羅の国と呼ばれていたりした理由みたいだけどね。


腕力が強いだけではなく、財力・地力・運動能力・コミュ力等、何かしらの能力を全部ひっくるめて「力」こそ全てというシンプルな空間だった。

まぁ、そんな中学だからヤンチャな人間も多いし、めちゃくちゃおっかない先輩も多かった。だけど、人の道から外れまくった人間は不思議といなかった。

「田舎だからじゃない?」と言われたらそれまでだし、「平和」かといわれればそうでもない…

ある程度は荒れてる学校だった。だけど、たとえるなら昔流行ったドラマ「IWGP」(『池袋ウエストゲートパーク』)で窪塚洋介が演じた「キング」が言っていた「悪い事すんなって言ってんじゃないの。ダセェ事すんなって言ってんの。」みたいな感じかな?

「ヘロヘロしちょったら、隙まみれで殺られるじゃろが!」薬物に厳しかった先輩たち

完熟フレッシュのパパが中学時代に体験した、ヤンキー高校生との決闘。「うちらの街でラリっちょんじゃねーぞ」と飛び蹴りを食らわせる同級生
JR宇部駅前
当時のことで、特に印象に残っているのは、「ラリってる奴には何をしても良い」という変なルール。

薬物に対してやたら厳しく、やった奴は主に先輩から、少~し強めに怒られたり、軽蔑されたりしていた。

山口の高校でシンナーが一般的では勿論ないですが、当時80年台のツッパリブームの頃、ツッパリ(ヤンキー)の間でシンナーを吸う奴がちょこちょこいたのと、治安が良くない地域なので、やってる奴が多かった。

今と違って色んな薬物があるわけでなく、社会現象にもなったドラマ「積み木崩し」でもあったように、不良がやる薬物=シンナーみたいな感じだった。

あるとき、先輩に「何で薬物はダメなのか?」と質問をしたところ、「ラリってヘロヘロしちょったら、隙まみれで殺られるじゃろが!あと、不健康に痩せたら力も弱くなるじゃろ!シンナーは吸うもんじゃない!売る物じゃ!」と言われ、当時妙に納得したのを覚えている!

とりあえず薬物に対して「ダセェことはカッコ悪い」みたいなルールがあったお陰で、自分自身が変な方向に行かなくて良かったと思っている。

「ヤンキー殺りに行くぞ!」と息巻く同級生

そんな思春期真っ只中の中2のある日、中学の部活が一緒で、57に悪さの全部を教えてくれたと言っても過言ではないMちゃん(男)という友達が、登校するなり57の所へやってきて「哲也(57の本名)、今日放課後ええか? N高のヤンキー殺りに行くぞ!」と言ってきた。

「???」となんない?

補足を入れると、うちらの中学の学区には高校が3つあって、そのどれもが怖めの高校。とくにK高校とN高校は、近隣でも「ガラの悪い高校」として有名だった。

当時高校生と中学生は、不良でも兄弟や親戚でない限り、基本的に絡むことはない。


どんだけイキがっていても、身体の出来た大人な高校ヤンキーとはなるべく目を合わさないようにする。そもそも中学生が高校生のヤンキーから相手にされる事もなかったのに、何故自分たちがあえて殺りに行くのか?しかもよりによって、「N高」って!

Mちゃんいわく、その頃は毎日のように3、4人のN高ヤンキーが、K地区と市内を隔てる川の堤防や鉄橋のあたりで、シンナーを吸ってラリっていたとの事。

「うちらの街でラリってるのが許せないから、成敗しに行く!」と。

Mちゃんとは同じ野球部でウマが合うし、笑いの感覚も似てたから仲良くなった。だけど、とにかくもう血の気が多い!

野球の試合後の第2試合(ケンカ)は当たり前。57が先輩と揉めて困っていたら、助けてくれたりと頼りになるし良い所も沢山ある。だけど、高校生襲撃は流石に…

それでも、気が付いたら放課後堤防の所にいた。

「ウォラララーーーーー!!!!!」ヤンキーに飛び蹴りを……

完熟フレッシュのパパが中学時代に体験した、ヤンキー高校生との決闘。「うちらの街でラリっちょんじゃねーぞ」と飛び蹴りを食らわせる同級生
海沿いのコンビナート地帯。煙が立ち込めていることもあれば、決闘が行われることも……
自分たちの中学からは、Mちゃんと57を含めた、有志(?)の3人。

鉄橋付近の堤防下には、金髪リーゼントに剃り込み、アイパーとグリグリパンチのN高ヤンキー3人がたむろしている。

数は同じでも、見た目怖いしやっぱ高校生は身体が大人なのよ。

何よりも空き缶を口に咥えてたり、ビニールでスーハースーハーしながらフラフラヘラヘラしてる人間を初めて見たから57はビビりたおしていた。だけどMちゃんは構わず2人に「まず堤防を滑り降りながら、跳び蹴りを喰らわす。その後はとにかくヒット&アウェイ。
あいつら捕まると力強いし、ドーピングで無敵状態だから絶対捕まるな!捕まったら、捕まった奴ごと川に蹴り落とせ!後バレるから大きい声出すな!」とか言ってくる訳。

まず俺から行くから後に続けとMちゃん。

Mちゃん堤防の上から滑り降りながら、爆裂大きな声で「ウォラララーーーーー!!!!!」

えぇぇ!? 大きい声出すなは?

てかMちゃん、やってる事が北斗の拳の牙一族と同じじゃん!

気付くヤンキー。ビビって動けない57。1人大暴れするMちゃん。

「早ょ来い!」Mちゃんに呼ばれ牙一族の如く堤防を滑り降りMちゃんに加わる2人。

ヒット&アウェイ! ヒット&アウェイ。

おそらく時間にして1、2分だったと思うし、ヘロヘロの相手だったから成立してたかも知んないけど、ビビりたおしてた57からすればいつまでやんの?ってな感じ。

しかも最後の最後に57は捕まってしまい反撃され「あ~ぁ終わった…」と思ってたら、Mちゃんが飛び蹴り一閃!
57もろともヤンキーを川に突き落として助けてくれた!

そして「哲也早く上がって来い!逃げるぞ!」とMちゃんが叫んだので急いで岸に上がって撤退!

少し離れてから「うちらの街でラリっちょんじゃねーぞ」とMちゃん吐き捨てたけど、こっちは顔バレしてないか?報復されないか?とマジで数日間は生きた心地がしなかった…

大人になった今の思い「シンナーはしないのが一番!」

でもね、実は一番生きた心地がしなかったのは、満潮の川に制服のまま突き落とされたとき。

5歳から12歳までスイミングスクールに通って泳ぎには自信あったのに、着衣のままだと全然思った様に泳げず若干溺れそうになってて、実はそれにクソビビってたんだよね。

なので皆さん、着衣での泳ぎには充分気を付けて下さい。

現代は色んな情報も入ってくるし、色んな物が身近に溢れて色んな誘惑があると思う。

シンナーって聞いて「そんな古臭くてダセェもんしねぇよ」とか「ダセェ」とか言う人もいるだろうけど、そう!しないのが一番!

種類の問題なんかじゃないよ!
シンナーだろうが大麻だろうが覚醒剤だろうが57から言わせてもらえば、薬理作用が違うだけで薬は薬。ダセェのはみんな一緒!

ラリってる奴なんて端から見たらとにかくダセェだけだから。
気持ち良くなりたけりゃ芸人が一番!
自分の発した言葉で笑いが起きた時程気持ち良い物はないぜ~♪

余談だけど、芸人になって草刈りのアルバイトをしていたとき、「草は吸うもんじゃない!刈る物だ!」とバイト先の先輩に言われて、この人とは仲良く出来そうだ!と思ったのは、ここだけの話。

【池田57CRAZY】
1975年8月17日、山口県宇部市出身。2016年、実の娘・池田レイラとともに父娘コンビ「完熟フレッシュ」結成。著書に『親子漫才!』(KADOKAWA)
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