―[インタビュー連載『エッジな人々』]―

発達障害に関する資格を持っているお笑い芸人の鳥居みゆき氏と、特別支援学校の寄宿舎で働いた経験がある作家のこだま氏が初対面。「生きづらいのがデフォルトです」──障害=できないことが多い2人が、“普通”という世間の物差しに対する違和感を語り合った。

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世界はちょっと変な人たちがつくっている

 白のパジャマ姿で目を見開き、「ヒットエンドラーン!」と叫び踊るネタでブレイクしたお笑い芸人の鳥居みゆき氏と、私小説『夫のちんぽが入らない』で読者から多くの共感を得た作家のこだま氏。共に鮮烈なデビューを飾った2人の共通点は、「障害」を身近に感じてきた経験だ。こだま氏の新作(※1)『けんちゃん』を通じ、障害を取り巻く環境や“普通”の基準などを語り合ってもらった。

――鳥居さんは、数年前に(※2)「児童発達支援士」と(※3)「発達障害コミュニケーションサポーター」の資格を取得されたそうですね。きっかけは何でしょうか?

鳥居:NHK Eテレの(※4)『でこぼこポン!』への出演です。発達障害のある子供向けの番組ですが、出演以降、街で「ウチの子、3歳なのにまだしゃべらなくて。大丈夫ですか?」とか声をかけられることが増えたんです。番組に出る以上、「わかんなーい!」とは言えないな、と。

こだま:そこから「勉強しよう」と思えることが素晴らしいです。

鳥居:私、「できない」は許せるけど「やらない」は許せないです。勉強してわからないならいいけど、行動しないまま何も知らないのは無責任だと思って。

ダウン症の高校生、けんちゃんとの日々

鳥居みゆき「生きづらいのがデフォルトなんです」作家・こだまと語る“普通”という世間の物差しに対する違和感
鳥居氏とこだま氏は今回が初対面にもかかわらず、“できないこと”をテーマに話が弾んだ
――一方のこだまさんは、(※5)特別支援学校の寄宿舎で指導員として働いていたそうですね。今年1月には当時の経験を生かし、(※6)ダウン症の高校生けんちゃんと周囲の人々を描いた小説『けんちゃん』を出版されました。

こだま:主人公のモデルは、私が指導員時代に出会ったダウン症の高校生です。
彼は吃音があって癇癪持ちだけど、ユニークな子で。黙々と哲学者のような顔をして創作をしていたかと思えば、好物のペプシが飲めなくて泣いてしまう。思うままに生きる彼は私にはすごく魅力的に見えました。そんな彼の姿や周囲の視点を通じて「障害」の捉え方を描きたいと思いました。

鳥居:私も読ませていただいたんですが、この本大好きです! まず思ったのが、「私、けんちゃんに似てるな」ってこと。

こだま:え、どのあたりが?

鳥居:たとえば……240ページでけんちゃんが「パンはパンでも食べられないパンは?」ってクイズを出すじゃないですか。

こだま:すごい、ページ数も正確に覚えてくださっている!

鳥居:このクイズ、普通は「フライパン」が答えだけど、けんちゃんの答えは「豆パン。僕が豆を食べられないから」っていう、すごく自分基準な答えで。実は、私も昔まったく同じクイズを出したことがあるんです。

こだま:鳥居さんの答えは?

鳥居:「レーズンが入ったパン」。私、レーズン嫌いなんで。

こだま:答えまで一緒だ(笑)。


周りの大人が勝手にワーワー騒いでいるだけ

鳥居みゆき「生きづらいのがデフォルトなんです」作家・こだまと語る“普通”という世間の物差しに対する違和感
「普通」を演じていたら苦しかったと思う (鳥居)
鳥居:あと、面白かったのは、作品の中心にいるけんちゃん自身は何もしてないところ。周りの大人が勝手にワーワー騒いでいるだけなんですよね。私自身も本を通じてけんちゃんを見ているつもりだったけど、「実は、けんちゃんの目に映った“私”を見てたんだな」って、読み進めていって気づきました。

こだま:まさにそれが書きたかったことです。関わる人の視点によって障害の見え方は変わるもの。障害がある人が変化してすごいことをする話には絶対したくなくて。自由奔放なけんちゃんの姿を見て、周りの大人たちが自分なりに考えていく。そんな世界を書きたかったんです。

鳥居:すごく伝わります。あと、252ページの「ゆっくりで大丈夫ですよ」って言葉も好き。

――作中に登場するコンビニ店員の七尾光が、レジなどで障害のある人や高齢者、小さい子を気遣ってかけるひと言ですね。

鳥居:「普通」と呼ばれる人にだって何かしら得意不得意はある。誰かの不得意に配慮をするのは、ひいきじゃなくて思いやり。
配慮は障害のある人だけへのものじゃないなと思いました。

こだま:障害やケガなどと、少しでも身近に接点があれば、距離は縮まるものです。この本を通して、障害との距離を縮めてくれる人が増えたらと思います。

――鳥居さんは過去に「発達障害の検査を受けたら何か判明するかもしれないけれど、診断はあえて受けない」とも話されています。その理由は?

鳥居:自分には必要ないかなって思ったんですよね。自分の苦手なことはだいたい把握しているし、対処もできているので。

私にとっては「生きづらいのがデフォルト」

――日常で困ることはない?

鳥居:いや、毎日めちゃくちゃ困ってます! でも私にとっては「生きづらいのがデフォルト」なんです。たとえば、私は10代の頃からヘルニア持ちなのですが、長年病気と付き合っていると「腰が痛いのが普通」になる。それと同じで、生きづらい状態が通常運転なんですよ。

こだま:それ、障害の話でもあり、生き方の話でもありますね。子供の頃は「生きづらいな」と思うことはありましたか?

鳥居:ありました。今日もそうですけど、つい自分ばかりが一方的に話しすぎちゃうとか。でも、当時は「発達障害」なんて言葉がなかったから、「変わってるね」「不思議ちゃん」で終わり。
いじめも受けましたが、私は卑屈になるタイプじゃなく、「いつか復讐してやる」って思う迎撃型。その気持ちをバネにしたから、芸能界でもやってこれたんだと思います。

こだま:強いなあ。そんなふうになれた理由はなんですか。

鳥居:両親が自由だったからですね。特に父からは「人と比べるな。比べるなら昨日の自分とだけ比べろ」と言われてました。

こだま:現在の教育支援の考え方に近いですね。私も指導員をしているとき、子供たちを絶対比較しないようにしていました。

鳥居:たぶん、父も誰かと比べられて嫌な思いをしたんでしょうね。ウチは姉が活発で優秀だったんですけど、できない私にも、父はいつも「できなくても大丈夫」と言ってくれて。

こだま:私は正反対で、活発な妹とよく比較されていました。
参観日も、母からは「あんたを見ても面白くないから、妹だけを見に行く」と言われてました。

鳥居:え、面白くないって何?

こだま:変化がないんですよ。私は赤面症がひどすぎて、人の注目を浴びるのが耐えられない。だから手も挙げないし、座っているだけ。一方、妹は自分から手を挙げるから、変化が多い。

鳥居:ひどい。でも、本当はあまり主張をしない子のほうが、脳みそが忙しいですよね。

こだま:そうなんです。多くの人はアクションの多い子に目が行きがちだけど、本来は自分から動けないような子を一番見てあげたほうがいいんですよね。

管理する側の都合で「普通」がつくられる

鳥居:最近実践してるのが「できないことは無理にやらず周囲を頼ろう」ってことです。たとえば私、いまだにリボン結びができないんです。今日履いているスニーカーの紐も、人に結んでもらったものを接着剤で留めているので、絶対ほどけない。

こだま:苦手を把握して、対策しているのがすごい。
私の場合、あまりにもできないことが多いので、数年前から「発達障害の検査を受けたほうがいいのかな」と悩んでいました。

鳥居:きっかけは何ですか?

こだま:喫茶店のバイトで、店主に仕事の手順を何度説明されても覚えられなくて。ときにはドレッシングのかかってない生野菜など、未完成の料理をお客さんに出したこともありました。

鳥居:素材の味!

こだま:昔からそんな失敗ばかりで適応できないんです。でも、いま思えば自分ができない理由を探したかっただけなのかも。

鳥居:障害がわかっても、ミスしなくなるわけじゃない。だから、わざわざ受ける意味はないのかなって自分は思いました。でも、私は「変」が強みになる芸能界にいたのがよかったんでしょうね。事務職に就いたときは、落ち着きがなさすぎて即クビでした。あのまま「普通」を演じていたら苦しかったと思います。

「個性を大事に」なのに、はみ出したら怒る

――「普通」って何なんでしょう。

鳥居:「普通」なんて、そもそもないと思っています。

こだま:でも、いまだに学校や社会では、「普通がいい」という空気がすごく強いですよね。「個性を大事に」と言いながら、誰かがはみ出したら怒る。

鳥居:「みんなMサイズを着なさい。SとLはあんまり作ってないから」って。学校は本来興味のある教科を見つける場所なのに、全部で平均点を取らなきゃいけない。でも、それって、冷静に考えるとおかしいですよ。

こだま:私の場合、目立たず「普通」でいれば安心って感覚もあったんです。でも、「このままだと何も残らない大人になる」って急に怖くなったんですよね。結果、気づいたら、眠ることも忘れて文章を書く日々を送るようになっていました。

鳥居:寝ないで文章を書く時点で普通じゃないです(笑)。でも、この世界って、こだま先生みたいに「ちょっと異常な人たち」がつくっているんですよね。いま座っているソファも、最初は誰か変な人が「こういうものがあったらどうか」とこだわり抜いて生み出したはず。だからこの世界は「変な人が作った変なもの」で溢れている。みんな変だし、普通なんて存在しない。だからこそ、この世界はいいんだって私は思っています。

鳥居みゆき「生きづらいのがデフォルトなんです」作家・こだまと語る“普通”という世間の物差しに対する違和感
「個性を大事に」なのに、はみ出したら怒る (こだま)
【鳥居みゆき/Miyuki Torii】
1981年生まれ。お笑い芸人として活動する一方、女優、小説家、絵本作家などとしても活動。3月14・15日には有楽町のI’M A SHOWにてダイアモンドユカイによるロッキンミュージカル『シン・シャドウブラウン&ブラックパイレーツの冒険PartⅡ』に出演

【こだま/Kodama】
作家。’17年、実話を基にした私小説『夫のちんぽが入らない』でデビュー、大きな話題を呼ぶ。エッセイ『ここは、おしまいの地』(太田出版)で第34回講談社エッセイ賞を受賞。現在、OHTABOOKSTANDにてエッセイ「おしまい定期便」を連載中

(※1)『けんちゃん』
こだま氏が、特別支援学校の寄宿舎で働いていた際に出会ったダウン症の高校生“けんちゃん”への思いを胸に描いた小説。指導員やコンビニ店員ら、彼と関わった人々の視点で綴る全5章(1650円)

(※2)児童発達支援士
子供の発達の特性を理解し、その成長をサポートする民間資格。鳥居氏はこの資格について強く関心を持ったことから、集中的に勉強。わずか10日で取得した

(※3)発達障害コミュニケーションサポーター
特性に配慮したコミュニケーションを通じ、自己肯定感を育てる支援を行うための資格。発達障害による不登校や引きこもりなど二次障害を防ぐ視点もある

(※4)『でこぼこポン!』
’22年からNHK Eテレで放送。発達にでこぼこがある子供とその家族を、ドラマやゲーム、歌、ダンスで楽しくサポートする番組。鳥居氏はメインキャラクターの「でこりん」として登場

(※5)特別支援学校
心身に障害のある子供たちの自立や社会参加を支援・教育する学校。自宅が遠方などの理由で通学が困難な場合は、寄宿舎に入ることも。こだま氏は寄宿舎で指導員として3年間勤務した

(※6)ダウン症
21番染色体が1本多い=3本あることで、知的発達の遅れや身体的障害を併発する先天的特性。同じダウン症でも発達や身体的特徴に個人差が大きく、必要な支援も個人によって異なる

取材・文/藤村はるな 撮影/杉原洋平 構成/髙石智一(本誌)

―[インタビュー連載『エッジな人々』]―
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