「実は私、ついこの間まで刑務所にいたんです」
 仕立ての良いシャツを着こなし、理路整然と言葉を選ぶビジネスマンがそう口にしたとき、一瞬、誰もが耳を疑うだろう。草間清隆、32歳。
『懲役社長』(扶桑社)という著書を持ち、現在は「お年寄り見守り事業」を主軸とするDOGLORYグループの代表として、全国にフランチャイズを展開する若き経営者だ。

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 しかし、彼の時計は20代のほとんどを「塀の中」で止めていた。罪状は組織的な詐欺事件、懲役8年――そのあまりに重い月日が、彼に何を与え、どう変えたのか。どん底から這い上がった男の「再起の全記録」を聞いた。

「ついこの間まで刑務所にいた」32歳の若き経営者が語る“8年の懲役”から再起した「仕組み」の力

川崎の「弱肉強食」が生んだ、年商2億円の歪んだ成功

 神奈川県川崎市。工場地帯と住宅街が入り混じり、独特の荒々しさが残るこの街が、草間氏の原点だ。

「僕が育った環境では、まっとうに勉強して大学へ行く大人なんて周りにいませんでした。15歳で鳶職に入り、腕を磨いて独立して、夜はスナックや居酒屋のオーナーになる。それが地元の“成功のテンプレート”。考える力よりも気合と根性、そして度胸。言葉より行動、理屈より空気。それがすべてでした」(草間氏)

 18歳で親方のもとを離れて独立すると、すぐに売上を伸ばした。19歳の若さで年商2億円を叩き出す「若親方」として、地元では知られた存在になる。
しかし、その成功の裏側では、次第に足を踏み外していく。

「当時は『稼げるなら手段は問わない』という歪んだ価値観を持っていました。きっかけは、元請け会社の計画倒産による不渡りです。

 4000万円という大金を一瞬で失い、信じていたホワイトなはずの世界に裏切られたと感じた。そこからですね、『騙されるくらいなら、騙す側に回る』と。

 次第に半グレ組織のような形態へとビジネスが変化していきました。結果、22歳のときに逮捕。そこで僕の人生は一度、完全に強制終了したんです」

8年という「空白」が教えてくれた、暴力より強い「仕組み」

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 裁判官が言い渡した判決は「懲役8年」だった。高校3年間と大学4年間を合わせても足りない、あまりに長い時間だ。収監されたのは北海道にある函館少年刑務所。そこで草間氏は、これまでの「気合と根性」が一切通用しない世界に直面する。

「刑務所は、徹底的に『仕組みとルール』が支配する空間でした。点呼ひとつとっても、声が小さいだけで何度もやり直しをさせられる。


 最初は反発しましたが、次第に気づいたんです。どれだけ屈強な男でも、この厳格な構造の中では無条件に従わされる。暴力や感情よりも、正しく設計された『仕組み』のほうがはるかに人を動かす力があるんだ、と」

 草間氏を支えたのは、毎月のように手紙を送ってくれる妹の存在だった。妹を通じて差し入れられる大量のビジネス書や新聞。塀の中での8年間、彼は来る日も来る日も読み耽り、ノートを書き溜めたという。

「外部からの情報が遮断された場所だからこそ、逆に集中力は凄まじかったですね。ノートには、自分がなぜ失敗したのか、どうすれば人は裏切らずに動くのかを、ビジネスのロジックに落とし込んで書き殴りました。

 かつての自分は、人を見る目がなかったのではなく、人を動かす『仕組み』を知らなかったのだと痛感した。その気づきが、後に僕が提唱する『人生の設計図』の核心になりました」

 収監中に書いたノートは、単なる反省文ではなかった。出所後にどうやって社会を「再構築」するか。名義も、信用も、銀行口座すら持てない状態から、どうやって戦うか。そのためのシミュレーションを、彼は8年間、頭の中で繰り返していたのだ。


出所後の「信用マイナス」から、ブルーオーシャンへの到達

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 2022年、8年間の刑期を全うし、草間氏は社会に戻った。しかし、待っていたのは「元受刑者」という重いレッテルだ。

「銀行へ行っても法人口座すら作れない。履歴書に穴があるどころか、真っ黒なわけですから。まさに『信用マイナス』からのスタート。

 でも、絶望はしませんでした。刑務所の中で、仕組みさえあれば人は再起できると確信していたからです」

 当初、手っ取り早くキャッシュを作るために、グレーな領域に手を出しかけたこともあった。風営法違反で罰金刑を受けたとき、草間はハッと目が覚めたという。

「このままでは、またあの塀の中に戻ることになる。それだけは絶対に避けなければならない。そこから『完全にホワイトな領域』で勝負すると決め、舵を切りました。そこで出会ったのが、現在の主軸である『お年寄り見守り事業』です」

 きっかけは、自宅の電気機器が故障した際、専門業者がいないために多くの家庭で放置されているという事実を知ったことだった。

「ガス機器のサポートはあるのに、電気機器のサポートは誰も手をつけていない。
しかも、ターゲットは困りごとを抱えた高齢者。彼らにとって、電球一つ交換できないことは死活問題です。

 そこに『かかりつけの便利屋さん』のような仕組みを作れば、必ず必要とされると思ったんです。競合がいない、まさにブルーオーシャンでした」

誰がやっても同じ成果が出る「再現性」の魔法

 草間氏のビジネスの最大の特徴は、徹底的な「再現性」にある。DOGLORYグループが展開するフランチャイズモデルは、営業経験ゼロの若者でも、翌月から成果を出せる仕組みが構築されている。

「僕が刑務所で学んだのは、『人に依存しない』ということです。優秀な人材を集めるのではなく、誰がやっても同じ結果が出る『台本(スクリプト)』と『フロー』を設計する。

 営業トークの順番から、お年寄りに安心感を与えるための服装、マグネットやカレンダーといったツールの活用まで、すべてをマニュアル化しました。感情ではなく、ロジックで動く仕組み。これが、僕が塀の中で見つけた答えです」

 かつて「威圧」と「暴力」で人を動かそうとしていた少年は、今、「構造」と「信頼」で人を動かす経営者へと変貌を遂げた。

「僕の会社で働く若者には、かつての僕のような境遇のやつもいます。彼らに必要なのは更生や矯正じゃない。『稼げる仕組み』と『知識』です。


 まっとうな稼ぎ方を知らないから、安易な悪事に走る。だったら、ホワイトな世界で圧倒的に稼げる仕組みを僕が渡せばいい。それが、川崎という街で育ち、8年という代償を払った僕の責任だと思っています」

人生は、いつからでも設計し直せる

「ついこの間まで刑務所にいた」32歳の若き経営者が語る“8年の懲役”から再起した「仕組み」の力
 草間氏の背中には、15歳で刻んだ虎の刺青がある。それは消すことのできない過去の象徴だ。しかし、今の彼にとってその刺青は「二度と戻らない」という覚悟の証でもある。

「どんなに大きな過ちを犯しても、どれだけどん底にいても、人は仕組み次第、思考一つで、人生を再設計できるということを証明したかったんです」

 彼が取り組む「お年寄り見守り事業」は、単なるビジネスの枠を超え、いまや社会インフラとしての可能性を見せている。高齢者からの「助かったよ、ありがとう」という言葉。それは、かつて奪うことしか知らなかった男が、初めて手にした本物の報酬だった。

「失った時間は取り戻せません。でも、8年間の空白があったからこそ、僕は『仕組み』という最強の武器を手に入れることができた。

 過去は変えられなくても、過去の『意味』は変えられる。もし今、閉塞感の中にいる人がいるなら伝えたい。
誰かに評価されるのを待つのではなく、自分自身の人生をデザインし直せばいい。そのための図面は、もう僕の中にありますから」

 草間清隆の挑戦は、まだ始まったばかりだ。「元受刑者」という消えない属性を背負いながら、彼は今日も、誰よりもホワイトな仕組みを磨き続けている。その姿は、迷える現代社会における、一つの「再起のロールモデル」なのかもしれない。

【著者プロフィール】草間清隆
DOGLORY グループ代表。1992年神奈川県川崎市生まれ。中学2年からほぼ学校には行かず、15才で彫り始めた背中。見かねた親戚が草間氏を鳶の会社に放り込んだのをきっかけに建設業界に進むことに。2010年、18歳のときに親方のもとを離れて独立するとすぐに売上と従業員数を伸ばし、やがて法人化して株式会社草間建設を設立。しかし詐欺事件に巻き込まれたのをきっかけに自らもさまざまな悪事に手を染め犯罪集団のリーダーと化す。2015年に逮捕され、函館少年刑務所に収監される。逮捕から8年後の2022年に出所。現在は複数の会社を経営し、飲食事業、M&A 事業、不動産事業、建設事業、リフォーム事業、コンサルティング事業、高齢者見守りサービスなど多岐にわたる事業を日本中で展開中。著書に『懲役社長』(扶桑社)。

<取材・文/日刊SPA!編集部>
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