TikTokで衝撃的な動画クリエイターと出会ってしまった。その名は“おケン様”こと島田健策。
拳が著しく隆起し、変形している。そして、その拳をアスファルトに何十回と叩きつける「俺の拳の作り方」なる動画を、日課のようにひたすらアップロードしているのだ。過酷なトレーニングは一体、何のためにしているのだろうか……。コンタクトを取ると「山梨県まで来てくださったらお話しします」との返答が。その謎を解明すべく、我々は山梨県の奥地へ向かった――。
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最強の拳を持つ男は意外と……

――動画を見て怖い人なんじゃないかと思っていたんですけど、丁寧な方で安心しました。

おケン様:あ、本当ですか? ライブ配信でもこんな感じです。

――じゃあ、「俺がおケン様だぁ! 今日はお前らに俺の秘密をいろいろ教えてやるぅ!!」みたいな動画のテンションで書かなくても平気なんですね?

おケン様:大丈夫です(笑)。

――それにしても、すごい拳ですね。

おケン様:ありがとうございます。

――あの……触ってもいいですか?

おケン様:もちろんです、どうぞ!

――おわっ、ふにふにしている! 猫の肉球くらいのふにふに感!! てっきり、ゴツゴツしているのかと思いました。意外とやわらかいんですね。これ、どんなトレーニングをして、こうなったんでしょうか。


おケン様:拳で腕立て伏せをする“拳立て伏せ”をアスファルトの上で右腕、左腕各100回します。その後に、なんて言えばいいんだろう……拳立て伏せの状態で拳を左右にジャリジャリと擦り付けるようにするんですけど。それを左右、数十回ずつしています。

30年以上“喧嘩空手”に打ち込む

“最強の拳”は意外とぷにぷに…拳を毎日アスファルトに叩きつける34歳男の素顔「仕事で会う人全員に(拳を)二度見される」
取材場所の近くにアスファルトがなかったので、タイルの上で。それでも痛そうだ!
――うわぁ、聞いているだけで痛い! 動画でいつもやっているやつですね。でも、いつからそんなことをしているんですか?

おケン様:まず、自分が空手をしているところから話すことができればと思うのですが……!

――では、いろいろ聞かせてください! おケン様は空手家なんですか?

おケン様:そうです、喧嘩空手です。空手にはオリンピックでやるような“伝統派の空手”と、自分たちのやっている極真空手のような喧嘩空手に分かれていて、自分の場合は後者です。

――突きや蹴りを当てる“フルコンタクト空手”ですね。何歳の頃から習っているんですか?

おケン様:3歳です。父が強い子に育てたかったみたいで。今34歳なんで、30年以上やっています。

――長年にわたって空手を続けているのは、どうしてなんでしょうか。

おケン様:通っていた道場では、小学生で黒帯を取ったのは自分が初めてだったんです。他の人は、大体黒帯を取るかどうかの頃に中学生になって、やめていっちゃうんですけど。
そこから指導する立場にもなって、今に至ります。

“拳をつくる”理由は昭和の空手家への憧れ

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拳を地面に打ちつけるトレーニング
――大会には出ているんですか?

おケン様:それが、もう何年も出ていなくて。周りからは「いい加減出れば?」と言われるんですけど、日々の鍛錬が好きで空手をやっているので。大会に向けて鍛錬しているわけではないんですよね。

――それは、武道の精神が稽古にあるということですか?

おケン様:その通りです。先ほど「丁寧な方で安心しました」と言っていただきましたが、武道は礼儀を重んじているので、うれしかったです。あとは昭和チックなことを言うと、本物の武闘家は試合に出ようが出まいが、常に仕上がっているんですよね。それがかっこよくて。時代には合っていないかもしれないですけど、自分もそうなりたいと思っています。

――佐竹雅昭さんを思い出します。

おケン様:まさに! あの頃の空手家が好きです。

――あの頃と今では、何が違うんでしょうか。

おケン様:今、「空手」と聞いて多くの人がイメージするものって、たぶんフルコンタクトよりもスポーツ系の空手なんですよね。
つまり、そっちがメインストリームになっているんです。僕のイメージする空手は、「K-1」で活躍していたような空手家が何人もいて、テレビでも注目されていた時代です。一発で相手を倒すような大きい技もあって……かっこいいんですよね!

――あぁ! でも、それこそ、おケン様が大会に出て盛り上げればいいんじゃないですか?

おケン様:それを言われると、ぐうの音も出ません。ただ、今は動画を通じて空手や運動を広めるのが楽しくて。大会に出るなら、動画をつくっていられないくらいストイックに稽古しないといけないと思っています。勝つために、仕事を辞めてしまう人もいるような世界なので。甘くないんです。

――でも、大会に出ないとなると、どうしてあそこまで拳を痛めつけるような過酷なトレーニングを日々、行なっているのかが不思議なのですが……。

おケン様:それはもう、昔の空手家への憧れに尽きます。フルコンタクト空手って、グローブやサポーターなどを着けずに素手で闘うんです。なので、すぐに折れたりしちゃうんですよ。そのために、こういう風に“拳をつくる”っていうことを昔の人はやっていました。
外国人と日本人では骨格が違うので舐められがちなんです、「カモン(=打たれても効かないよ)」みたいな。でも、この拳を見たら、さすがにビビると思うんですよね。そういう昔の空手家への憧憬なんです。

トレーニングは毎日4時間、みっちりと

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「ハゲていません。坊主です」と繰り返す、おケン様
――理解しました。トレーニングは毎日しているんですか?

おケン様:仕事で帰りが遅くなった日はできないこともありますが、基本的には毎日です。柔軟から始めてランニングで15キロメートル走って、そこから腹筋を300回。拳立て伏せを100回、指立て伏せを100回、そこから拳をつくるので、休憩含めて毎日4時間程度でしょうか。

――『ワンパンマン』みたいですね。

おケン様:主人公のサイタマですよね。コメントでめっちゃ言われます。

――坊主ですしね。

おケン様:そうです、ハゲではありません。坊主です。


「アスファルトでの拳立て伏せ」はいつから?

――トレーニングをすることで、何が変わりましたか?

おケン様:大抵のことでは驚かなくなりました。空手の稽古を超えるつらいことって、なかなかないので。そういう意味では父の言っていた通り、強い人間になれたのかなと! あとはトレーニングというよりも空手をして変わったことですが、道場という一つの社会に属することで上下関係を知りましたし、言葉遣いなどの礼儀も学びました。十人組手や大会のプレッシャーもすごかったです。仕事の大変なことを、空手が全て上回っているんです。だから、仕事って全っ然、苦じゃないですね。

――その境地に至るまでにつらくて辞めてしまう人もいると思うんですけど、おケン様はどうして続けられたのでしょうか。

おケン様:自分も小学生の頃は早く辞めたいなと思っていました。友だちと遊んだ記憶がないくらい、稽古ばかりさせられていたので(笑)。でも、親の顔もあって続けていたところ、高校生くらいの頃から「強いって、かっこいいな」と思い始めたんですよね。そこから自主性が生まれてきて、稽古に励むようになったんです。

――拳をつくるトレーニングもその頃からですか?

おケン様:サポーターを着けずに稽古するのが中高生になってからなので、その頃ですね。高校生の時には、確実にアスファルトの上で拳立て伏せをしていました。


仕事で会う人全員に二度見される

“最強の拳”は意外とぷにぷに…拳を毎日アスファルトに叩きつける34歳男の素顔「仕事で会う人全員に(拳を)二度見される」
ポケモンのガマゲロゲみたいな手だ
――拳が変形してきたのは、いつ頃からですか?

おケン様:大学の終わりくらいでしょうか。ボコッと出てきました。

――周りの人に「もうトレーニングやめなよ」と言われませんでしたか?

おケン様:めちゃくちゃ言われました! 今、仕事でも会う人全員に二度見されます。でも、自分はもっとすごい拳の人を小さい頃に見ていたので、まだまだでしょと思っています。父からも「もっと叩いたほうがいいよ」と言われるくらいです(笑)。

――でも、ひび割れている部分もありますよ。痛くないんですか?

おケン様:ひび割れの部分は、めちゃくちゃ痛いです。でも、そこから逃げないっていうか、痛みを超えてやること、気持ちを強くするための稽古なんで。もちろん、今の子どもたちに同じことをさせたら大問題ですけど。何度も言っているように昔の空手家に憧れているんで、その人たちと同じことをしています。

「BreakingDownに出ることはない」その理由は?

――動画のコメントには「BreakingDown」に出てほしい、という声もありますがいかがですか?

おケン様:いろいろ言われていますけど、「BreakingDown」のなかには純粋に格闘技をやっている人もいるじゃないですか。そこに対するリスペクトがあるので、自分が売名目的で出ることはないと思います。それに、コメントしてくる人の思い通りに動きたくないので! あまのじゃくなんです。

――最後に、動画投稿を始めて3年が経ちますが今後の展望を聞かせてください。

おケン様:空手に限らず、運動する楽しさを伝えていきたいです。結構、コメントとかで「ジョギングが続かない。おケン様はすごい」という声をいただくんですよね。でも、自分もどちらかと言えば「やりたくねー」って思いながらやっています(笑)。ただ、自分でやると決めたことをちゃんとやった、という実績が自信に変わっていくんですよね。

――おぉ。自己肯定感につながる話ですね。

おケン様:それが人によっては仕事だったり、家事や育児だったりすると思うんですけど。自分の場合は運動です。どこまでも自分自身と向き合っています。試合へのモチベーションが高くないのもそういうところが理由なんです。他者ではなくて、自分に打ち勝ちたくて。もちろん、試合に出て勝っている人はすごいという前提の上での話ですよ。

――日々の運動が、いつの間にか肉体だけでなく心をも強くしてくれるんですね。

おケン様:そうなんです! しかも、それを自分みたいに何者でもない人間ができているんです。自分の動画で「あいつにできるんなら、自分にもできる」と思ってもらって、一人でも多くの方が日々の運動を始めるきっかけになればうれしいです。

<取材・文/石川裕二>

【石川裕二】
編集者・ライター。「Tokyo Reimei Note」というウェブメディアを運営するほか、雑誌『実話ナックルズ』で連載中。「エスクァイア日本版」でも執筆中。SDガンダムとヴィジュアル系は永遠の青春。X:@yunini1203
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