気づけば欲しくなり、怒りが沸き、無条件で信じている──。そんな日々の営みは、あなたの思考ではなくアルゴリズムによって生み出されたものかもしれない。
実は、軍隊やカルト宗教で使われてきた「洗脳の手口」は、現代人のスマホ利用と驚くほど酷似しているという。法廷臨床心理学の専門家が明かす“デジタル洗脳”の仕組みと、知らぬ間に思考を操られる現代人の危うさとは。

洗脳の手口とスマホ利用の仕方は非常に似ている!?

「現代人は自らネットに洗脳される環境をつくり出している」専門...の画像はこちら >>
「実は軍隊やカルト宗教などで行われていた洗脳の手口と、現代人のスマホ利用の仕方は非常に似ています。我々はスマホから情報を得ているだけでなく、知らず知らずのうちに“思考が操られ洗脳されている状態”にあるのです」

そう警告するのは、法廷臨床心理学博士の遠藤貴則氏だ。遠藤氏は大学院時代、米海軍研修に参加し退役軍人病院で臨床研修に従事。連邦機関連のケースに接点を持った後、洗脳や薬物依存などの司法・捜査領域の支援に携わった。

「人を洗脳する条件として『隔離・反復・権威・恐怖・小さな報酬』という5ステップを段階的に行う必要があるのですが、現代人は自らネットコンテンツに洗脳される環境をつくり出している人が非常に多い。

夜中“隔離”された状態で、SNSの投稿やYouTubeの動画を“反復”し、スクロールし続ける。その中には、多くのフォロワーがいる“権威”性を持つインフルエンサーの動画や、炎上して“恐怖”を感じる動画がある。ポジティブな内容でも、面白いと感じれば“小さな報酬”となり得ます。まさに洗脳の5ステップを踏んでいて、このときに見聞きした内容は強烈に脳に記憶されるのです」

デジタル洗脳の怖いところは…

さらに遠藤氏は「デジタル洗脳の怖いところは、無意識下に信念や行動がスマホ上のコンテンツに寄せられる状態に陥るところ」だと続ける。

「SNSやYouTubeなどの消費型コンテンツは、ユーザーの滞在時間を最長化することを目的としています。つまり、内容が適切かどうかより関心が集まるかどうかが優先されるということ。先ほども言ったように極端で刺激的なコンテンツは人々の関心を集めやすいので、そういった情報が表示されやすくなりますよね。


また、同じ意見・世界観の情報に何度も触れることで『それが普通・多数派』と感じるエコーチェンバー現象が強化されます。例えるなら、ナチスのプロパガンダ以上の頻度で情報を浴び、しかも自宅のベッドサイドまで自ら持ち込んでいるという状態とも言えます。

そんな状況に置かれれば、本来持っていた価値観とは異なる主張であったとしても、繰り返し見ていれば“洗脳”されてしまう。無意識のうちに、スマホで見聞きしたことを最初から自分の意見だったかのように受け入れてしまうんです」

ストレスフルな人ほど洗脳されやすい

「現代人は自らネットに洗脳される環境をつくり出している」専門家が指摘する“スマホに洗脳されやすい人”の特徴
法廷臨床心理学博士の遠藤貴則氏
遠藤氏は「そもそもストレスフルな現代人は慢性的に洗脳を受けやすい状態にある」とも指摘する。

「純粋な子供のほうが影響されやすいのは想像がつくと思いますが、大人でもストレスや寝不足など脳の意思決定力が弱まっている状態の人は要注意です。特に責務のある課長のような中間管理職のポジションにいて、慢性疲労のうえに単身赴任。運動習慣もなく、暇つぶしやストレス発散のためにスマホを見ているような人は、最もカモになりすいとも言えますね」

そして、洗脳はあくまで入り口にすぎない。影響が強くなればいずれ中毒状態になる。

「洗脳は本人の意思に反して思考や行動が変えられている状態を指しますが、それが習慣化すると依存へとフェーズが変わっていきます。さらにその依存が進み、禁断症状が起きて生活に支障が出る段階になると中毒です。簡単に言うと、得られるメリットよりデメリットのほうが大きくなっている状態ですね。

スマホのスワイプは自然界にはあり得ない頻度で報酬系を刺激し続けるため、薬物同様に十分中毒になり得ます。中毒状態になると脳のドーパミンの回路を書き換えられてしまうので、ほかの刺激では満足できなくなるし、自らの意思では改善できません」

スマホがなくてはならなくなっている時点で「すでに何らかの形で洗脳を受けているという前提で行動すべきだ」と、遠藤氏は提唱する。


「依存や中毒の手前にある洗脳状態なら、その環境から抜け出せれば元の状態に戻ることができます。理想は、スマホに触らずに1週間ほどデジタルデトックスをすること。もしくは、仕事の合間や就前などの休憩時間にスマホに触るのではなく、運動や散歩、瞑想などに切り替えましょう」

無意識のうちに、常にデジタル洗脳のリスクに晒されているのだ。

デジタル洗脳の5STEP

STEP1“隔離”

寝る前のスマホやトイレの個室など、“一人で落ち着ける”環境で見る。

STEP2“反復”

流れるように更新されるリール・ショート動画を繰り返し見る。

STEP3“権威性”

フォロワーやインプレッションが多いコンテンツが頻繁に表示される。

STEP4“恐怖”

他人の投稿の炎上や誹謗中傷される様子を見て、恐怖を感じる。

STEP5“小さな報酬”

たまに面白い神コンテンツを発見すると“いいね”と思う。

【法廷臨床心理学博士 遠藤貴則氏】
ビジネスサイエンスジャパン取締役。ニューロマーケティング(脳科学マーケティング)トレーナー、法廷・犯罪心理の専門家

※2026年2月24日・3月3日合併号より

取材・文/週刊SPA!編集部 イラスト/サダ

―[[デジタル洗脳]の恐怖]―
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