「正直、使い道はわからないんです」
クーリア社が開発した立体シール「ボンボンドロップシール」、通称ボンドロ。ぷっくりしていてかわいいと話題になり、発売から1年半で100万枚の売り上げを記録。文具業界全体の年間利益と並ぶほどのヒットとなった。その人気ぶりは異常ともいえ、2月4日、品薄と混雑防止を理由に小売り大手のロフトが全国での販売中止を発表した。「正直、使い道はわからないんです。でも、なんとしてでも絶対に欲しいんですよね」
そう語るのは、都内在住で看護師として働く真田かおりさん(仮名・29歳)だ。彼女のバッグの中には、話題沸騰中のボンドロが何十枚も入っていた。
「今や普通に店頭で買うことは不可能に近いです。シールの発売情報をリアルタイムで発信してくれるSNSのアカウントやオープンチャットがあるのでそれを見て、前日や前々日の入荷状況をチェック。ヤマを張ったうえで開店2~3時間前から並び、やっと買えるか買えないかの世界です」
真田さんがシール集めに熱中し始めたのは’25年の秋頃からだが、この異常なまでのハマりぶりには、SNSが強く影響している様子だ。
「もともとキャラクターグッズは好きでしたが、たまに見かけたら買う程度でした。それが去年の秋ぐらいから、YouTubeやインスタのショート動画に頻繁にボンドロという言葉が出てくるようになって。最初は『かわいいな』と思うくらいだったんですが、日に日に関連する動画がたくさん表示されて。
ブームの中心にいるのは20~30代の女性たち
真田さんのシール熱は、中毒と言えるほど高まっていく。「仕事中も『今シールが買えた人がいるんだろうな』と思うと、すごく悔しい気持ちになって集中できないんです。家に帰っても家事もせず風呂にも入らず、一心不乱にシールの入荷情報や動画を見てしまう。偽物や模造品も横行していますが、それを買うのは絶対に嫌。シールには『交換レート』という希少性に応じた共通概念がなんとなくあるんですが、一番価値の高いクーリア製の本物のボンドロだけを追い求めて、時間もお金も浪費する日々です」
ただ、ふと我に返って自己嫌悪に陥る瞬間もあるという。
「本当は旅行とか貯蓄とか、もっと将来のことにお金を使いたい。自分でも『何やってるんだろう』と思うけど、シールが買えなくなると思うと……。もうどうしようもなくやめられないんです。最近、国内では飽き足らず、仕事を休んで韓国に日帰りで買いに行こうとしていたのが夫にばれ、『いい加減にしろ!』と怒られました」
このブームの中心にいるのは、子供だけでなく20~30代の女性たちだと判明。近頃は「平成女児」などと呼ばれる彼女たちは、こう口を揃える。
「常にスマホからシールの情報が入ってくるので、寝ても覚めても『欲しいな』という衝動が止まらないんです……」
シール行列の混乱で警察まで出動
深夜2時。開店に備えSNSをチェックすると、「前日22時からすでに並んでいる」との情報が。
深夜3時近く、30代半ばの男性が「椅子だけ置いてるとかどうなってんだ? どけろ!」と声を荒らげ、転売屋の椅子を撤去した。この男性に加勢するように「物乞いが!」と声をあげる中年男性も出現。ただ、シールを買う権利を得るために、深夜に大人の男性同士が静かに争う場面に強烈な違和感を覚えた。
その後も列に並ぶ人は増え続け、あまりの長蛇の列に近隣住民から苦情が入ったのか、1時間おきに警察が見回りに出動。始発前には事前予告されていた販売数を明らかに上回る人数の行列ができていた。
“ボンドロ”が社会現象になった理由
なぜ“ボンドロ”がここまで社会現象になったのか。この異常な流行の背景には、デジタル洗脳に加え、人間心理が絶妙に作用していると法廷臨床心理学博士の遠藤貴則氏は指摘する。「ボンドロは入手が難しく、希少性が高い。すると人は『せっかく並んで買ったのだから特別なものに違いないと思いたくなる心理が働き、SNSで自慢したくなる。
もう一つ大きいのが、SNSによるリアルタイムでの販売情報の拡散が価値の差をつくったことだ。
「入荷情報が同時に広まり、同じ立体シールでも希少性の差が短期間で多くの人の共通認識になっていく。すると、自然にレア度の序列が生まれ、結果として、最も手に入らないボンドロのブランド性が強まる。こうして生まれたブランド性が熱狂を呼び、価値がさらに高まる――そのインフレがボンドロブームを過熱させたのです」
立体シールの流行そのものに害があるわけではない。しかし、次に同じ仕組みで“信じさせられるもの”が、もっと危険なものだったとしたら――。スマホの中で起きている洗脳は、特別な誰かの話ではない。
ビジネスサイエンスジャパン取締役。ニューロマーケティング(脳科学マーケティング)トレーナー、法廷・犯罪心理の専門家
取材・文/週刊SPA!編集部
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