食べログ、Retty、Googleマップ……外食や旅行をする際に、口コミサイトで気になる店のレビューをチェックしてしまう人は多いだろう。特定の店舗を過度に持ち上げるレビューについては、「やらせ疑惑」が度々持ち上がる。
現行の法律では、事業者側が利用客にサービスを提供する代わりに高評価のレビューを書かせることは「ステルスマーケティング」(ステマ)として行政処分の対象となり得る。
その一方で、近年では客から店舗側に「高評価レビューを入れるので、無料で食事を提供してもらえませんか」と誘いかけるケースが急増しているという。一体誰が、どんな目的で交渉を行っているのか? 事業者側の証言を元に、その実態に迫った。

料理・宿泊の無料リクエストには「絶対に応じない」宣言を出したワケ

「タダ飯」要求に低評価の報復も…飲食店を悩ませる“自称インフ...の画像はこちら >>
国内屈指の観光名所、箱根。箱根登山電車の終着駅である強羅(ごうら)駅周辺は、近年、外資系ホテルを始め高級志向の宿が増え、インバウンド(外国人観光客)を多く呼び込んでいる。そんなエリアの一角に位置する「グランテラス ルリアン箱根」は、季節ごとに内容の変わるコース料理が評判のオーベルジュだ。同施設がHPで行っている、ある「宣言」がある。「インフルエンサー」を名乗る人物からの料理・宿泊の無料リクエストには、「絶対に応じない」というものだ。

同施設で料理長兼支配人を務める今田貴之さんによれば、宣言を出したのは数年前のこと。オーストラリアから訪れた4人組の観光客との間で起こったとあるトラブルがきっかけだった。

「タダ飯」要求に低評価の報復も…飲食店を悩ませる“自称インフルエンサー”とステマの闇。箱根の高級宿は「絶対に応じない」宣言
海外インフルエンサーからの「レビューを入れるから、食事を無料にしろ」という要求を断ったところ、後日低評価のレビューを入れられた
「先に2泊分の宿泊予約が入っていたんですが、宿に到着し、チェックイン手続きの段階になって『私たちはSNSで数万人のフォロワーがいる。アカウントで紹介するから、食事を無償で提供しろ』と要求してきたんです。断ると今度は『泊まらないので宿泊費を返せ』とごね始めた。
キャンセル規定を伝えると1泊はしたものの、その後、口コミサイトに『態度が悪い』『施設が古くて雰囲気が奇妙』など、好き放題書かれて……。サイト上の点数が下がり、売上はトータルで100万近く落ちました」

「無料提供」を求めるDMが週1ペースで

直接宿にまで来たのはこのときの客が初めてだったが、食事・宿泊を含むサービスの「無料提供」を求めるDMは「4~5年前から、週1ペースで届いていた」と話す。送信元はインフルエンサーが多く、割合的には、国内と海外が半々という。

「タダ飯」要求に低評価の報復も…飲食店を悩ませる“自称インフルエンサー”とステマの闇。箱根の高級宿は「絶対に応じない」宣言
「ルリアン箱根」のレストラン。料理はシェフが手掛けるお任せコース一本で勝負する
「料理が看板の宿なので、『SNSで紹介する代わりに食事を無料にしろ』は十中八九要求されます。無料であればまだ良い方で、中には数百万円近いギャラを要求してくる場合もありました」

事業者が利用客に無料で飲食などのサービスを提供する代わりに、客側が店側の要望に沿った内容やレビューを口コミサイトやSNSに投稿する行為は、一般的に「ステルスマーケティング」(ステマ)と呼ばれる。’23年10月に景品表示法が改正され、ステルスマーケティングは法律上の「不当行為」と明確に定められた。だが、実態としてのステマ行為は今も後を絶たない。特に近年急増しているのは、「高評価レビューを入れるので、無料で食事を提供してもらえませんか」と客側が店側に働きかけるケースだ。その手口は大きく分けて二つに整理できる。

一つはルリアン箱根のように、インフルエンサーが宿に直接営業をかけるパターンだ。フードジャーナリストの山路力也氏が話す。

「(サービス事業者に対するインフルエンサーからの営業は)よく聞く話です。相手に影響力、拡散力がある場合、事業者側が受けてしまっているケースも少なくありません。
正当な広告宣伝代行の場合は費用が発生しますが、料理の無償提供なら支出は少ないため、事業者からすれば『願ったり叶ったり』な部分もあるのではないでしょうか」

フォロワー数と投稿内容が乖離した「自称インフルエンサー」

「タダ飯」要求に低評価の報復も…飲食店を悩ませる“自称インフルエンサー”とステマの闇。箱根の高級宿は「絶対に応じない」宣言
日頃商品として提供している食事を「無料にしろ」と要求できる感覚は、「人としてどこかネジが外れた行為だと感じます」と都内高級レストラン経営者は語る(写真:Adobe Stock)
もっとも、「インフルエンサー」について法律上、定まった定義があるわけではない。インフルエンサーを自称しつつ、その正体は限りなく素人に近いケースもあるようだ。

店舗のインスタグラムを通じ、週に3~4通は「食事の無料提供」を求めるDMを受け取るという高級レストランの経営者に話を聞くことができた。同店は都内観光地の一角に位置し、外国人観光客が客の7~8割を占める。DMを送ってくるのも、ほとんどが海外インフルエンサーだという。基本的に返信は行っていないが、「影響力を確かめるためにアカウントは見ています」と断った上で、こう話す。

「フォロワー数は多いのですが、投稿内容を見ると『いいね』の数が極端に少なかったり、リール(ショート動画)が全然出ていなかったりする。お金を出してフォロワーを買っているのではないかと疑ってしまうような方も珍しくありません」

「口コミ代行業者」からの営業も

もう一つの手口は、「口コミ代行業者」と呼ばれる業者が店側に営業をかけるパターンだ。この場合は、1投稿あたりの価格が決まっており、業者がライター(レビュアー)を店側に派遣した上で後日、店側が希望する内容に沿った記事や写真が「PR」の表示抜きで投稿される。長野県内にあるとある高級飲食店の店主は、口コミ代行業者から複数回営業を受けたことがあるという。その手法について次のように話す。

「業者から電話があり、まずはネット上における口コミの重要性について説かれます。その後で、『Googleマップ上の飲食店レビューに高評価を入れるので、食事は無償にしてほしい』と言ってくるケースが多いですね。店の宣伝目的に特定の層にだけ食事を無料提供するのは、普段お金を払って来店してくれる他のお客さんへの裏切りに等しい。
うちの店はそうした営業は絶対に受けないと心に決めています」

従業員が書いた口コミをオーナーが添削…「やらせ口コミ」に手を染める店も

「タダ飯」要求に低評価の報復も…飲食店を悩ませる“自称インフルエンサー”とステマの闇。箱根の高級宿は「絶対に応じない」宣言
「同業者の目線で見れば、『やらせ口コミ』は大体察しがつきます」と、長野県内にある飲食店店主は言う。レビュー件数の少ないアカウントが、高評価の口コミを大量に寄せている場合はとくに怪しいという
このオーナーが「やらせの口コミ営業を受けない」と固く心に決めている理由がもう一つある。自身が以前勤務していた飲食店のオーナーが、「やらせ口コミ」に手を染めていたためだ。

「ある日店に出ると、オーナーが『今日一人で来るお客さんから、一切料金もらうな』と言ってきました。代行業者にお金を払って、食べログのレビューを書かせていたんです。それだけではなく、その店ではアルバイトも含めて従業員全員に客を装ったレビューを書かせ、オーナーが『添削』までしていました……。拒否しようと思えばできたのかもしれませんが、直属の上司の指示ということもあり断り切れませんでした」

“ステマ”が減らないワケ

ステマが「法律違反」となった今もなお素人から業者まで、「やらせ口コミ」の幅は広がる一方だ。このような余地はどこから生まれてしまうのか。インターネット上の法律トラブルに詳しい虎ノ門法律特許事務所の大熊裕司弁護士は、次のように解説する。

「景品表示法は、あくまで『事業者』の側を規制する法律です。例え無料飲食を持ちかけたのが客側でも、彼らは規制の対象にはなりません。こうした状況下では、素人もインフルエンサーも関係なく、言わば誰もが『やらせ口コミ』ができてしまう。ある口コミがやらせであるかどうかは傍目には判断がしづらく、飲食店内部での分裂などが起きない限りは発覚のリスクも低い。そのため、実態として『ステマ』は未だに減っていません」

素人から業者まで、「高評価レビュー」と引き換えに行われる営業が”野放し”となっている現実に、はたして現行法は対応できているのか。
再検討すべき時期に差し掛かりつつある。

山路力也(やまじ・りきや)
フードジャーナリスト・ラーメン評論家・かき氷評論家。飲食店のプロデュースやコンサルティングなども手がけている。「作り手の顔が見える料理」を愛し「その料理が美味しい理由」を考えながら様々な媒体で活動中。著書に『トーキョーノスタルジックラーメン』『ラーメンマップ千葉』など多数。

大熊裕司(おおくま・ゆうじ)
弁護士・弁理士。第一東京弁護士会所属、虎ノ門法律特許事務所代表。SNSでのトラブルをはじめ、インターネット上の誹謗中傷・風評被害・名誉毀損などのトラブルに詳しく、年間100件以上の対応実績がある。

<取材・文/松岡瑛理>

【松岡瑛理】
一橋大学大学院社会学研究科修了後、『サンデー毎日』『週刊朝日』などの記者を経て、24年6月より『SPA!』編集部で編集・ライター。 Xアカウント: @osomatu_san
編集部おすすめ