どこの会社にも一人はいる。悪気はないのに、なぜか大ごとを引き起こしてしまう社員が……。
もうすぐ“新入社員”が入ってくる頃だが、ソワソワしている人も多いかもしれない。
今回、話を聞いたのは、関東圏の中堅鉄鋼メーカーでエンジニアとして働く長田智和さん(42歳・男性)。堅実第一、慎重第一。ミスが許されない製造現場で起きたのは、新人によるまさかのトラブルだった。

数年ぶりの新入社員で期待も大きかった

「効率的だと思った」上司に聞かずAIを信じた新入社員…工場ラ...の画像はこちら >>
長田さんの会社にA(当時23歳)が入社したのは昨年4月のことだ。

「物静かで、いかにも理系タイプ。第一印象はむしろ“できそうな子”でした」

そう振り返る長田さん。新入社員は安全講習や座学研修を経てから現場に配属される。巨大な設備が並ぶ工場では、わずかな判断ミスが事故や損失に直結するからだ。

現場は慢性的な人手不足が続いていた。ここ数年は中途採用でしのいできたものの、新卒の技術職が配属されるのは実に数年ぶり。若手そのものが貴重な存在となっていたこともあり、部署一同で新入社員のAを迎え入れたという。

「Aは電話も率先して取るし、専門用語もその場でどんどん質問してくるので、“最近の若い子にしては頼もしいな”と感じました。
こちらが説明したこともきちんとメモを取っていましたし、受け答えもハッキリしていた。だからこそ、早く現場に慣れて戦力になってくれそうだと部署全体で期待していたんです」

長田さんの部署の主な業務は、圧延ラインの保守点検や突発的なトラブル対応。わずかな異音や振動の変化を見逃さないことが求められる。新人は必ず先輩社員とペアを組み、重要な判断は一人でくださないというのが鉄則だった。

「少しでも迷ったら必ず誰かに相談してくれ。判断は必ずチームでやってほしいと入社初日に伝えました。Aもそのときはうなずいていました」

機械トラブルでまさかの事態に

トラブルの発端は、ほんの些細な違和感だったという。

「最初に異音を報告してきたのは、Aではなく別の作業員でした。うちの主力設備である“熱間圧延ライン”……真っ赤に熱した鉄を巨大なローラーで引き延ばしていく機械なんですが、その駆動部分からかすかな金属音がする、と。でも、すぐにラインを止めるほどの異常ではありませんでした。長年やっていると、“様子見でいい音”と“今すぐ止める音”の違いは、なんとなく分かるものなんです」

報告を受けた長田さんは、午後に計画停止のタイミングで点検する段取りを組んだという。

「だから“午後に一緒に確認しよう”とチーム全体に伝えたんです。圧延ラインは一度止めると再立ち上げにも時間がかかります。
その場で慌てて止める状況ではないと判断しました。もちろん、Aにも共有していましたし、現場も特に緊張感がある雰囲気ではありませんでした」

だが翌朝、状況は一変する。

「工場の心臓部ともいえる圧延ラインが、突然ストップしたんです。ビーッ!ビーッ!と警報音が鳴って、大きなモーターが止まりました。一瞬で現場の空気がピリつきました」

すぐに原因を探るため、機械のカバーを外して中を確認すると、すぐに違和感があったという。

「回転部分を支えている小さな部品の型番が違っていたんです。本来使うのは“高い熱でも壊れにくいタイプ”。でも入っていたのは、サイズは同じでも、そこまで熱に強くないものでした。素人目ではほとんどわかりません。でも、少し性能が足りないだけで、振動が出たり、傷みが早くなったりするんです」

新入社員を問いただすとトンデモな回答が…

今回も、その“少しの違い”が積み重なり、安全装置が働いてラインが止まったとみられる。誰が交換したのかと確認すると、Aが渋々と手を挙げた。詳しく話を聞いた長田さんは、思わず言葉を失ったという。


「Aは、『異音の原因はベアリングの劣化だと思いました。ただ純正の予備がなく、発注しようとしたら納期が未定だったんです』と言うんです。確かに、メーカー在庫が切れていて、すぐ手に入らない状況でした」

通常であれば、代替品を使うかどうかはメーカーや上長と相談する。だがAは別の方法を選んだ。

「型番を入力して、代わりに使えるか調べたそうです。“条件が近ければ代替可能”という回答が出た、と。誰に確認したのかと聞いたら、何の悪びれる様子もなく『ChatGPTです』と答えました」

「幸い、機械自体は大きな損傷には至りませんでした。ただ作業ロスの損失は数百万円規模。Aは厳重注意と始末書提出になりました。本人はかなり落ち込んでいましたね……」

長田さんは淡々と続ける。

「A本人は、本気で『効率的だと思った』と言っていました。上司に確認するよりも早い、と。
確かにスピードだけを考えれば、その通りでしょう。私もプライベートでChatGPTを使うことはあります。ただ、AIにはハルシネーション(間違った情報にもかかわらず、もっともらしく答えること)も少なくありません。その辺りのリスクを管理者という仕事上、理解しておくことは当たり前なんですよね……」

AIは確かに便利だが、それを過信してはならない。今回の手痛い経験から、新入社員もきっと学んだことだろう。

<取材・文/結城>
編集部おすすめ