ストレス社会である。様々な理由で心身のバランスを崩してしまい、長期にわたって休職に入る社員は、いまや珍しくない。
だが、その“療養”がもし疑わしいものだったとしたら——。
都内のIT関連会社に勤務する野田さん(46歳・仮名)は、インフラ運用を担当している。サーバートラブルや障害が発生すれば、夜間でも連絡が入る。月に数回は深夜対応があるという。

「毎日ではありませんが、この業界では“あるある”ですね。ただ、契約時にも“緊急対応の可能性あり”とは説明しています」

大人しい新入社員が突然…

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そんな職場に入社してきた新人のA(仮名・24歳)。初めて会ったとき、野田さんは「少し暗い感じ」という印象を持った。

「声も小さく、どこか優柔不断な印象がありました。入社して間もない頃、新入社員たちを連れて飲みに行ったことがあります。居酒屋で最初の一杯を注文する場面でも、なかなか決めきれない様子でした。その後、男性の新人の一人が『夜のお店に行ってみたい』と言うので連れて行ったのですが、そこでも彼は、どの女性についてもらうかを最後まで決められずにいました。ある意味、いかにも今どきの若者らしいと言えなくもありませんが……」

野田さんとしては、それなりにAのことを可愛がっていたつもりだったという。だが、異変があったのは、配属から3カ月目だった。


「Aが体調不良を理由に休む日が続いたんです。そして数日ほど経った頃、人事からいきなり書面を渡されました。そこにはAの名前があり、“適応障害のため、一定期間の休養を要する”と書かれていました。正直、戸惑いましたよ。業務中に強く叱ったつもりはありません。ただ、作業の遅れやミスについては注意したことはありました。それがプレッシャーになっていたのかな……と色々考えました」

部下の体調不良となれば、野田さんが自分を責めてしまうのも無理はない。その後、会社は診断書に基づき、Aを休職扱いとした。

傷病手当金の支給期間は原則として1年6か月。休職中は健康保険から傷病手当金が支給され、給与の6割前後が振り込まれる仕組みだ。

「制度としては当然の権利ですし、こちらが疑う立場でもありません。人事からは『Aさんは外出も難しい状態だそうです』と聞いていましたから、正直かなり心配しました。
まずは何より体を優先して、ゆっくり休んでほしい……と思いました」

SNSに目を疑うような投稿が「タイで夜のおねえさんと…」

休職中の新入社員がSNSに載せていた“衝撃の投稿”…「外出も難しい」はずだったのに。その後も職場には復帰せず…
タイ
だが、Aはそこから半年ほど過ぎても職場に復帰することはなかった。

「定期的に診断書は提出されていました。“療養継続”の文字が並ぶだけでしたね。私も心配で何度か連絡を入れていましたが、返信はほとんどなかった。本当に状態が重いのかもしれない、と気にしていたんです」

そんな中、転機は思わぬ形で訪れる。ある日、部下の一人から個別チャットが届いたのだ。

「『これって、もしかしてAさんじゃないですか……?』と、SNSのスクリーンショットが送られてきたんです。そこに写っていたのは、青い海を背景にビールを飲むAの姿。しかも、写真は1枚じゃありませんでした。夜の繁華街で女性の肩を組んで笑っている写真や、象に乗ってはしゃぐ投稿もあった。以前、 私も出張や旅行で行ったことがあったので、町並みを見てすぐにタイだとわかりました」

さらに、投稿には「しばらく海外でのんびりします」というコメントも添えられていたという。

「もちろん、環境を変えることが回復につながるケースもあるので、それは理解しています。ただ、少なくとも“外出も難しい状態”には見えなかった。
そこから社内の空気は一気に変わりましたね」

しかし、さすがにこれは見過ごせない。社内でも問題視され、SNSの投稿は人事にも報告が上がった。

「最初は“別人じゃない?”なんて声もありました。でも、顔も一致してるし、過去の投稿内容から見ても、ほぼ本人で間違いありませんでした。そこで人事が事実確認を行うと、Aはあっさり認めたそうです。ただ、『タイにいると具合が良くなる気がするんです』と。気候も人も合っていて、日本にいるより落ち着く、と。それが本心なのか、都合良く言っているだけなのかは分かりません。ただ、社内では“いやいや、それはどうなんだ”という空気になりましたね」

療養の形は人それぞれだが、リゾートでのんびりする写真だけでなく、夜の繁華街や、バーで女性と肩を組む姿まで並べられると、さすがにざわつくだろう。

さまざまな憶測を呼び、ついには……

当時、Aは実家暮らし。野田さんの話では、新入社員の給与の6割前後とはいえ、傷病手当金は月に15万~16万円ほどになっていたはずだという。AのSNSを見る限り、豪華なホテルに滞在している様子はなかったが、タイで節約しながら生活するには十分に暮らしていける金額であった。


「そのうち、“現地の夜の女性にハマって会いに行ってるらしい”や“向こうで仕事とか始めたのではないか?”なんて噂まで出始めました。真偽は分かりません。でも、そう言われても仕方ない投稿内容ではありました」

その後もAの休職は続いた。その期間、なんと1年以上。結局、Aは満期で傷病手当を使い切り、職場に復帰することなく退職したのだ。

「その後のAですが、同僚づてに“タイに移住したらしい”と聞きました。SNSもそれっぽい投稿が続いていましたしね。ただ最近は、“生活が厳しくなって知人に連絡しているらしい”なんて噂も耳にします。お金の相談をしている、とか。休職期間の後半は本当に適応障害だったのか、単にタイに行きたかっただけなんじゃないか。最後まで分かりませんでしたね……」

今頃、海の向こう側でAは何を思うのか……。

<取材・文/カワノアユミ>

【カワノアユミ】
東京都出身。
20代を歌舞伎町で過ごす、元キャバ嬢ライター。現在はタイと日本を往復し、夜の街やタイに住む人を取材する海外短期滞在ライターとしても活動中。アジアの日本人キャバクラに潜入就職した著書『底辺キャバ嬢、アジアでナンバー1になる』(イーストプレス)が発売中。X(旧Twitter):@ayumikawano
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