特殊詐欺を筆頭とする犯罪収益金が表で使われるようには、カネの出元という情報を洗い流すマネーロンダリングが必要となる。その手段として闇社会で重用されているのが「相対屋」だ。
日本列島を恐怖に陥れた広域強盗事件のルフィグループのカネを洗っていたという女性の背景を追うと、そこには「上野・羽田・香港」と海をまたいだ深淵な闇が広がっていた。

強盗の先にあった“カネ洗い役”の存在

「ルフィ」を名乗るトクリュウ(匿名・流動型犯罪グループ)による広域強盗事件で、2月16日、犯行の指示役を担ったグループ幹部・藤田聖也被告に下された判決は無期懲役だった。

「藤田被告は7件の強盗に関与しているとみられ、狛江で起きた事件では90歳の老婆が凄惨な暴行の果てに亡くなりました。フィリピンの刑務所からSNSで集めた闇バイトを操り、強盗をリアルタイムで指示していたことが明らかになっており、一審の争点は藤田被告の役割が幇助に留まるのか、より重い共同正犯と見なすかが注目され、裁判所が下した判断は後者。『被告に対しては無期懲役をもって臨むほかない』と厳罰を課したのです」(全国紙社会部記者)

 だが、ルフィらの犯行を語る上で、ある意味で幹部よりも注目されている存在がいる。2025年5月、詐欺容疑で逮捕された福井かおりを始めとする3人だ。

「強盗や詐欺によって得たカネを資金洗浄し、グループ本体に還流させるには、足がつかない手順を踏む必要があります。そこで必要になるのが相対屋と呼ばれる闇の両替商。日本で得た犯罪収益金を現場が回収すると、福井ら相対屋の元に駆け込み、円から仮想通貨に両替します。特によく使われるのがUSDTと呼ばれるドル連動型のコインで、福井はそれを犯行グループの資金管理担当者に送ったり、逆に担当者からの依頼でUSDTを円に換えたりしていた。これは、福井らの先に資金が流れた黒幕が隠れていることを意味します。警視庁は愛知県警、神奈川県警など異例の合同体制をとって福井の再逮捕を繰り返しており、その数は10回以上に上ると聞いています」(前出・記者)

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再逮捕が繰り返される「相対屋の女王」

 相対屋とは耳慣れない言葉だが、仮想通貨や現金を取引所経由でなく直接、相対して取引することから名づけられた言葉だという。仮想通貨を介した犯罪に詳しいスコープジャパン代表の宮路由久氏が語る。

「特殊詐欺の最初の形はオレオレ詐欺で、息子や孫のフリをして肉親を騙し、示談金名目で銀行から振り込ませる手口が主流でした。
その被害が大きくなるにつれ、銀行の振込限度額が規制されるなどして犯罪収益金の刈り取り方法が変わっていきました。Amazonギフトカードやビットキャッシュになったり、バイク便や直接取りに行くといった集金方法も編み出されたりした末に行き着いたのが、仮想通貨による資金移動です。どの詐欺グループも相対屋を抱えており、一度の取引で1~3%の手数料を支払います。詐欺の場合、一度の決済で数億円動くことも珍しくないので、相対屋は太客さえ掴めばおいしい商売なんでしょうね」

 むろん、違法性が高い内容から大っぴらに相対屋が看板を掲げて営業していることはない。「原則、紹介のみでしか取引は受け付けない」と語るのは、相対業界に詳しい関係者だ。

「日本だと福井かおりは非常に有名な存在で、『相対業界の女王』と呼ばれてました。彼女は香港に特別なツテを持っていて、他のグループより割安でUSDTを仕入れられたことから競争優位性があったともっぱらの噂です。福井を頼っていた詐欺グループはルフィだけでなく、むしろ彼女からすればたくさんいる顧客のうち1人がルフィたちだった、くらいの認識だったはず。福井以外だと、他には中国系の相対グループがいくつかあり、御徒町や上野、秋葉原のマンションを転々として営業していました。先日あった御徒町、羽田、香港で起きた一連の強盗事件はこの〝相対屋界隈〟で起きた事件だと私は認識しています」

上野、羽田、香港で起きた強盗事件をつなぐ1本の線

ルフィ事件の資金洗浄にも関与?「相対屋の女王」再逮捕は10回超…1回で数億円動く“闇の両替”の正体
連続強盗事件の2件目が起きた、羽田空港の駐車場。現金運搬役が襲われたが、この時は奇跡的に現金は無事だった(写真/時事通信社)
 一瞬にして多額の現金と仮想通貨が行きかう相対屋の世界では、警察による摘発リスク以上に警戒されているのが「タタキ(強盗)」だ。前出の相対業界に詳しい関係者は1月末に発生した連続強盗事件をこう読み解く。

「1月29日から30日にかけて、上野、羽田、そして香港の両替屋で起きた強盗事件は、相対屋を狙ったものだというのが我々の通説です。香港はUSDTの仕入れ値が日本国内と比べて割安なため、被害に遭った相対グループは毎日のように香港に日本円を運ばせ、香港の両替店で現地のドル円レートでUSDTに交換して日本国内で売りさばくボリュームを仕入れていました。
この情報を察知していた何者かが上野、羽田、香港と3か所で現金の運搬車を襲わせ、強奪を企んでいたのです。

 3か所とも催涙スプレーを使う手口が共通しており、かつ羽田と香港の現場には同じ人物が居合わせ、1人が香港当局に拘束されています。彼が内通者だったことは明らか。それに、公にはなっていませんが昨年秋から年末にかけて2件ほど同様の被害が起きており、5000万円規模の被害があったという話も伝わっています。一連の事件は福井さんもよく知る人物が企てたという説もあり、実行犯らは警察と裏社会の両方から探されていると聞いています」

相対屋を狙った連続タタキの裏側

ルフィ事件の資金洗浄にも関与?「相対屋の女王」再逮捕は10回超…1回で数億円動く“闇の両替”の正体
香港での事件現場。香港島にある上環の外貨両替所前で起きた。内通者の日本人男性は空港トイレで現金を抜き取り、コインロッカーに隠した疑いも持たれている
 欲望マネーが渦巻き、謀略が張り巡らされる相対屋界隈。前出の宮地氏も、注意喚起を呼びかける。

「詐欺集団はフェイスブックやインスタグラムだけでなく、ジモティやAirBnbなどあらゆるところに罠を仕掛けてあなたの財産を狙いにきます。どんな理由にせよ、会ったこともない人から『仮想通貨をここに送ってください』と言われるような話には乗らないことです。万一、送ってしまった場合は送付先のアドレスを把握しておくこと。仮想通貨の数少ない犯罪抑止の利点として、送金元を追いかけられることがあり、アドレスを丹念に解析して遡れば相対屋が最後に現金化する取引所の口座にまでたどり着けることは稀にあります。警察でないと開示請求はできませんが、最後の望みがあるとしたらこれしかない」

 巨額のマネーを操る相対屋は、一見すると我々とは無縁の「闇社会の物語」に思える。だが、ルフィグループがSNSで闇バイトを募ったように、気づけばスマホのすぐ向こう側まで来ているのだ。


ルフィ事件の資金洗浄にも関与?「相対屋の女王」再逮捕は10回超…1回で数億円動く“闇の両替”の正体
仮想通貨の送付先アドレスを辿ると、取引所や個人ウォレットなどに行き着く。この情報が端緒となって捜査が動く可能性はゼロではない(写真提供/スコープジャパン)
スコープジャパン代表
宮路由久氏

クリプトアナリスト。急増する仮想通貨・暗号資産の詐欺被害回復に向けた伴走支援を得意とする。ウエイトリフティング元五輪代表としても活躍

(取材・文/SPA!特殊詐欺取材班)

―[闇の両替商[相対屋]の正体]―
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