今回は、満員電車という逃げ場のない空間で、理不尽な出来事に直面した2人のエピソードを紹介する。
身動きできない電車内で迫ってくる“肘”
高橋里奈さん(仮名・20代)は、帰宅ラッシュの満員電車に乗っていた。
「本当にギュウギュウ詰めで、息をするのもやっとでした」
それでもなんとか耐えていたが、目の前に立つ男性の動きが気になり始めたという。ほとんどスペースがないにもかかわらず、スマートフォンを操作し、カバンを探り、ゴソゴソと落ち着きなく動き続けていた。
「満員電車ではよくあることだと思って、我慢していました」
しかし、その男性が突然ポケットに手を入れたとき、事態は変わった。高橋さんは背が低い。満員電車で“前の人の肘が顔の高さにくる恐怖”は、想像以上だという。
「避ける余裕もありませんでした」
次の瞬間、男性の肘が勢いよく頬骨に直撃したのだ。
ゴツン――。
「鈍い痛みが走りました。でも、声も出ませんでした」
男性は後ろにぶつかったことには気づいていた様子だったが、顔面に当たっているとは思っていなかったのか、振り向くこともなく、到着した駅でそのまま降りたそうだ。
「満員電車でいちいち謝る人は少ないのも分かっています。
怒りと痛みを抱えたまま、電車に乗り続けた高橋さん。翌日、頬にはくっきりと“アザ”が残っていたという。
「満員電車だから仕方ない……で済ませていいのか。今でもモヤモヤします」
揺れるカラビナが女子高生の“顔”をかすめて
松本まゆさん(仮名・40代)が目撃したのは、朝の通勤ラッシュでの出来事だった。
「月曜日の朝で、電車内は最悪の混雑でした」
目の前に立つ30代ほどの男性は、大きなリュックを背負ったまま。問題は、そのリュックについた“金属製の大きなカラビナ”だった。
電車の揺れに合わせてぶらんぶらんと揺れ、その先端が後ろに立つ女子高生の顔すれすれを何度もかすめていた。
「身長150センチくらいの、華奢な子でした。逃げ場がない状態で、ただ耐えているように見えました」
見ているだけで痛々しい光景だったが、松本さんは声を上げられなかった。
「トラブルに巻き込まれたくない気持ちが勝ってしまいました」
そのときだった。
「おい、リュック前に抱けや! 後ろの子に当たっとるやろ!」
40代ほどの男性が声を張り上げたのだ。しかし、リュックの男性は完全に無視。電車内には気まずい空気が流れた。
ホームでまさかの転倒
次の駅でドアが開き、乗客が一斉にホームへ流れ、リュックの男性も押し出されるように外へ出た。
「やっと終わると思いました」
しかし、その男性は再びリュックを背負ったまま、電車に乗り込もうとしたという。
「なにやっとんねん!」
先ほどの男性が立ちはだかり、押し合いの喧嘩に発展。周囲が息をのむ中、男性はリュックを下ろし、拳を振り上げた。
その瞬間、足をもつれさせて派手に転倒。その拍子に、自身のリュックについていた“カラビナ”がみぞおちに当たったそうだ。
「うっ……」
うずくまる男性のもとに駅員が駆けつけると、周囲から事情を説明する人が現れた。
「ウソのような展開でしたけど、因果応報ってこういうことを言うのかなって、不謹慎ですが思ってしまいました」
電車では個人のマナーが大いに問われる。だが、不快に感じても声をあげにくい空気があるのは事実だ。自分の何気ない行動が周囲の迷惑になっていないか、あらためて意識する必要があるだろう。
<取材・文/chimi86>
【chimi86】
2016年よりライター活動を開始。出版社にて書籍コーディネーターなども経験。
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