“対話力”がビジネススキルとして語られる時代だ。立場も世代も異なる相手と、衝突せず、迎合もせずに議論を深める――。
理想は簡単だが、現実は難しい。意見が空転し、場の空気が硬直する瞬間もある。そんな対話の行き詰まりを、どう突破するか。視聴者から「一言で場を整える」と評される読売テレビの黒木千晶アナ。その立ち回り、対話力は日常の会議にも応用できるヒントがあった!

「あっ、そのお話、さっきも伺いました(笑)。次へ進んでもいいですか?」

 政治・経済から国際情勢まで、一線級の論客たちが時に声を荒らげ、時に放送コードギリギリの持論をぶつけ合う異色の討論番組『そこまで言って委員会NP』。議論がヒートアップし過ぎて堂々巡りになると、議長を務める読売テレビの黒木千晶アナウンサーは、海千山千の猛者たちに物怖じせず、事もなげに笑顔で言い放つ。ネット上でも「彼女の一言で番組が締まる」「猛者ぞろいのおじさんを確実に捌いている」と絶賛の声が相次ぐ。畏怖の念を込めてもこうも呼ばれている……、“猛獣使い”。

透明な糸を張ってカオスを愛でる

『そこまで言って委員会NP』で話題。癖強おじさんを手なづける...の画像はこちら >>
 黒木氏は自身を「まとめ役」だとは考えていない。むしろ“良質なカオス”に歪みが生じて“悪質”に転化せぬよう、その微妙な境目を読み取ることに神経を研ぎ澄ませていると明かす。

「『司会は存在しないのが理想』、ジャーナリストで前任の議長だった辛坊治郎さんから引き継ぎの際にそう教えていただきました。意識としては、私から論客の皆さんに“透明な糸”が放射状に伸びているイメージ。
何かあれば手応えを感じてピッと引っ張る。でも、こちらから言葉の格闘技に無理に割って入ることはしません」

 暴走は、むしろ大歓迎だ。実際、現場では凄まじい言葉の応酬が繰り広げられている。  公明党の連立離脱を巡り、作家の竹田恒泰氏が「ようやく煩悩から解き放たれて解脱した」と独特の表現で大暴走する。さらに、中小企業の賃金問題に関する経済学者の竹中平蔵氏の分析を、ジャーナリストの須田慎一郎氏が「それはトヨタの理論だ」と一喝するシーンもある。論客たちが放つ、うがった見方や極論。それらが真っ向からぶつかり合うことで、彼らは声を荒らげることも珍しくなく、次第に現場の熱気は最高潮に達していく。

「高い専門性を備え、自分の意見に確固たる自信と情熱を持つ方々が集まっているからこそ、むき出しの個性がぶつかり合うことで生まれる“化学反応”を、面白がっていたい。それに、不思議なことに自然と笑いも生まれるんです。私はセンターにいますが、感覚としては空気に近いです」

 同時に、元外交官で外交評論家の宮家邦彦氏に「宮家さんは、CIAですか?」とツッコミを入れたりと、その場を楽しんでいる一人の「聴衆」でもありたいとも語る。

「家でテレビを見ている私が『今、ここが気になる』と思った瞬間に、スタジオの私も同じことを質問している。そのバランス感覚は、失わないようにしています」

 支配や管理の罠に嵌らず、相手のエネルギーを最大化させる“空気”に徹する。
この謙虚なスタンスこそ、相手の心を開く土台となるのだ。

「忖度」はしない。「排除」もしない。

『そこまで言って委員会NP』で話題。癖強おじさんを手なづける“名物アナ”の対話力
「私なんかのインタビューでいいのでしょうか?」といいながら、丁寧に答えてくれる黒木アナ
 例えば、職場の会議や打ち合わせで上司の話が脱線し、同じ内容をぐるぐる回り始めたりする。「またか」とは思いつつも、評価への影響や関係悪化を恐れて、愛想笑いでやり過ごしてしまう人は少なくないだろう。だが黒木氏は、あえてそこに踏み込んでいく。

「『それ、さっきも聞きました』って、普通に言っちゃいます(笑)。もちろん、言い回しはオブラートに包みますし、タイミングにも注意を払います。でも限られた時間ですから、その方のもっと面白い話や自分の知らない世界について聞きたいじゃないですか」 

 拒絶ではない。次の扉を開くための関心の表明だ。黒木氏はその意図を、こう語る。

「あなたに興味があるからこそ、次のステージへ進みたい。
否定でなく深掘りによって、次の局面に移行したいという感覚です。このポジティブな変換があれば、相手の自尊心を傷つけずに場を動かすきっかけになると思っています」

 それでもなお議論が迷走を続けるとき、黒木氏が頼るのは意外にも言葉ではない。

「本当に困っているんですと、表情で勝負します(笑)。だいたい竹田さんが、オチに向けた助け舟を出してくれます。結局、嫌われる恐怖よりも、好奇心のほうが勝ってしまうんですよね」

 ただし、誰に対しても譲らない一線もある。

「人として失礼な発言があった時は、『今のは、ダメですよ』とはっきり伝えます。そこは一人の人間として正しく、誠実でありたい。逆に、どんな極論であっても、それがその人の真剣な意見であるなら、まずは楽しみ尽くしたいです」

「聞く力」を支える相手への尽きない好奇心

『そこまで言って委員会NP』で話題。癖強おじさんを手なづける“名物アナ”の対話力
忖度しない真っ直ぐな姿勢が、猛獣たちを唸らせるようだ
 なぜ、こうした大胆な「いなし」が許容されるのか。「キャラクター別の対策とかは考えたことがないんです」と黒木氏はきっぱり断言する。

「共通しているのは、相手が何を伝えれば喜ぶかを常に考えていることです。著書や過去の記事、動画配信で予習し、どのような価値観を持っているのかまで想像を巡らせる。その上で、一人ひとりの楽屋をまわって、衣装につっこんだり、『ご著書のあの部分、面白かったです』と伝えたり、専門分野の最新動向などを聞いたりと、さりげないコミュニケーションを大切にしています。
本当にそれだけです」

 舞台裏で積み重ねる執念に近いインプットもまた、黒木氏の聞く力を支えている。

「番組に携わって7年。当初は政治・経済を筆頭に、様々な分野の知識が乏しく、2週間に一度の収録に向けて必死に本を読み漁る日々を過ごしました。今では、『どの考えや質問をぶつけたら議論が立体的になるか』という設計図(イメージ)がおぼろげに見えてくるようになってきました。あと、次の収録のテーマは衆議院選挙の総括なんですが、議論が枝葉末節に終始した際に、『そもそも日本におけるリベラルとは』と突っ込めるように、扱うテーマのそもそも論は必ず押さえています」

『あなたに敬意を持っています』という姿勢を可視化する、当たり前の積み重ね。それこそが、癖が強すぎるおじさんたちの懐に飛び込むための作法と言えよう。

「団地で育ったおかげか、知らない大人の懐に飛び込むのに抵抗が少なかったのかもしれません。それに、年齢や地位を問わず、誰もが私の知らない“未知”を持っている。それを聞くのが本当に好き。それが昔の武勇伝でも面白いし、学生時代の話題だっていい。特に個性的なおじさまは、知識と知恵を授けてくれる『宝箱』みたいな存在。情報量が多くてお腹いっぱいだなと思ったら、そっと距離を取って小休憩を挟めばいいんですよ」

 周囲の友人からは“目につく”と評される自身のキャラクターを、「ただのポンコツ」と笑い飛ばす黒木氏。
彼女が指摘するように、職場の癖強おじさんも、見方を変えれば「宝箱」なのかもしれない。明日からの会議、まずは一歩深く相手を知ることから始めたい。

アナウンサー
黒木千晶氏

1993年、神奈川県生まれ。青山学院大学卒業後、2016年に読売テレビ入社。現在は『そこまで言って委員会NP』の議長を担当する。報道からバラエティまでこなす安定したアナウンス技術に加え、どんな大物論客にも物怖じしない度胸と、笑顔で鋭く切り込む「いなしの技術」に定評がある。

(編集・文/谷口伸仁、カメラマン/小澤勇佑)
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