アマチュアのボディビル大会NABBA 2025-Over40 で優勝を飾った、ゾンビ井上さん(@ZOMBIE_INOUE)は41歳にして平均月収8万円ほど。しかしかつてはホストクラブや芸能事務所を経営し、年商3億円を誇った辣腕だ。
単に収入だけをみれば没落に思える現在地を、「幸せ」と話すその理由とは――。
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ゲイバーで食い繋いだ20代

――若い頃から社長になるのが夢だったと伺いました。

ゾンビ井上:そうですね。20歳くらいのとき、友人に誘われてネットワークビジネスを始めたんです。初期費用として浄水器を30万円くらいで買うやつなんですけど……。2年間くらい、かつての友人に連絡したりして努力をしたのですが、結局3万円くらいしか儲からなくて。初期費用の30万円があるから、27万円の赤字ですよね。

――2年間マイナスでよく食いしのげましたね。

ゾンビ井上:ネットワークビジネスでは稼げないので、ゲイバーで働いていたんです。昔の友人からは「やばいビジネスに手を出している」と警戒されていたし、ビジネスの特性上、いかにも羽振りがよいように見せないといけなかったので、友人が絶対に入ってこない業界を考えた結果、ゲイバーにたどり着きました。

“売り専”での壮絶な体験の数々

――井上さんの性的嗜好は?

ゾンビ井上:完全なノンケです。ただ、そのゲイバーは非常に健全なお店でした。でも時給が800円くらいでした。それで、店に隠れて、いわゆる“売り専”の非合法っぽいお店でお客を取ることにしたんです。


――アンダーグラウンドですね。どのようなお客さんとどんなことをするのでしょうか。

ゾンビ井上:お客さんは30代~70代くらいまでいたと思います。趣味嗜好もさまざまで、攻められたい人もいれば、自分が攻めたいという人もいました。70代のおじいちゃんから攻められているとき、懸命に妄想をして、懸命に果てたりしていました。30代のお客さんで3時間コースで予約する人に、私は“はじめて”を奪われるんですが、先方が体力もあるのでかなりしんどかったですね。

――ひとりのお客さんあたり報酬はいくらもらえるのでしょう。

ゾンビ井上:だいたい5000円前後だったと思いますね。店が半分以上持って行くようなシステムだったと記憶しています。

目立つポジションから一転して対人恐怖症に

――時系列が前後しますが、ネットワークビジネス以前は、野球に打ち込む青年だったと伺いました。

ゾンビ井上:小学校から高校まで野球をやっていて、特に中学時代はエースを務めてそこそこ活躍していたと思います。高校では強豪校の硬式野球部に所属しましたが、3年間1度もベンチ入りすらできませんでした。

 また部活以外にも、中学時代は生徒会副会長をやるなど、学校生活をきちんと送っていたほうだと思います。
ただ、生徒会の集会などで全校生徒を目の前にしたある日、急にみんなの視線が恐ろしく感じられて、鼓動がありえないくらい速くなり、呼吸が浅くなってしまったんです。それ以来、みんなの前に立つのが怖くて、集会で話す文言を極力短くするなどしていました。先生や生徒たちは「どうしちゃったんだろう」と思ったと思います。詳しくはわからないものの、一種の対人恐怖症になっていたのかもしれません。

――大学もそれで中退された。

ゾンビ井上:そうなんです。大学の授業中に、急にフラッシュバックしてしまって。親や友人には言えないので、「音楽でプロになりたいから大学は辞める」とか言って。実際、バンドを組んでベースを担当していたのは事実なのですが、本当は他人の目が怖かったんですよね。

――バンドも注目されそうですが。

ゾンビ井上:注目が怖いと言うよりも、その注目された環境のなかで私が言葉を話すことで、脈が早くなって呼吸ができなくなってしまうんです。ベースは喋らないので大丈夫でした。


月収が100万円から4万円になってしまう

年商3億円から「月収8万円」に転落…借金1億円でも41歳男性が「幸せ」と語る理由
ホスト時代
――時系列を戻します。売り専の店で働きつつゲイバー勤務も続けてきた井上さんですが、そのあと、ホストに転向されますよね。

ゾンビ井上:はい。ゲイバーのいわゆる上得意のマダムが「あなたはホストとして売れる」と言ってくださって。店も納得したうえでの円満退社でした。そして、22歳くらいのときに大阪のミナミのホストクラブに入店すると、面白いように売れました。これまでゲイバーというユニークな場所で培ってきた話術みたいなものが、ホストクラブでも通用するんだなと思ったのを覚えています。結果的にナンバーワンにもなれて、毎月少なくとも100万円はいただいていたと思います。

――そのあと、上京される。

ゾンビ井上:そうです、東京の超一流店に入ることにしました。そこは全国各地のナンバーワンが集まるような有名店で、レベルの違いに愕然としました。ルックスもトーク力もサービスも、まるで別次元でした。

 私はこの店の寮で寝泊まりをしていましたが、その寮費が月2万円ほど。
ホストは実力主義であり、当時の私の月収は4万円くらいでしたので、月2万円の極貧生活でした。毎日50円のカップ麺をふやかしてすすって、先輩に奢ってもらったりしながら食いつなぎました。貯金がほぼ底を尽きてしまいましたが、さすがにこれでは大阪に帰れないなと思いましたね。

すすきのでは左うちわ…独立して年商3億円

――挫折を味わっても、ホストを辞めなかった。

ゾンビ井上:このまま終わりたくない気持ちがありました。そこで、大阪と東京の知り合いがいない場所でゼロからやり直そうと思い、すすきのを選びました。

――そこではいかがでしたか。

ゾンビ井上:当時のすすきのは、ホストクラブは流行していましたが、サービスのレベルは高いとは言えませんでした。ここでなら勝負できると思い、実際に、入店したお店でナンバーワンになることができました。それだけでなく、地元のラジオ局やファッション雑誌の表紙など、さまざまな媒体で起用していただくなど、当時のすすきのではちょっとした有名人になることができました。最高月収も500万円くらいだったと思います。

――そのあと、独立された。

ゾンビ井上:そうです。
24~27歳まですすきののホストクラブに勤務して、貯金を元手にして2年間でホストクラブを5店舗展開しました。また、BARも2店舗ほど出店しました。当時は知名度があったので、従業員もすぐに集まってくれました。年商3億円くらいに達したのはこの頃です。

――さらにアイドルプロデュースもされますよね。

ゾンビ井上:30歳になったのを機に、もっと違う業種にも進出してみようと思って地下アイドルのプロデュースを始めました。芸能事務所を札幌の一等地に建てて、100坪の土地に劇場を建てました。当時はまだ地下アイドルの黎明期で、そうした大規模な取り組みは少なかったと思います。アイドルオーディションは全日空ホテルでおこない、700人あまりが参加してくれました。そのなかから合格者を決め、ユニットを組んだんですね。地下アイドルながら、海外からの招待で公演もやりきり、オリコンベスト10にもランクインしました。

放漫経営の末、地獄を味わうはめに

――順風満帆じゃないですか。

ゾンビ井上:少なくとも外からはそうみえたでしょうね。
しかし、ホストクラブなどの実質的な運営を任せきりにしていたため、徐々に経営は傾いていきました。ホストクラブのスキームをそのままやろうとしたのも、間違いでした。客単価があまりに違いすぎるんです。店はドミノ倒しのように次々に潰れ、従業員は離れていきました。

――踏みとどまることはできなかった。

ゾンビ井上:結果的にはそうですね。劇場を小さくしたり、事務所を手放したりしましたが、社員にも給料が払えない状態なのでどんどんやめて、とうとうひとりぼっちになりました。意地で35歳まで続けましたが、多くの期待を裏切ってしまったと思います。

――精神的にはどうでしたか。

ゾンビ井上:最後の3年くらい、死にたいなと思いましたよ。大量に酒を飲んで、首を縛ったりして、死のうと何度も思いました。けれども、できなかったですね。そこから知り合いのつてで何とか食いつなぐことができて、生活自体はなんとかできましたが、目は死んでいたと思います。

月収8万円でも、しっくりくる生き方

――いつからトレーニングに目覚めるのでしょうか。

ゾンビ井上:すべての店舗が倒産し、借金が1億以上残ってしまったのち、ふと鏡を見たんです。35歳のときだったと思います。お腹だけやけに出ているのに顔はげっそりしていて、「自分はこんな姿なんだ」とはっとしたんです。2年近くは自宅で筋トレをして、3年目からジムに通い始めました。そのあと、ベストボディジャパンに出てみると、入賞することができました。

――現在は平均月収が8万円ほどだそうですが、過去を振り返って、どう感じますか。

ゾンビ井上:お金をたくさん稼いで100人規模の従業員の生活を担うという幸福も、あると思います。責任も重いですが、確かにやりがいもありました。ただ、もともと物欲のない私にとって、週に3~4回のアルバイトで8万円ほどを稼いで家賃2万7千円の家に住み、ひたすらボディメイクをしながら配信などもする――という生活も意外と性に合っていて幸せです。今は応援してくれる人もたくさんいるし、もう一度この世界で花を咲かせたいなとは思っています。

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 苗字に冠した“ゾンビ”に込めた意味は、「何度へこたれても必ず復活する」。名前負けすることなく、幾度の挫折を超えて井上さんは笑う。エンターテイメントの世界での実績を挙げながら、そこに固執することなく鍛える己の肉体と精神。彼の生き様に、不屈が宿る。

<取材・文/黒島暁生>

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【黒島暁生】
ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki
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