資料調査課は、資料の「料」と調査課の「調」をとって「リョウチョウ」とも呼ばれたり、「料」の偏の読みから「コメ」と呼ばれている。ドラマはその国税局資料調査課から派生した架空の部署、複雑国税事案処理室=通称「ザッコク」が舞台となっている。
ますます盛り上がるドラマ『おコメの女-国税局資料調査課・雑国室-』。国税局資料調査課とはどのようなところなのか、元コメの佐藤さんに話を聞いた。
実はマルサの「強制調査」より怖い、コメの「任意調査」
――資料調査課という名前から地味で窓際族のような印象を抱くのですが、そもそも今回のドラマの舞台である「国税局資料調査課」(コメ)とはどのようなところなのですか?
佐藤:国税局といえば、1987年に公開された映画『マルサの女』で「国税局査察部」、通称「マルサ」が有名ですよね。国税局査察部は、国税通則法に基づく調査で、裁判所の令状をもって強制調査を行う部署です。
マルサの調査は、徹底した内偵により、脱税した所得の証拠(タマリ)で「裏付けとなる資産を把握できた事件が対象」になります。世間ではそのマルサが税務当局における最強部隊のように認識されていますが、徴税に関しては国税局資料調査課(コメ)のほうが圧倒的に怖い存在です。
コメはマルサとは違って、蓄積された膨大なデータをもとに調査対象者を選定し、(納税者による「明示の承諾」が必要とされますが)タマリがなくても令状なしで調査することができます。
――ドラマでも、調査に入る前には「明示の承諾」が必ず描かれていますね。
佐藤:本気で脱税している者は国内にタマリなんて残さないし、簡単にバレるようなところに財産を残さないですから。コメは、マルサが調査しない、あるいは調査できない複雑困難な事案や証拠不十分な事案を扱うのです。
マルサとコメの最大の違いは「調査」にあります。
「任意調査」は「強制調査」に対する対義語なだけで、法律上は、納税者は質問に答えたり調査に応じたりしなければならない受忍義務があります。
マルサの「強制」は、国税通則法(旧国税犯則取締法)という法律に基づいて裁判所から令状を取った調査ですが、コメが怖いのは、脱税の確実な証拠がなく、令状がなくても調査に着手できる点です。
各種マスコミなどの蓄積データ、申告データから「これはクサい」と思う案件を探し出して調査します。無予告、つまり事前通告をせずにターゲットの会社や店舗などに踏み込むことができるのです。
――ドラマのなかでも松嶋菜々子さんが怪しいターゲットを見て、「ぬかの臭いがする」と決め台詞を言うシーンもありますね。
佐藤:コメは、マルサが手を出せない案件まで扱うことからいえば、“税務調査の最後の砦”ともいえる。少数精鋭で、配属される職員には高い調査能力が求められる、そんな部署が資料調査課です。
ただ、コメとマルサは調査の性質に違いはあるものの、不正をただす部署として目指す方向は同じ。お互いのノウハウを浸透させるべく、査察部と課税部の間では人事交流も行われています。
国税が踏み込んだとき……調査現場のリアルとは?
――ドラマでもザッコクが調査に踏み込むと、調査対象者は焦ったり、余裕しゃくしゃくだったり、さまざまな姿が描かれています。実際、コメが踏み込んだら、対象者はどのような反応をすることが多いですか?
佐藤:ほとんどの人は怒りますね。
――その怒りに対して、コメはどのように対応するのですか?
佐藤:私は、常にポーカーフェイスを心がけていました。相手が怒っても、笑っても、泣いても、こちらは感情を表に出さない。淡々と対応します。ここで下手に謝ったり、感情的になったりすると揚げ足を取られてしまうので、乱暴な言葉は絶対に使わず、非常に丁寧に対応していましたね。
流行りの儲かるビジネスは調査対象に?
――ドラマではインフルエンサーや動画配信者、セミナー屋、美容クリニックなどが脱税の首謀者として描かれています。調査対象はどのように選定されるのでしょうか?佐藤:国税庁が発表している「所得税申告漏れ高額ランキング」に載っている業界・業種は重点的に見られる可能性が高いのですが、そもそも「調査重点業種目」っていうのは毎年決められます。
佐藤:現金商売や好況な業界が多いですね。コロナ禍でペットを飼う人が増え、ブリーダーは近年特に不正が増えている業種ですが、ペット産業もずっと重点業種です。ペット自体も高価ですし、ブリーダーやペットフード、トリミング、動物病院なども含めると、市場規模は非常に大きいですから。
昔、北京オリンピックの頃、鉄と非鉄の価格が高騰したときには、鉄くずや鉄板などを扱う会社を狙って調査したことがありました。
ほかにも、日本産のナマコは“黒いダイヤ”と呼ばれて、中華料理で高級食材として珍重されるんです。中国などに高値で輸出して大きく売上・利益を伸ばした漁師がいたり、時節柄の特需というのはありますね。
今は金の価格が非常に高騰しているので、「金(ゴールド)」に関する業界は、調査が増えるかもしれませんね。特に香港は消費税がないので、そこで金を買って日本に密輸し、日本の消費税10%を上乗せして売ればそれだけで利益が出る。1億円分持ち込めば1000万円の儲けです。
脱税資金で買った金を売却したのかもしれないし、売却した申告をしてないケースも多いはず。
金の売却価格が200万円を超えると、買取業者は税務署へ「支払調書」の提出が義務付けられ、税務署に把握されます。それがバレないように、200万円以下になるように加工する加工業者まで出てきているので、“ぬかの臭い”がするかもしれません。
――以前は「2~3年泳がせて、脱税額が大きくなった頃合を狙う」なんて話もありました。
佐藤:たしかに、かつては仮想通貨のような新しいビジネスが出てきたら、2~3年泳がせてから調査するということもありました。しかし、今は事業のサイクルが速く、3年も待っていたら会社ごとなくなってしまう可能性があります。
特に外国人などが関わっていると、足が速い。3年後にくるとわかっている人は、1年で大きく稼いで会社を変え、また別の場所で同じようなことを始めます。ですから、今では2年、場合によっては1年で着手することもあると思います。
【プロフィール】佐藤弘幸
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