コンビニに駆け込み、「ストロング系」と呼ばれる缶チューハイを買い、そのまま胃に流し込む。
いくら飲んでも酔いつぶれることができなくなった。しかし、体は確実に蝕まれていくーー。
本連載では、20代でアルコール依存症になった、ひとりの編集者の転落と回復の日々を追う。
ストレスのはけ口は酒だけではない
筆者の性格を一言で表すと「卑屈」である。何事もマイナスに捉え、どうがんばってもポジティブに考えることができない。仕事もプライベートも変わりない。それで、ストレスを溜め、徐々に被害妄想も激しくなり、日々不安と憤りを感じながら、腹を痛めて生きている。そのストレスのはけ口として、筆者は酒に逃げた。いや、酒だけではない。高カロリーの弁当を一気にかき込むドカ食い気絶、ニコチンが多く含まれたタバコ、エナジードリンク(以下、エナドリ)……。
酒をやめた今も変わらない。終身雇用の企業で働かない代わりに、大手出版社から著書も出せたため、それなりに胸を張って生きていけるはずだ。ただ、いまだに両親を前にすると、IT企業に勤めたり、アプリを開発したり、起業したり、外資系企業で働いたほうが、安心させられたのではないかと考えてしまう。
別に両親は今の筆者の仕事を応援してくれているのだが、勝手に自分がそう思ってしまい、それがさらにストレスに変換されるのだ。
卑屈さの原点は小学生時代に
この卑屈さはいつから始まったのか? 多分、小学生の頃からだろう。当時、小学校のサッカーチームに入っていた筆者だが、あまりにも運動音痴だったため、同級生たちが選抜メンバーとして活躍するなか、筆者はベンチにも入れず、「Bチーム」として下級生たちと練習していた。「友達が入っているから、自分もやりたい」と言い出して始めたわけだが、恐ろしいほどに才能がなかったのである。みんなと同じ練習をしているはずなのに、自分だけまったく上手くならない。周りの人間から見てもそう思われただろう。そして、己の実力のなさを痛感するのは自分自身だ。
誰もそんなことを言っていないのだが、この状況を見るに「お前は必要じゃない」と周囲から思われているに違いない。
さすがに小学生で楽しくサッカーをできず、嫌々続けて自分の不甲斐なさに日々落ち込んだところで、なにも徳がない。そこで、両親に「辞めたい」と頼み込んだのだが、「最後までやり切りなさい」と叱責されて終わった。確かにその通りである。
そこで、楽しくないながらも「続けることに意味がある」ということを見出して小学校を卒業したあとも、中学校でもサッカーを続けた。下手なりにうまく立ち回れていたはずなのだが、結局サッカー部が原因でイジメというか事件に遭い、それが学校中を巻き込む大きな問題に発展してしまったため、さらに卑屈になった。
「がんばろうとしただけなのに……。努力は実を結ばないものだな」
単純に自分が得意ではない分野に精を出していただけであって、ほかにも得意としていることや趣味や特技はあった。しかし、一度でも「無能」という烙印を押されてしまうと、人生何事も前向きには進めなくなる。「自分はなにをやってもできない」という考えが先に出てしまうようになったのだ。
サブカルに触れ、東京に出たくなった
そんな忌まわしき中学校を離れ、アメリカで10代のほとんどを過ごすことになったのだが、異国でストレスを抱えずに生きられるはずがない。友達もできなければ、家に帰っても家族しかいない。しかも、英語を話せない。
それなのに、自分よりもあとから来た滞在歴が短い小学生のほうが、現地になじめているのを見ると、また卑屈になってしまう。もっとも、比較する対象が違うのだが……。
ただ、ここで昔の駐在員たちが残して行った日本の書籍に出会う。2010年代なのに『キン肉マン』(集英社)が全巻揃っているマンガという時点で、何十年も前のものばかりなのだが、そこで雑誌「宝島」(宝島社)での人気連載だった、町で見つけた看板の誤植やヘンなものの写真を読者が投稿する「VOW」をまとめた単行本を発見したのだ。今読み返せばコンプライアンスに引っ掛かる表現だらけだし、編集者が投稿者を罵倒している始末だ。まったく世代でもないのに、この時代の雑誌やサブカルチャーに衝撃を受けた。
「こんなデタラメな世界があるのか……。うらやましい」
もともと、文章を書くのは好きで、当時は日記ブログを毎日書いていたため、大学は日本に帰って文章を書いて、もっと本を読みたいと思った。
思うように英語が話せなかったため逃げたわけではなく、能動的に興味があり、得意分野だと思ったから、ここでは卑屈さを感じることはなかった。そもそも、学費が高いのでアメリカの大学に入るという選択肢はなかったし、興味がなかった。それよりも、東京に出たかったのだ。
そして、第1回で書いたが、大学時代は酒に飲まれながらも、本を読み、フリーペーパーを作るサークルで、遅れてきた青春を謳歌した。
夢を叶えるも、やる気が空回り
そして、そのまま中高生の頃に思い描いていた「雑誌やサブカルチャーに関わりたい」という夢を実現させるために、社会人1年目から出版社に入って編集者となる。当時は「雑誌の読み放題サービス」が隆盛を誇っており、出版不況とは言われていたが、なんとか雑誌だけは延命していた。今考えると完全に「特需」だった。入社早々、月刊誌に所属されたのだが、編集部員は10人くらい。そして、下っ端だった筆者はいろんな先輩編集者たちの下に付き、小道具や資料集め、文字起こしなど、なんでもやった。
すると、半年後には自分でページも担当するようになった。ゼロから考え出した企画を形にするのは楽しく、メールと名刺さえあれば、どんな人にだって会いに行けた。さらに、自分の知らない世界についての話を聞くことができ、それを文章にする……。これほど面白い仕事はない。
ただ、大学を卒業したばかりの20代前半である。企画力、文章力、編集能力がまったく足りていなかった。
そもそも、斜陽産業と言われている雑誌業界に、自ら入りたくて飛び込んできた若者である。先輩たちは大いに期待してくれたのだが、その思いも圧力に感じてしまうのであった。
ダメ出しに震え、メンタルが崩壊寸前に
今も現役の編集者である筆者だが、週刊誌、月刊誌、隔月誌、ウェブと、書籍以外の編集はほとんど経験したが、今でも月刊誌が一番大変だと思う。毎月ひとつの特集に対して、専門家でもないのに付け焼き刃で詳しくもないのに、それに特化した企画を会議で提案する。そして、無事に企画が通ればその話を専門家に聞きに行き、記事にしていくという流れだ。
週刊誌と違って月刊誌は時間がたっぷりあるため、そして、記事のクオリティを上げるために、さらに取材を重ね、書籍を読み込む必要がある。それはそれでストレスにもなるのだが、記事を作っている間は楽しい。
しかし、いざゲラが出来上がったところで、百戦錬磨の先輩たちが読むと粗が目立ち、赤字の山だ。好きなことができているとはいえ、それが2~3年も続くと、徐々にストレスも溜まっていく。そして、ここでも筆者の卑屈さが爆発する。
「いつまで、編集部のお荷物になっているのだろうか?」
20代で完璧な記事を作れるようになれるわけがない。
「朝10時の打ち合わせ」を乗り切るためには…
先輩編集者たちも必死に指導してくれるのだが、やはり身体は限界を感じていたのだろう。デスク右側の先輩からダメ出しを受け、左斜め前に座っている先輩からダメ出しを受けたところ、両耳たぶに粉瘤(腫瘍)が溜まり、保険適用内の手術を行うことになった。
もう、こうなると逃げ道は冒頭で述べたように酒、高カロリー、タバコ、エナドリに逃げるしかない。
幸か不幸か出版社はフレックスである。そのため、朝っぱらから出社しなくてもいいのだが、そうなると前日の夜に深酒しても12時過ぎに出社すれば、まだマシだと思われる。さすがに、下っ端がそんな時間に出社していいわけないのだが……。
「明日は打ち合わせがあるから、お酒とか飲まないで早く来てね」
あるとき、先輩編集者からそう言われたのだが。朝10時の打ち合わせである。もはや、この時間に出社するには酒を飲んで早めに眠りにつく以外の方法がない。「朝早く起きないといけない……」というプレッシャーで寝れるわけがないのだ。それが、10時であってもだ。
結局、いつものように深酒して出社したところ、朝っぱらでまだ酒が抜けていなかった。吐く息が酒臭いのだ。
「言いつけ破って、朝までどこかで飲み明かしたのか!?」
先輩に叱責されてしまったが、素直に「酒がないと眠れないのです」というと、先輩はとても悲しそうな顔をしていた。
完全にアル中に…そして体重は30キロ増加
そのような毎日を送っているのだから、家に帰る頃には疲れでフラフラになり、ストレスで腹が痛む。その疲れとストレスから逃れるために酒を飲むものだ。当時はまだ学生のときの名残で、350mlのウォッカを毎日半分飲んでいた。もう深夜に空いてるお店はほとんどなかったため、コンビニや牛丼屋でカロリーの高い弁当を買って帰る。
大盛りの牛丼を一気にかき込んで、間髪入れずにウォッカを流し込む……。そうすることによって、腹の中にあるストレスが一気に体中に散らされるような気がしたのだ。これほど心地が良いことはない。友達がいなくても、ひとりで十分楽しめるのだ。
日付が変わってから飯を食い、昼前に起き上がったところで、酒は抜けていないし、胃袋の中も前日食べたものでパンパンだ。タバコも吸っているため、歯磨きをしながら、舌を磨くときは、嘔吐しているかのように声を出しながら、嗚咽していていた。
それでも、やりたくもない仕事をやっているよりは、終わっていながらも、このような生活を送っているのも楽しい。ただ、こんな毎日送っていたせいで、学生時代から一気に30キロも増えてしまった。
真夜中にそれだけ食べているのだから、朝も昼も食欲が湧かない。それよりも、勤務中は昼食も取れないほど忙しかったのもあるが、なぜか人が働いているオフィスで食事をすることができなかった。
そして、ウォッカをかれこれ6年くらい飲み続けていると、そろそろ身体にも影響が出始める。学生時代と違って、朝起きても疲れがまったく取れなくなり、息切れと動悸は激しくなる一方だ。そのせいで、電車で通っていたにも関わらず、会社に着く頃にはもうグッタリしている。
酒が抜けていないため、体調もまともではなく、朝から晩まで取材の日もあったが、物理的にも精神的に重たい身体に鞭を打ちながら、酒で焼けた喉から声を絞り出して、話を聞いて回った。
酒を飲まずにシラフになれたのは、徹夜した校了日くらいなので、単純計算で年に12回しかない。それ以外は毎日、ウォッカを半分飲み干し、それでも眠れない日は一瓶飲み干した。さすがに、アルコールが抜けきれないため、翌日はふわふわ浮いた気分と、気持ちの悪さを感じつつ、仕事をしていた。
取材先で「うちの患者かと思った」と言われる
そんな中、巷では「ストロング系缶チューハイ(以下、ストロング系)」の危険性を煽る風潮になってきた。
NHKの『ニュースウォッチ9』でも「若者を中心に愛飲されている」と特集され、国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所薬物依存研究部長、薬物依存症センターセンター長である松本俊彦氏は自身のFacebookで「ストロングZEROは「危険ドラッグ」として規制した方がよいのではないか」と主張していた。
「へぇ。そんな、ヤバい酒があるのか」
幸か不幸か筆者はギルビーのウォッカがどのコンビニであれば置いてあるのかということにしか、興味を持っていなかったため、ストロング系のトレンドをまったく追えていなかった。
そこで、この社会現象に興味を持った筆者も後追いで、「ストロング系の危険性」を促す企画を提案したところ、面白がられて通ったため、取材を始めた。
科学ライターや社会学者、酒文化に詳しい編集者などに話を聞くと同時に、アルコール依存症治療で有名な病院の医師にも話を聞くことになる。
その頃は年末でとにかく忙しかった。そこで、取材の前日、景気付けにウォッカを一瓶飲み干して、翌日の医師の取材に備えた。今考えるとかなり、挑発的な行動である。
そして、翌日。取材時間になり、医者の診療室に入ると、開口一番こう言われてしまった。
「あなた記者なの? いや、びっくりした。うちの患者かと思ったよ。だって、顔色が悪すぎるよ」
ストロング系にハマり、さらなるドツボへ
このとき、すでに昼は回っていたのだが、前日の酒がまだ抜けきれてなかったのだ。さすがに、舐め過ぎているし、本丸に何をしに行っているのだろうか……。
「いや、昨日忘年会で……」などと嘘を付きながら、しっかりとストロング系の危なさ、具体的に言うとコンビニにカラフルな缶がたくさん並んでいるのは良くないことや、そもそも簡単に酒が手に入るというのは今の日本はおかしいという話をしてくれた。
ただ、取材に答えてくれた医師は。そんなことよりも筆者の身振り手振りにしか目がいかなかった。
「手が震えています。もしかしたら、アルコール依存症かもしれませんよ」
実際、毎晩飲んでいるのだから、片足は沼に浸かりかけていたに違いない。ただ、昼間から飲むようなことはなかったため、帰りに簡単なアルコールチェックのアンケートを受けさせてもらったが、「ギリギリ、アルコール依存症の手前だね」と言われて返された。
もし、ここでちゃんと相談していれば……。今となっては後の祭りだ。
そして、記事を書くタイミングでさまざまなストロング系を飲んでみたところ、ウォッカよりもゴクゴクと飲めて、簡単に眠れることを知った。しかも、ウォッカの瓶よりも安い。
「こんなコスパのいい酒があるのか!」
かくして、筆者は「ストロング系の危険性」を煽る記事を書きながら、その魅力にハマってしまった。ミイラ取りがミイラになったわけである。
<TEXT/千駄木雄大>
―[今日もなにかに依存中]―
【千駄木雄大】
編集者/ライター。1993年、福岡県生まれ。出版社に勤務する傍ら、「ARBAN」や「ギター・マガジン」(リットーミュージック)などで執筆活動中。著書に『奨学金、借りたら人生こうなった』(扶桑社新書)がある
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