「にくまん子」――口にするのをほんの一瞬ためらってしまう、インパクト抜群のペンネームだ。
 だが、彼女が描くのは下世話でも奇抜でもない。
現代を生きる男女の、痛いほどリアルな恋愛模様である。過去作『泥の女通信』は、シンガーソングライター・あいみょんが絶賛したことでも話題になった。

「言葉はホモサピエンスに与えられた能力ですよ!?」 漫画家・...の画像はこちら >>
 そんな彼女が昨年10月にスタートさせたのが、マンガSPA!で連載中の『恋のカスと愛のクズ』だ。本作の主人公は女性二人。ひとりは、恋愛も仕事も自己肯定感も何ひとつうまくいかず、気づけばいつも“ダメな恋”に足を取られてしまう30歳女性・沼々煮しずみ。もうひとりは、地球人の恋愛行動を研究対象として観察する謎の宇宙人・悶子である。

「なぜ人は、わかっていながら“カス”や“クズ”に惹かれ、同じ恋の沼に沈み続けてしまうのか……」。今回は、その制作秘話をうかがった。

「むっちりもっちり」悶子と、対照的なしずみの誕生

──メインキャラクターの「沼々煮しずみ」と「悶子」は、どのようにして生まれたのでしょうか。

にくまん子:見た目でいうと、悶子は完全に私の好みです(笑)。肉感のある、むっちりもっちりした女の子。正統派のモテ路線ではないけれど、常に需要があるタイプを描きたかったんです。愛嬌があって、なぜかそばにいてほしくなる。
私自身も、そんな存在になりたいという憧れが込められています。

 一方のしずみは、その対極で細身かつ少し陰のあるキャラクターになりました。実は彼女のキャラデザインは二転三転したんですよ。最終的に「サッパリした見た目の女の子のほうが、恋に悩んだり迷ったりしそうだな」と思い、さまざまな要素を混ぜ込みました。

「言葉はホモサピエンスに与えられた能力ですよ!?」 漫画家・にくまん子が語る、「好き」を言わない相手への“違和感”
『恋のカスと愛のクズ』1話より
──しずみと先生に共通点はありますか。

にくまん子:キャラクターの内面は、自分と切り離せない部分があるのは確かです。でも私は、作者と作品は別物として読んでほしいという思いが強く、意識的に自己投影は避けました。

 それでも、自分の感情や経験が作品の素になるのも事実で。悶子のような性への好奇心や、しずみのような「うまくいかなさ」は、私自身に由来しているかもしれません。そこへ周囲のさまざまな人の要素をミックスした結果、この二人は読者さんから「誰々に似ている」と言われるキャラクターとして生まれたのだと思います。

「言葉はホモサピエンスに与えられた能力ですよ!?」 漫画家・にくまん子が語る、「好き」を言わない相手への“違和感”
『恋のカスと愛のクズ』1話より

「読んでいると、まるで飲み会に参加しているような感覚に」

──作品を作るにあたり、発想はどのようなところから得たのでしょうか。

にくまん子:5年前に同人誌として “プロト版” を販売していました。3~4人の女の子が宅飲みをしながら、うまくいかない恋愛や不安定な人生について語り合う――そんな内容です。
今回の新連載では、そこに「読んでいると飲み会に参加しているような感覚になる作品」というアイデアを加え、登場キャラクターも絞り込みました。

──2021年に頒布した同人誌『もしかして たぶん そうかもね きっと』ですね。

にくまん子:そうです。ただ、今回の連載ではシチュエーションを宅飲みに限定していません。居酒屋での飲み会だったり、街を歩いていたり、デートの帰り道だったりと、舞台はさまざまです。人生の悩みどころで“一人反省会”をしながら、何かの気づきを得るようなイメージですね。

「好き」と言わない男・春斗の闇

――キャラクターといえば、7話でついに、しずみの“ピ”(好きな人)である春斗が登場しました。

にくまん子:傍から見れば「この人、何なの?」なんだけど、「恋愛している当事者から見える姿」を描きたかったんです。春斗は……闇が深いですよね。自分勝手なはずなのに、それが魅力にもなっていて、しずみに好かれている。

 春斗は言葉のやりとりに慎重で、「好き」となかなか言わない。たった2文字で好意を示せるのに、あえて言葉にしたくない人っているよなぁ、と思いながら描いています。

「言葉はホモサピエンスに与えられた能力ですよ!?」 漫画家・にくまん子が語る、「好き」を言わない相手への“違和感”
『恋のカスと愛のクズ』7話より
――言われてみれば、そういう人は一定数いそうです。


にくまん子:理由を聞くと「大事なときにしか言いたくない」とか返ってくるんですよ。いや、大事な時っていつよ!?(笑)

「好き」と言うことで、相手が言葉以上の意味を受け取ることもあって、責任とか証拠みたいな、見えない束縛を感じるのかもしれない。きっと言葉から派生するあれこれが、ただただ面倒くさいんでしょうね。でも、しずみはその“面倒くささ”を欲している、という……。

「言葉はホモサピエンスに与えられた能力」

「言葉はホモサピエンスに与えられた能力ですよ!?」 漫画家・にくまん子が語る、「好き」を言わない相手への“違和感”
0303_にくまん子先生②
――ここで本誌カメラマンから、「自分も春斗と同じ“『好き』と言わない派”です」という告白が(笑)。

にくまん子:「同じ熱量で返さなきゃいけないから言わないようにしている」……なるほど、そういう考え方もあるんですね。

――編集部からは「奥手で言えないタイプもいるのでは?」との声も。

にくまん子:言葉はホモサピエンスに与えられた能力ですよ!? 恥ずかしいとか、言った結果どうなるかとかは、この際いったん捨ててほしいです。私は相手に「好き」を投げかけてほしいし、自分からも投げかけちゃうタイプ。学生時代から友人に「恋の駆け引きが苦手だよね」とよく言われていました(笑)。

――かなりのド直球ですね。

にくまん子:そういう意味では、要素はありつつも私は「しずみマインド」ではないのかもしれません。
コロナ禍も経て、何が起こるかわからない今の時代だからこそ、自分から「好き」と言っていきたいんです。

――今後の展開について、話せる範囲で教えてください。

にくまん子:恋愛が主軸ではありますが、人間って恋愛だけが独立して存在しているわけじゃない。しずみにも、恋愛だけでなく、傷ついたり救われたりした背景があって、今があるはずです。今作でも新しい作品でも、家族や男女のさまざまな関係を描いていきたいですね。

 悶子のことは好きすぎて、ついいろいろ描きたくなるんですが、彼女はあくまで観察者。メインになりすぎないように気をつけつつ、彼女の恋愛事情なんかも、どこかで描けたらと思っています。

【プロフィール】
にくまん子
漫画家。日常のふとした瞬間に垣間見える人間模様や、愛憎入り混じる人間たちの機微を掬い取り、鮮烈に描き出す。2019年に刊行された、愛しきダメ女たちのやっかいな恋と人生の物語を描いた短編集『泥の女通信』(太田出版/「完全版」は2024年にWECOMIXから)で注目を集める。その後、『恋煮込み愛つゆだく大盛り』や『涙煮込み愛辛さマシマシ』、『いつも憂き世にこめのめし』(いずれもKADOKAWA)などを発表。中毒性の高い作品で熱狂的な支持を集めている。
現在は「マンガSPA!」にて『恋のクズと愛のカス』(扶桑社)を連載中。

(写真/星 亘 取材・文/もちづき千代子)
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