「私はサボるのが……、いや、休むのが上手いんですよ」
 そう語るのは、漫画家のまんきつさん。アルコール依存症の実体験を赤裸々に描いた『アル中ワンダーランド』(扶桑社)や、体当たりの美容エッセイ『そうです、私が美容バカです。
』(マガジンハウス)で大きな反響を呼んできた。そんな彼女が、次に選んだテーマは「休み方」だ。

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 試行錯誤の末にたどり着いた、まんきつさんなりの「休む」哲学とは何なのか。新連載『何もしないをしに行く日』(マンガSPA!)の開始を記念し、その真意を聞いた。

「休む」をテーマに新連載。漫画家まんきつが語る、何もしない贅沢

──『そうです、私が美容バカです。』の連載が一段落した後、本当は漫画をお休みする予定だったそうですね。

まんきつさん(以下、まんきつ):2025年夏、連載がひと区切りを迎えたとき 「1年くらいは締め切りから解放されて、のんびり過ごそう」と決めていたんです。いっそ漫画以外のアルバイトでも始めようかと思っていたタイミングで、扶桑社・担当編集の高石さんから「連載しませんか」とお声がけいただいて。

──もし連載の話がなかったら、どんなアルバイトを?

まんきつ:よく行くスーパーに、すごく気さくで魅力的な女性店員さんがいたんです。雰囲気が「インリン・オブ・ジョイトイ」さんみたいな。お年寄りから若い子まで、みんな彼女と親しげに話していて。
その人に興味が湧いて。というより、なぜかその人がレジに立っていると、ふらふらと吸い寄せられるようにその列に並んでしまうんです。もう少し話してみたい、どんな人なんだろうと知りたくなって。 同じスーパーに履歴書を送ろうとしていました。

 でも、彼女は異動したのか、レジで見かけなくなってしまって。それで働く動機が消えてしまいました……。ちょうどそのタイミングで、新連載が入ってきた感じです。

「アホになれる人」は休み上手。罪悪感に勝てたら成功

──今回の新連載は「休む」がテーマです。まんきつさんの考える「休むのが上手い人」とは、どんな人でしょう。

まんきつ:「休み」って、本来は生産性がないものですよね。だから「生産性がない=悪いこと」と捉えていると、休むのが下手になってしまう。
「何もしないという贅沢を味わっているんだ」とポジティブに変換できる人は、休むのが上手だと思います。極端な話、一日中、なんとなく床に転がっていても自分を否定しない。「アホになれる人」こそが、上手に休める人ではないでしょうか。

──ご自身は、「生産性のなさ」を満喫できるタイプですか?

まんきつ:もちろん、ものすごい罪悪感はありますよ(笑)。でも、休むと決めたら効率なんて一切考えません。平気で15時間くらい寝る日もありますし、一日中、犬の寝顔を眺めていても苦じゃない。「年をとると長く眠れなくなる」なんて言いますが、私は全然そんなことなくて。

 とはいえ、どこかで「これでいいのか?」と思うことはあります。 罪悪感に勝てたら、もうそれだけで十分です。休みはだいたい成功だと思います。

──休むことに罪悪感がある人でも、慣れれば休めるようになると。

まんきつ:なると思います。
寝てしまえば何も考えずに済みますから。罪悪感を忘れるためにも、まずはお風呂に入ってしっかり寝てほしい。私自身、今はもう「寝すぎた!」と後悔することもなくなりました。というのも、本当にたくさん寝ると、翌朝の肌の状態が全然違うんです。びっくりするくらい違う。美容漫画をやっているので、寝ることを半ば免罪符にしている部分もありますけど 。

「罪悪感もくたびれてくる」50代で手に入れた心の余裕

「休むのが下手な70歳って、あまり聞かない」漫画家・まんきつが辿り着いた、罪悪感を手放す“ご機嫌な”休み方
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──働きすぎている人の中には「休むのが怖い」という感覚を持つ人もいるようです。

まんきつ:それも慣れです、慣れ!……と言えるようになるまでが、めちゃくちゃしんどいんですけどね。私も雑誌で漫画連載を始めたばかりの数年間は、常に締め切りに追われてメンタルがボロボロでした。「早くこの仕事から逃げたい……」とすら思っていたほど、週刊連載は過酷でした。

 でも、そこを一度乗り越えたら、締め切りがある状態が異常事態から日常になってきて、うまくやれているというより、鈍くなったのかもしれません。そのおかげで、前よりは休み方もわかってきました。

──罪悪感と折り合いをつけたというより、いつの間にか慣れて順応していったと。


まんきつ:だってね、もう50代ですもん。図太くもなりますよ。「休むのが下手な70歳」って、あまり聞かないじゃないですか。年を重ねれば、のんびり過ごすことが普通になっていく気がします。年齢とともに、罪悪感もくたびれてくるのかもしれません。

──これから歳を重ねていくことは楽しみですか。

まんきつ:不安はありますが、先が見えない面白さはありますね。10年前の自分が、今を想像できていなかったように、老後がどうなっているかも全然わからない。海外にいるかもしれないし、もう死んでいるかもしれない。

 でも、うちは長生きの家系で、母方には100歳超えがバンバンいるので、なんかすごい長生きするような気がするんです、私。だから、なるべく健康な年寄りになりたい。そのためにも「休む」は大切にしていきたいです。


数時間で結果が出る「料理」が、漫画で疲れた脳を癒やす

──ヒルに血を吸わせるなどの『美容バカ』での体当たりな挑戦や、先ほどのアルバイトのお話もそうですが、新しいことへの探究心がすごいですよね。

まんきつ:年齢とともに脳は衰えていく一方ですが、以前読んだ本に「新しいことにチャレンジすれば脳の神経は育つ」と書いてあって。私は一日でも長く漫画を描き続けていたいので、意識的に脳へ刺激を与えていきたいんです。

──では、最近チャレンジしてよかったことは何ですか?

まんきつ:去年、水キムチを作ったことがめちゃくちゃ楽しかったです。私、冷麺が好きなんですけど、本場の冷麺のスープって水キムチの汁を使うんですよ。韓国の人って、野菜を食べるためじゃなくて、汁を飲むために水キムチを漬けるんだそうで。その発酵した汁を使った冷麺のおいしいこと! そんな初めての経験をしているときは、「ああ、脳がすごく喜んでいる!」と感じます。

──今年、新しくチャレンジしたいことは?

まんきつ:やりたいことリストは山ほどあるのですが……ひとつは『サイレントヒル』というゲームに登場する「バブルヘッドナース」のコスプレ。コスプレは未経験だけど、挑戦してみたいんです。 もうひとつは、タイやラオスで食べられている「ラープ」という料理を作ること。

「休むのが下手な70歳って、あまり聞かない」漫画家・まんきつが辿り着いた、罪悪感を手放す“ご機嫌な”休み方
まんきつ先生が挑戦したい料理の「ラープ」(画像はイメージです)
──ラープ、ですか。あまり聞き馴染みのない料理ですね。


まんきつ:肉や魚と「炒り米」を使ったサラダです。生米を炒って、すりこぎで粉にする工程があるらしくて、そういう面倒な手間をかけるのがまた楽しそうで。 漫画は完成まで1か月以上かかりますし、読者の感想が届くのはさらに先。でも料理なら、2時間もあれば結果が出る。そのスピード感も、私にとっては良いリフレッシュになるんです。

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 後編では、現代社会に蔓延する「休み下手」の実態や、強制的に脳を休ませるヒントについて、新連載の内容を交えながら深く掘り下げていく。

【プロフィール】
まんきつ

1975年、埼玉県生まれ。漫画家。2012年に開設したブログが話題となり、2015年にはアルコール依存症経験をつづった初の単行本『アル中ワンダーランド』(扶桑社)を刊行。その後は、北関東に住むアラサーの日常を描いた『ハルモヤさん』(新潮社)、愛犬2匹とのにぎやかな日常を描いた『犬々ワンダーランド』(扶桑社)などを発表。サウナを舞台にしたエッセイ漫画『湯遊ワンダーランド』(扶桑社)は、2023年にともさかりえ主演でドラマ化された。現在は、『そうです、私が美容バカです。』(マガジンハウス)の続編の準備をしながら、「マンガSPA!」にて『何もしないをしに行く日』を連載中。

撮影協力/黄金湯(東京都墨田区) 写真/山田耕司 取材・文/むらたえりか
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