都内の飲料メーカーに勤める長谷川尚樹さん(仮名・34歳)が語るのは、元交際相手のユイさん(仮名)のことだ。2人は6年前に出会った。
一緒にいるときは問題なかったが…
「最初の印象は、清楚でおとなしい子。明るいタイプではなかったけど、僕もどちらかというと“陰キャ”寄りなので、気が合ったんです。何回かデートをして、付き合うことになりました」長谷川さんが自分を「暗い」と言うのには理由がある。当時、彼は前の会社を辞めて仕事を探している最中だった。おとなしい性格のため、前の上司からパワハラに近い態度を取られ、それがつらくて退職したという。
「退職金や、たまたま入った親族の遺産で生活していました。あとは、家でできる動画編集の仕事をして、なんとか食いつないでました。猫も飼っていたので、ほとんど外に出ず、出かけるのは買い物くらい。ほぼ家にこもる生活でした。ユイもそれを理解してくれて、家でのデートが多かったです」
付き合い始めたころは、部屋で一緒に食事をするなど、落ち着いたデートが中心だった。長谷川さんはあまり外出せず、お酒を飲みに行くこともなかった。
家にいるのに彼女から「どこにいるの?」
しかし、付き合って3カ月ほど経ったころから、ユイさんの様子が少しずつ変わっていった。「どこにも出かけていないのに、会っていないときに浮気を疑われるようになったんです。もともと『私のどこが好き?』とよく聞いてくるタイプだったので、不安になりやすいところはあったのかもしれません。家にいるのに『どこにいるの?』『何してるの?』と立て続けにLINEが来るようになって……。仕事中で返信できないと、『浮気してるの?』『女と一緒なんでしょ?』と何度も電話がかかってきました。仕事に集中するため通知を切っていたこともあったので、それがきっかけだったのかもしれませんが……」
さらに、ユイさんの行動はエスカレートしていく。
「泊まりに来るたびに、部屋を細かくチェックするようになったんです。浮気相手の荷物がないか確かめるために、洗面所の下を開けたり、ベッドサイドの引き出しをのぞいたり……。さすがに『いい加減にしてほしい』と言うと、『浮気してるからそう言うんでしょ!?』と大泣きされました。そんなことが、たまに出かけた外でも起こるように。『今、他の女の人を見てたよね?』と言われたり、僕が黙っていると、突然『私のこと嫌いなんでしょ!』と道端に座り込んで泣き出したり……。本当、参りましたね……」
いちいちユイさんの相手をすることに次第に疲れてしまい、長谷川さんは少しずつ心の距離を取るようになった。
「それからしばらくして、ユイに別れを切り出しました。最初は『絶対に別れない!』と泣きながら引き止められました。でも、僕が本気だと分かると、『わかった……じゃあ荷物だけ取りに行っていい?』と渋々、受け入れた様子でした。ただ、部屋にはユイの荷物がいくつか置いてあった。でも最後に顔を合わせると、また揉めそうだったので、僕が『荷物は送るよ』と言うと、『じゃあ、あなたが仕事に行っている間に取りに行くね。鍵はポストに入れておく』と言われて。それで了承しました」
一通の身に覚えがないメールが…
「件名は『ペットタグ更新のお知らせ』でした。最初は“何のことだろう?”と思いました。
ペットタグとは、ペットの首輪などに付ける小さなタグのことだ。最近はGPS機能が付いたものもあり、スマートフォンと連動して位置情報を確認できるタイプもある。万が一、ペットが迷子になったときのために登録しておくサービスだ。
「でも、僕はペットタグなんて登録した覚えがない。そもそも家猫でしたし、そういうサイトを見たこともない。一体なんのことなんだろう、と気味が悪くなりました」
その後もしばらく、そのメールが頭から離れなかった。そして、ある出来事を思い出したという。
「ユイが最後に荷物を取りに来たあと、なぜか洗濯物をしてくれていたんです。その中に、いつも僕がかぶっていたお気に入りのキャップもありました。そのときは“帽子まで洗うなんて珍しいな”くらいにしか思わなかったんですが……」
お気に入りのキャップにまさかのGPS
それから間もなく、長谷川さんの愛猫が亡くなった。「景色のいい高台で写真を撮っていたとき、急に強い風が吹いて、帽子が飛ばされてしまったんです。探したけど見つからなかった。その前後の様子をSNSに投稿したら、普段はまったく反応してこないユイからDMがきたんです。『帽子は?』って。そのときは深く考えず、返信もしませんでした。でも、あのメールを見てから、ふと思ったんです。もしかして、あの帽子の中に……ペット用のタグが縫い付けられていたんじゃないかって」
ちなみに、ユイさんからはあのDM以来、連絡は一切きていないという。もし長谷川さんの推測が正しければ、帽子の中にGPS付きのペットタグが縫い込まれていたのだとしたら。長谷川さんは、およそ2年ものあいだ、自分でも気づかないまま居場所を知られていたことになる……。恐ろしい話だ。
<取材・文/結城>
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