「1年くらいは締め切りから解放されて、のんびり過ごそう」
 連載が一段落ついた昨年夏、本当は漫画家をしばらく休業し、近所のスーパーでアルバイトすることを考えていたという、まんきつさん。

「休むこと」がいつの間にか“ノルマ”になっていませんか?――...の画像はこちら >>
 前編では「生産性がない=悪いこと」という固定観念を捨て、何もしない贅沢をポジティブに捉える独自の「休み方」の哲学を語ってもらいましたが、後編は現代社会に蔓延する「休み下手」の実態や、強制的に脳を休ませるヒントについて、新連載の内容を交えながら深く掘り下げていきます。


「やり残した宿題」と「休みたい本音」が重なって生まれた新連載

──「休みたい」と思っていた矢先に、「休みかた」をテーマにした連載が始まった経緯を教えてください。

まんきつさん(以下まんきつ):最初にお話をいただいたときは、実は一度お断りしているんです。でもその後、担当編集の高石さんとお話しする中で、以前手がけたサウナ漫画の『湯遊ワンダーランド』(2016~19年連載、週刊SPA!)でサウナの注意喚起を十分に描ききれなかったことが話題になって。

 サウナって、一歩間違えると脱水症状で倒れてしまうような危険も隣り合わせじゃないですか。せっかく「休み方」をテーマにするなら、ただリラックスするだけじゃなく、そういう「安全に、正しく休むための知識」も改めてしっかり伝えたいなと思ったんです。

 一方で、私自身もちょうど『そうです、私が美容バカです。』(マガジンハウス)の連載が一段落して、1年くらいは締め切りから解放されてアルバイトでもしながら、のんびり過ごしたいなと思っていた時期で。「自分自身が本当に休みたかった」というタイミングと、「描き残した宿題(注意喚起)」がうまく合致して。

 それじゃあ、『湯遊ワンダーランド』の番外編という形で、1冊だけ出そうということになりまして。あとタイトルって、けっこう重要じゃないですか。そこから内容を想像して手に取る人も少なからずいますし…。なので、もう少し中身を想像してもらえるものにしたいと思って、毎回タイトルに付けてきた「ワンダーランド」も、今回は思いきって外すことにしました。

現代人に蔓延する「休み下手」の実態とデジタルの弊害

──作中では、担当編集の高石さんが「休むのが下手な人」の象徴として登場します。休み上手な先生から見て、高石さんのどんなところが「下手」だと感じますか?

まんきつ:とにかく夜も土日も働いているんですよね。
大事なビジネスパートナーなので、倒れられたら本当に困るんです。だから、まずは身体を最優先でお願いします。高石さんに限らず編集者は働き者が多くて、明確な休日がないのに自分でも休みを設定しないから、結局ずっと休めていないんです。

「休むこと」がいつの間にか“ノルマ”になっていませんか?――漫画家・まんきつが“休み下手”な現代人にサウナを勧める理由
『何もしないをしに行く日』第1話より
──休むのが苦手な人には、働き者が多いイメージがあります。

まんきつ:私の周りは、みんな働き者ばかりですよ。たとえば、『美容バカ』の担当編集者は、出産した当日にもかかわらず仕事のメールを送ってきましたから。「産んだ日に仕事!? いや、お願いだから何もしないで寝ててくれ…」と本気で思いました。あれは無理をしているというより、彼女の責任感とプロ意識の強さなんだと思います。ただ、そういう姿を「当たり前」にしてしまう空気が、私たちの周りにはあるのかもしれません。

──ワーカホリック気味で、仕事とプライベートの境目が曖昧になってしまうのですね。

まんきつ:だからといって「よし、今日は休むぞ!」と意気込みすぎるのも良くない。仕事と休みをはっきり区切ろうとすると、今度は「休むこと」自体がノルマや作業になってしまいますから。


──たしかに、「せっかくの休みだから何か有意義なことをしなきゃ」と焦る気持ちは分かります。

まんきつ:だから、そういう「休み下手」な人にはサウナがいいんです。サウナにはパソコンもスマホも持ち込めないから、強制的にデジタルデトックスができる。今はみんなスマホを見過ぎていて、休んでいる間も仕事の通知に怯えているじゃないですか。物理的にデジタル機器から離れることは、脳にとってもすごく良いはずです。

「現実逃避」から始まる、創造的な休日の第一歩

──第1話に「休むことはクリエイティブな営みだ」というモノローグがありました。先生にとって「休む」ことは、創作にも繋がっているのでしょうか。

まんきつ:常識の枠から少しはみ出すことが、私にとっては最高の気分転換なんです。 たとえば、ヒルに血を吸わせる健康法を試してみたり。結果がどうなるかわからないものって、先が読めないぶん 仕事を忘れて没頭できる。

 作ったことがない料理を作るのも同じで、「未知の経験」をしている間は脳が刺激されます。……ちなみに、電気式の蚊取り線香で、ヒルは死んでしまいました。
無知でした。ショックでしばらく立ち直れませんでした。

「休むこと」がいつの間にか“ノルマ”になっていませんか?――漫画家・まんきつが“休み下手”な現代人にサウナを勧める理由
『何もしないをしに行く日』第1話より
──最後に、休むことに苦手意識や罪悪感がある人へ、初心者向けの「休みかた」を教えてください!

まんきつ:それはやっぱり、サウナ。銭湯でも家の風呂でもいいです。まずは強制的にスマホを手放す環境に身を置くこと。それが「何もしない」への第一歩ですよ!

 と、偉そうに言ってしまいましたが、最近ふと思ったんです。私は休むのが得意なんかじゃなくて、ただ現実から逃げているだけなんじゃないかと。苦しいことを先延ばしにしているだけで、問題は1ミリも減っていない。もしかして私、「休みのプロ」じゃなくて、ただの「現実逃避のプロ」なのかもしれません。

【プロフィール】
まんきつ

1975年、埼玉県生まれ。漫画家。2012年に開設したブログが話題となり、2015年にはアルコール依存症経験をつづった初の単行本『アル中ワンダーランド』(扶桑社)を刊行。
その後は、北関東に住むアラサーの日常を描いた『ハルモヤさん』(新潮社)、愛犬2匹とのにぎやかな日常を描いた『犬々ワンダーランド』(扶桑社)などを発表。サウナを舞台にしたエッセイ漫画『湯遊ワンダーランド』(扶桑社)は、2023年にともさかりえ主演でドラマ化された。現在は、『そうです、私が美容バカです。』(マガジンハウス)の続編の準備をしながら、「マンガSPA!」にて『何もしないをしに行く日』を連載中。

撮影協力/黄金湯(東京都墨田区) 写真/山田耕司 取材・文/むらたえりか
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