―[その判決に異議あり!]―

住民税滞納で、県市町村総合事務組合が給与の入金直後の口座13万円余りを全額差押えしたのは違法だとして、徳島市の男性が返還と慰謝料を請求した裁判で、2月2日、徳島地裁は「実質、給与差押え」と違法認定。超過分約7万6000円の返還を命令した。

“白ブリーフ判事”こと元裁判官の岡口基一氏は、「住民税全額差押え返還申立て訴訟」について独自の見解を述べる(以下、岡口氏の寄稿)。

「給与振込直後の口座を全額差押え」徳島地裁が違法認定…元裁判...の画像はこちら >>

税金滞納の全額差押えに待った。貯金でも実質は給与、違法と認定!

 税金を支払わないと、税務署は納付するよう本人に督促する。それでも納付に応じなければ、滞納者の財産は差し押さえられる。税務署は差し押さえた財産を競売にかけ、その売却代金で税金の支払いに充てる。

 もっとも、この手の滞納者には目ぼしい財産がないことも多い。その場合、税務署は、会社から給与が支払われる前にそれを差し押さえることもできる。支払い前に差し押さえられれば、給与は本人に渡らず、税務署に回収される。

 この差押えは会社にも及び、会社は本人ではなく税務署に給与を払う形になる。

 ただ、給与の全額を差し押さえれば生活が破綻するのは目に見えている。そこで、差し押さえられるのは、原則として給与の4分の1だけと定められている。要するに、最低限の生活費だけは残せ、という建前だ。


 ここでややこしいのは、この制限が「給与が支払われる前」の話だという点だ。

 給与は通常、預金口座に振り込まれる。すると、振り込まれた後の金は形式的には「預金」だ。この場合、給与差押えの4分の1制限は及ばず、預金として全額差し押さえることもできる、という扱いになる。

 振込後は銀行に対する「預金債権」になり、法律上はもはや“給与そのもの”ではない、という理屈になる。だから役所は振込日を狙って口座を押さえに来る。

徳島地裁は「返還すべきだ」と判断

 今回、取り上げる事件はまさにこれだ。徳島市が、ある市民の滞納した住民税を徴収するため、給与が振り込まれた直後の預金13万円余りを全額差し押さえた。

 しかし、これでは手元に1円も残らず、生活はすぐさま立ち行かなくなる。給与の4分の3の差押えが禁じられている趣旨からすれば、給与が振り込まれた預金についても、差し押さえられるのは4分の1までにすべきだ、と言いたくもなる。

 だが、そんなに簡単な話ではない。差押えが禁止されているのは、あくまで給与であって預金ではない。
最高裁が平成10年2月10日、振込後の預金の差押えを是認する判断をしているからだ。

 そのため下級審の裁判官は、この手の事件が起きると毎回思い悩む。最高裁判決には従わなければならない。しかし、本当にそれでいいのか、と。報道によれば、この市民は全額差押えで生活が破綻したという。そうならないように、給与の全額差押えが禁じられているのではないのか。

 今回、徳島地裁は、差押えのタイミングが「給与の振込直後」だったことに着目した。これは実質的に給与の差押えと同視できる、というロジックで差押えを違法とし、給与の4分の1を超える部分を返還すべきだと判断した。

 この市民の口座に、給与13万円余りしか入っていなかったことも大きい。もし口座にそれなりの残高が残っていて、そこへ給与が振り込まれていたら、預金と一体化してしまい、給与の差押えと同視しにくくなるからだ。

 そしてもう一つ幸いだったのは、リーガルマインドのある裁判官に当たったことだ。最高裁判決に形式的に従うだけではなく、事案の特殊性を見て判断した。
こういう判断ができる裁判官も、まだいるのだ。

<文/岡口基一>

―[その判決に異議あり!]―

【岡口基一】
おかぐち・きいち◎元裁判官 1966年生まれ、東大法学部卒。1991年に司法試験合格。大阪・東京・仙台高裁などで判事を務める。旧Twitterを通じて実名で情報発信を続けていたが、「これからも、エ ロ エ ロ ツイートがんばるね」といった発言や上半身裸に白ブリーフ一丁の自身の画像を投稿し物議を醸す。その後、あるツイートを巡って弾劾裁判にかけられ、制度開始以来8人目の罷免となった。著書『要件事実マニュアル』は法曹界のロングセラー
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