児童相談所で自身のIQを知った
――佐藤さんがご自身の知能指数を知ったのは、14歳の頃だったそうですね。いきさつを教えてもらえますか。佐藤果玲奈:はい、母が私の育児における悩みをスクールカウンセラーに相談したことがきっかけでした。当時、母もいろいろな問題を抱えていて、すがるような思いで相談をしたのだと思います。カウンセラーさんが「もしかするとお子さんが何かしらの特性を持っているのかもしれないですね」とアドバイスをくださって、児童相談所に行きました。そこで知能検査を行うと、IQ70弱という数字がわかったんです。
――お母様と佐藤さんはあまりうまくいっていなかったのですか。
佐藤果玲奈:いえ、どちらかといえば非常に仲の良い親子だと思います。おそらく私が保育園に通っている頃に、母は父と別れたのだと思います。そして、母方の祖父母と一緒に私たち家族は暮らし始めました。何でもやりたいことを尊重してくれる、いい母親です。
勉強は苦手。母が宿題を代行したことも
佐藤果玲奈:そうですね。小学生の頃から、夏休みの宿題などは泣きながらやっていたと思います。どうしても終わらないときには、母が利き手ではない左手で、わざとヘタな字で宿題を代行してくれました。ただ、学生時代、母もあまり勉強が得意なほうではなかったらしく、私に対して「勉強しなさい」みたいな強要もなかったと思います。
――学生時代の、佐藤さんのキャラクターを教えてください。
佐藤果玲奈:身体を動かすのが大好きで、体育だけは得意で、でも勉強ができないおバカキャラでしょうか……たぶん、どこの学校にもひとりくらいはいるような子です。
――境界知能で学習に躓きがある場合、学校でいじめられる子も多いようですが。
佐藤果玲奈:いとこがいわゆるヤンキーで、そのおかげでスクールカーストの上位ランクに位置する女子グループに所属させてもらっていたんです。ただ、会話の内容などに関心が持てず……。
――具体的にどういうことですか。
佐藤果玲奈:たとえばみんなが盛り上がっているドラマとか芸能人の話もまったくわからないし、みても関心を持てないんです。特に中学校に入学すると、女子は会話のレベルがぐんと上がるんです。行動範囲も広がるし、交友も活発になるので、いろんな話が飛び交います。私はそんなみんなの話を「へぇ」って聞いているだけで、ついていけなかったですね。
高校受験で焦りを感じ、大人と真剣に向き合う
佐藤果玲奈:中3まではまったくしませんでしたね。そもそも学習の習慣がなくて。下校して家に帰るとご飯たべて寝ちゃって、そのあと22時に起きて深夜までスマホいじって……気づいたら朝を迎えていることもありました。成績は散々でした。
――変わったのは、受験ですか。
佐藤果玲奈:そうですね。本当にこのままだと進路がないとわかって、焦ったんです。でも勉強には関心が持てないし、そもそも難しくて。
――学習姿勢が変わった。
佐藤果玲奈:変わりました。恥ずかしい話、中1のときはクラス全体で先生のことをからかって泣かせてしまったこともあって。私もそれに加担していました。けれども、放課後デイサービスのスタッフさんが「焦らなくて大丈夫だよ」「無理なくていいからね」と言いながら、こちらのペースに合わせてゆっくり教えてくれたので、期待を裏切りたくないと思うようになったんです。もしも私が中1のときみたいな授業態度だったら、スタッフさんたちがガッカリするだろうし、そういう人間に戻りたくないなと。
――進学した高校では、生徒会長もやるわけですね。
佐藤果玲奈:はい、偏差値は40にも届かないような高校ですが、中3のときに感じた感謝を持ち続けられたかなと思います。中学卒業のとき、スタッフさんたちが「何か悩んだら、またいつでも来てね」と優しく言ってくれて。
就職先で辛酸をなめた経験を活かしたい
――いま、なぜ境界知能当事者の体験談を集めているのでしょうか。佐藤果玲奈:当初は、アプリケーションソフトを作りたいと思っていたんです。境界知能といっても、個々で特性が違います。私についてお話すると、私は視覚情報を処理するのは比較的得意なんです。でも耳からの情報を苦手としています。社会人になると、よく「メモをとりなさい」と言われることが多いですよね。私は書くことに集中しすぎるため、話の内容をほぼ理解できません。あるいはメモはとれても、字が汚すぎて読み返せないこともあります。普通の社会人としての生活を送るのは、職種によっては致命的だと思います。そうした人たちの個別的な特性を把握して、アプリが「この人にはどんなアプローチをすれば伝わりやすいか」を解析して、他の人に紹介してくれるようになればいいなと思ったんです。
――ご自身も、社会人生活が苦しかったですか。
佐藤果玲奈:工業高校に進学したおかげで、複合機関連の大手企業の子会社に就職が叶いました。
――つらいですね。一方で、転職の前後ではご結婚もなさっていますね。
佐藤果玲奈:はい、プライベートは優しい夫に恵まれました。同棲するときに「境界知能なんだよね」と打ち明けても、「俺がいるから大丈夫だよ」と理解を示してくれました。一般に結婚などの障壁にもなり得るかと思いましたが、ご家族も受け入れてくれて、とてもありがたく思っています。
「仕事ができない」と見捨てるのではなく…
佐藤果玲奈:そうですね。境界知能といっても、アプローチの仕方次第では仕事をすることはできると思います。
先ほどお話したようなアプリケーションの開発も有効だとは思いますが、もっと直接的に、境界知能の人たちを集めて会社を作り、それぞれの得手不得手をわかったうえで仕事を与えられるような場所にできたらいいなと今は考えているんです。
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佐藤さんは境界知能の当事者に対する風当たりを「社会課題のひとつ」だと話す。重い知的障害を持つ人たちに対して配慮がなされるようになった反面、平均に満たないけれど重度ではない人たちに対する視線は厳しくなった。単なる悪口として「境界知能」と言葉を投げかける不届き者さえいる。社会の偏見を抜本的に変えていくために、当事者に何ができるか。境遇を同じくする者たちの内なる葛藤を昇華させ、世間に跳ね返す準備にいま、乗り出す。
<取材・文/黒島暁生>
【黒島暁生】
ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki
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