コンビニに駆け込み、「ストロング系」と呼ばれる缶チューハイを買い、そのまま胃に流し込む。
いくら飲んでも酔いつぶれることができなくなった。しかし、体は確実に蝕まれていくーー。
本連載では、20代でアルコール依存症になった、ひとりの編集者の転落と回復の日々を追う。
不安をアルコールで麻痺させるしかない
子どもの頃、ディズニー映画の『ダンボ』でダンボが誤って酒を飲んで泥酔して、ピンクの象の幻覚を見るシーンをケラケラ笑って喜んで観ていた。それが大人になった今では、毎晩泥酔して黄色い象を見ている。アルコール依存症とうつ病は表裏一体だ。というよりも、アルコール依存症の人間は同時にうつ病を患っている。いわゆる「酒うつ」である。
酒と心のどちらが先かは人による。心配事や不安から酒に逃げるか、あるいは酒を飲んでいると翌日、抑うつ気分を強めるのか……。
酒を飲んでいない状態だと不安になる。将来のこと、仕事のこと、恋愛のこと……それだけではない。この国の行く末、環境問題、終わらない戦争……。正直、自分だけの力ではどうにもならないことにすら憂いてしまう。
それで、酒を飲んで落ち込むのだから、酒を飲まない人間からしたら意味がわからないだろう。ただ、酒に溺れている人間はだいたい同じような感情で泥酔しているはずだ。
「廣井きくり」に見た、依存症のリアル
最近見たアニメで『ぼっち・ざ・ろっく!』がある。この作品に登場する「廣井きくり」という、女性キャラクターはステージ上では完璧に演奏をこなすロックスターだが、その一方で普段からパックの日本酒や瓶を片手に持っている「酒飲み」だ。
しかし、彼女も酒を飲まなければ普段のズボラな生活ではなく、少子化問題など、自分に関係のない社会問題に対して不安を募らせてしまうため、酒を飲んでそれらを忘れようとする。
本人はそれを「幸せスパイラル」と名付けているが、これはほかの作品の酒飲みキャラクターと一線を画すリアリティがあり、アルコール依存症の本質を捉えていると感じた。
いわゆる、マンガやアニメの酒飲みでいうと、例えば『ちびまる子ちゃん』の父親のひろしは、登場するときはだいたい食卓で酒を飲んでいるが、特に苦悩や仕事のストレスを抱えている印象はない。
これまでの「酒飲み」のイメージは「何もせずに酒だけ飲んでいるダラシのない奴」だったが、廣井きくりはそれをアップデートさせた。つまり、明確にアルコール依存症患者を描いている。
心配性で働き者ほど酒に逃げてしまい、アルコール依存症に陥ることを示唆しているのだ。そして、幸せスパイラルという名の「連続飲酒」をコミカルに描いている。
虚無感との闘い…仕事が唯一の防波堤に
この連載でたびたび引用しているが、『今夜、すべてのバーで』(講談社)で中島らもは次のように語っている。酒をやめるためには、飲んで得られる報酬よりも、もっと大きな何かを、「飲まない」ことによって与えられなければならない。それはたぶん、生存への希望、他者への愛、幸福などだろうと思う。飲むことと飲まないことは、抽象と具象との闘いになるのだ。
実際、当時20代中盤だった筆者は、家族の幸せを願ってはいたが、自分自身は生きる希望もなければ、嫁も子どももいないため守るものもない。そして、筆者か家族か友人が先なのかわからないが、いずれみんな死ぬ……。
そんなことを考えていると、また虚無感に襲われてしまう。だから、酒を飲む。
嫌な現実から目を逸らすため、辛いことを忘却するために、酒でめちゃくちゃな生活を送りながらも仕事に打ち込む。
仕事を取り上げられたら、それこそ生き甲斐がなくなる。そしたら酒を飲まなくなるのだろうか? そんなことはない。
筆者がここまで極端な考え方になったのは酒のせいではなく、学生時代に経験したアルバイトが人生観に影響していると思う。
当時、働いていた漫画喫茶は非常に治安が悪く、店が店なら客も客という具合に、双方極まった人間しかいなかった。なんにせよ「この人たちのようにはなりたくない」と強く感じたのだ。
アルバイトとして勤務を始めて数週間後には、警察が大挙して客が逮捕され、飲み過ぎているのか、「なにかしら」の影響で全裸になって暴れる客を取り押さえ、トイレはいつも吐瀉物まみれ。そして、100円単位の延長料金に難癖を付けて怒り出す大人と、「持ち合わせがないから」と言って逃げ出す大人、店内の備品を盗んで無断で飛ぶ大人……。
「こんな大人にはなりたくない」
働いた期間は4年ほどだが、この空間で嫌というほど嫌な大人たちを見てきた。
そのため、どれほど編集者の仕事が大変でも、今の仕事を辞めてしまうと、またここに戻ってきてしまう……。だからこそ、酒浸りになりながら、毎日ハードワークをこなす筆者には、仕事を辞めるという選択肢はなかったのだ。
“ストロング沼”に両足を突っ込んだ
第2回で述べたように、とある雑誌の企画でストロング系缶チューハイ(ストロング系)の危険性を促す記事を作っていたところ、筆者自身がストロング系にハマってしまった。これはストロング系の依存性うんぬんではなく、単純に筆者がウォッカを毎日飲む「習慣飲酒」の前提があったからであり、それよりもコスパの良いストロング系に変わったというだけである。また、近所のコンビニからウォッカが置かれなくなってきたため、そろそろ飲む酒を変える必要性も出てきたのだ。
ウォッカを毎日飲む生活も、最後のほうは毎日一瓶飲み干していたため、かかる費用は毎日600円。それがストロング系の場合は500ml缶3本と300ml缶2本でほとんど同じ値段である。
しかも、ウォッカを原液で喉に流し込むのと違って、ストロング系の場合は人工甘味料で甘く、まるでジュースのようにゴクゴクと何間も飲み干せた。
また、翌朝もとんでもない二日酔いになることも少なくなった。やはり、直接アルコールをそのまま流し込むよりも、炭酸や人工甘味料で割ったストロング系のほうが、体への負担は少ないのだろう。というよりも、ウォッカの瓶に毎晩直接口を付けて、「カーッ!」と言いながら飲んでいた頃がおかしかったのだ。
こうして筆者の晩酌はストロング系に変わった。
何を言っているのかわからないかもしれないが、「飲んだ容量(ml)×アルコール量(%)×0.8(比重)」で純アルコール量を計算することができる。それで、筆者が気持ちよく泥酔、失神できるための純アルコール量は「158g」ということがわかった。詳しくいうと、ストロング系350mlを2本と500mlを3本飲んでいたため、「2200ml×9%×0.8=158.4g」である(ちなみに、厚生労働省によると「生活習慣病のリスクを高める飲酒量」の1日当たりの純アルコール摂取量は男性で40g以上である)。
これを下回ると酩酊くらいで終わってしまい、超えてしまうとたった数gなのにもかかわらず、翌日は二日酔いに襲われるのだ。
どのように計算していたかというと、当時、スマートフォンに沖縄県が開発した「うちな~節酒カレンダー」という、日々の飲酒を記録するアプリを入れていた。
これは「どのようなお酒を何杯飲んだのか?」ということを記録して、飲み過ぎを防ぐためのアプリで、例えば「ビールを1本」飲むと画面上のシーサーがニコニコ顔で「ほろ酔い期」となり、ストロング系を2本飲めば目がグルグル回っているシーサーが「酩酊期」を示してくれるものだ。
ただ、筆者はこのシーサーに毎晩150g以上のアルコールを飲ませていたため、常に「昏睡期」に陥らせてしまい、シーサーは小便を垂らしながら、白目を剥いて倒れていた。
そういえば、一度、吉祥寺でガールズバーのキャッチに声をかけられたことがある。普段は聞く耳も持たないのだが、その日は仕事がうまくいき、みんなからもチヤホヤされたため、気分よくホイホイついてしまった。
そこで、ブラックニッカをロックでガバガバ飲まされた結果、記憶を失ってしまった。気が付いたら、家のベッドの上。
ただ、この10万円で何本、ストロング系が購入できたのだろうか……。
どうも記憶が曖昧。脳みそが溶けていた?
胃が荒れない飲み物であるストロング系を、濃い味の弁当と共に流し込む。そして一服をキメる。これが1日の締め方であり、楽しみだった。どれだけ、仕事で疲れてもこの1日の締めさえあればやっていける。多分、ストロング系を1缶飲むたびに脳がトロトロと溶けていった気がする……。いや、もしかすると、本当に溶けたのかもしれない。というのも、この頃の記憶は非常に曖昧なのだ。
よく「子どもの吸収能力は乾いたスポンジのようだ」というが、筆者の場合はすでにストロング系でビチョビチョのスポンジに、さらにストロング系をぶちまけて、吸収力という名のスポンジを酒浸しにしてしまった。
そんな飲み方をするくらいであれば、編集者なのだから、居酒屋やバーに行ってそこでお酒を嗜みながら交友関係を広げていくべきだろう。しかし、20代前半の筆者は毎日、居酒屋で晩酌できるほど金はない。同業者が集まるゴールデン街のバーなどもってのほかで、法外な値段に感じた。
それに、普段は家でひとりで飲んでいるため、飲み会などで居酒屋に行ったとしても、その帰り道に「1日の締め」のため、改めてストロング缶を買うのだから意味がない。
きちんと、158gにするために、例のシーサーのアプリに飲み会で飲酒した量を打ち込み、何缶まで飲めるのかを確かめていたのだ。ただ、飲み会が終わった時点で、アプリのシーサーはとっくに倒れている
だったら、せめて自炊でもすればいいのだが、母親が料理上手だったため、それと比べると自分の作る料理はなにを作ってもマズい。自己嫌悪に陥り、冷蔵庫にはチューブのわさびや梅肉しか入ってないほどだ。ちなみに、アルコールは常備すると際限なく飲んでしまうため、毎晩購入していた。
一度、母親が作ったことのないメニューを作ろうと思い、にぼしをミキサーで削り、豚骨を砕いて本格的にラーメンを作ったが、苦労とかかった金額の割に3食分くらいしかスープができなかったため、心の中でなにかが折れてしまい、『ガチンコ』(TBS系)の「ガチンコラーメン道」の佐野実のごとく、スープも麺もすべてシンクに流して捨てた。アルコール依存症のくせに妙に繊細なのだ。
「裁量労働制」に歓喜しつつ、ビデボに泊まる夜も
仕事の苦痛から逃れるために、酒を飲んでいたわけだが、4年も経つと、ようやく記事の作り方のコツを掴み、それなりに「使える」編集者になったため、自分を卑下することはなくなったが、その分、仕事量が増えた。ただ、それが「期待されている」という気持ちに変わり、ますます仕事に生き甲斐を感じて、グビグビと酒も飲んだ。
しかし、世界が大きく変わる出来事が発生する。新型コロナウイルス感染症の世界的感染拡大だ。
筆者のいた月刊誌も本来は東京五輪があることから、2020年は夏に1号休みになるという話だったのだが、緊急事態宣言が発令されて以降、流通網が機能しなくなったため、なんだかんだで2カ月に1回の発行になってしまった。隔月誌である。さすがに、それを聞いた日はショックでストロング系をもう1本追加で飲んだ。翌日は吐いた。
そして、刊行ペースも変われば、働き方も変わる。出社をできるだけ避けるようにして、テレワークということで家で仕事をすることになった。
だからといって、別に昼間から飲むようなことはなかったが、VPNなどで出社時間が管理されていなかったため、どれだけ夜遅くに飲酒しても、早起きする必要はなくなり、自分のペースで作業できるようになった。
「便利な時代になったぞ! 自分のペース配分で働き放題だ」
それにしても、若手社員の出社時間の30分前に出社してゴミ捨てをする、会議での板書、飲み会の幹事、電話応対、大きな声での挨拶といった文化が「人事評価」の軸にならなくなったのは革新的だったと思う。
そんな中、筆者は出社時間を気にすることなく、深酒をしてもゆっくりと起きられるようになったため、かなりストレスは緩和された。
ただ、その分本当に朝起きられなくなったため、月1回の10時30分から行われるオンラインの全体会議の前日は、家の近くのビデオボックスに泊まるようにした。店員にモーニングコールしてもらい、ふらつきながら家に帰って何事もなかったかのように会議に参加していた。
当然、そのビデオボックスには筆者が飲み干したストロング系の缶が5本も置いてあったため、清掃に入った店員は引いてしまっただろう。「こうはなりたくない」と思っていた漫画喫茶の大人に筆者もなりかけていたのだ。
編集者は裁量労働制ということもあり、昼から仕事を始めても成果物さえ出せばいいという理由で、深夜にストロング系を飲みながら、せっせと事務仕事をこなした。原稿もやはり大学生の頃感じたように、酒を飲みながらのほうが上手に書ける気がした。
そのため、ストロング系を5本飲み切って倒れるまで、原稿を書いていたところ、それはそれで集中していることから、目が冴えてしまい、朝の4~5時まで仕事に熱中していた。
本来であれば翌日送るためのメールも下書きを書いて、翌日問題ないか精査して送ろうと思ったが、さすがに3時を回るともう泥酔状態でビジネスメールを書くと、もう文面がグチャグチャになってしまうため、それはやめた。
使命感にかられ、「闇居酒屋」を行脚
こうして緊急事態宣言から2カ月くらいは家に引きこもり、夜になってからストロング系と弁当をコンビニか牛丼屋に買いに行くためだけに、少しだけ外に出ていくという生活を送っていた。7月になって、外出規制が緩和され、少しは出社する必要が出てきたのだが、2カ月も日の光を浴びていないと、直射日光に耐えられなくなった。これは不摂生な生活だけではなく、季節によるものだが、駅に向かうまでにぜいぜい言うようになった。
しかも、まだまだ新型コロナウイルスは猛威を振るっている。汗を吹き出しながらマスクをして、外を歩いていると周囲から「あの人、ヤバいんじゃないの?」と不安がられた。心配しないでほしい。コロナではなくアルコール依存症である。
コロナウイルスは毎晩9%のアルコールを何本も飲むことで退治できるため、菌が酒に勝てるわけがない(※すべて筆者の妄想です)。あるいはタールが多く含まれたタバコで除菌していたのかはわからないが、こんな生活をしているにも関わらず、コロナには感染しなかった。
ただ、マジメに外出自粛や密を避けて生活をしていた人たちが、コロナに感染したのを聞くと、なぜだか申し訳ない気分になった。
「自分はこれだけ擦れた生活をしているのにも関わらず、コロナにかかっていないなんて……」
これもまた、余計な心配事である。
とはいえ、この頃は会社に行くことも少なくなったため、対人的なストレスはなかったが、それはそれとして、人に会えないというストレスは多分にあった。しかし、それを理由に酒量が増えることはなく、毎晩「158g」のアルコールをきっちりと飲み干していた。
しかし、そのうち、緊急事態宣言が発令され、20時には「時短営業」といって、小池百合子都知事のせいで居酒屋が苦境に立たされた。
普段は居酒屋に行かない人間だが、酒と飲み会は好きな人間のため、さすがに腹が立った。そこで、「革命家」気取りの筆者は、積極的に外でも酒を飲むことにした。
当時は繁華街に「闇居酒屋」といって、営業時間の20時を過ぎているにもかからず、灯りを薄暗くしたり、営業終了の看板を出しておきながら、営業を続けている居酒屋がいくつもあった。
筆者はそれらの店をすべて網羅した。そして、外出ができずに不満を抱えている友人を誘って、機会があればそこに連れ込んだ。
これが筆者なりの東京都への叛逆である。
<取材・文/千駄木雄大>
―[今日もなにかに依存中]―
【千駄木雄大】
編集者/ライター。1993年、福岡県生まれ。出版社に勤務する傍ら、「ARBAN」や「ギター・マガジン」(リットーミュージック)などで執筆活動中。著書に『奨学金、借りたら人生こうなった』(扶桑社新書)がある
![LDK (エル・ディー・ケー) 2024年10月号 [雑誌]](https://m.media-amazon.com/images/I/61-wQA+eveL._SL500_.jpg)
![Casa BRUTUS(カーサ ブルータス) 2024年 10月号[日本のBESTデザインホテル100]](https://m.media-amazon.com/images/I/31FtYkIUPEL._SL500_.jpg)
![LDK (エル・ディー・ケー) 2024年9月号 [雑誌]](https://m.media-amazon.com/images/I/51W6QgeZ2hL._SL500_.jpg)




![シービージャパン(CB JAPAN) ステンレスマグ [真空断熱 2層構造 460ml] + インナーカップ [食洗機対応 380ml] セット モカ ゴーマグカップセットM コンビニ コーヒーカップ CAFE GOMUG](https://m.media-amazon.com/images/I/31sVcj+-HCL._SL500_.jpg)



