WBCを盛り上げる稲葉浩志の「タッチ」
熱戦が続くWBC。日本は台湾、韓国、オーストラリアに3連勝し、アメリカでの戦いに駒を進めました。大会を盛り上げているのが、稲葉浩志が歌う大会テーマソング「タッチ」です。
これまでTBSとテレビ朝日が放送していたときには、80年代に活躍したアメリカのバンド「ジャーニー」の「Separate Ways」と映画『キル・ビル』のテーマソングが流れていました。
いずれもヒリヒリとした緊張感があり、負けたら終わりのトーナメントをこれでもかと煽る効果を与える音楽でした。
しかし、稲葉浩志の歌う「タッチ」は、それとは少し違うテイストです。
サウンドや演奏はエッジが効いているのだけど、そこに高校生の恋愛を描いた歌詞が乗ると、なんとも言えないズレが生まれるからです。
その点から、稲葉の「タッチ」単体ならば、スマートで婉曲的な表現の面白味を味わえる、素晴らしいカバーだと言えるでしょう。
試合のハイライト映像と合っていない?
しかしながら、それが実際の試合のハイライト映像と流れると、どうも有機的に絡まないのです。「Separate Ways」や『キル・ビル』のテーマソングで感じていた興奮を味わえない。むしろ、秀逸な企画力が良い意味での野球の泥臭さを奪ってしまっているように感じるのですね。
では、なぜこの「タッチ」は浮いてしまうのでしょうか?
まず、これが超有名曲であり、多くの人がアニメと歌詞の内容を把握できてしまう点にあるのだと思います。
つまり、野球の最高峰という大会のコンセプトと対照的な高校野球の部活での恋愛模様。
そこにはただ野球というワードしか共通項がなく、しかも「タッチ」のモチーフは野球そのものよりも恋愛や人間関係の揺らぎに重きが置かれている。
このような薄いつながりしかないところを、稲葉浩志に歌わせる意外性で一点突破しようとしているところに、コンテンツとしての無理が生じているからです。
しかも出場国は日本だけではない。「タッチ」とは何の接点もないメジャーリーガーのスーパープレーと、部活の恋愛をモチーフにしたセンチメンタルな音楽が噛み合うはずもありません。
つまり、野球の世界大会を謳いながら、国内のエンタメ寄りの発想で音楽が扱われている。
企画力が優れているがゆえに、野球という競技から音楽が離れてしまった皮肉が生まれてしまったのですね。
視聴者の固定観念を揺さぶるインパクトはあるが…
もちろん、Netflixでの独占配信が初めてだという背景も考慮に入れなくてはなりません。地上波での演出から明らかに変わったと印象づける必要があるからです。
視聴者の固定観念を揺さぶるインパクトを音楽でも与えたい。
間違いなく、稲葉の「タッチ」にはその力があります。
けれども、スポーツにはベタや鉄板の安定感も侮りがたい。
たとえば、サッカーで優勝したらクイーンの「We Are The Champions」じゃなきゃダメとか、そういう風に場を収める役割は、ベタな音楽でなければならないのです。
では、WBCの優勝シーンで流れる「タッチ」はどんな感じがするでしょうか?
やっぱり違和感あるような……。
稲葉浩志の「タッチ」は、企画、パフォーマンスの両面でクレバーです。
だけど、スポーツにはもっとあっけらかんとした分かりやすさが必要なのも事実。
ベタこそが一番難しい。改めて痛感します。
文/石黒隆之
【石黒隆之】
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。X: @TakayukiIshigu4
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