一人の女性ライバーと出会った結果…
配信アプリを開けば24時間いつでも指先一つで誰かとつながれる。その手軽さは、ときに孤独を抱える人の生活を静かに蝕んでいく――。食品メーカーで正社員として勤務する佐々木雅之さん(仮名・46歳)は3年前、たまたま開いた配信アプリ上で、一人の女性ライバーと出会い、そこから約1年3か月ほどで1250万円ほどを失った。「最初は同郷という親近感から数百円程度。夜の寂しさを紛らわすにも、飲みに行く友達もいないし、どうせなら頑張ってるコの応援に使おうと、軽い気持ちで投げ銭を始めたんです。ファンが少なかったおかげで、すぐに名前を覚えられて、1か月ほどでツイッター(現X)のDMを交わす仲になりました。毎日、家と会社の往復ばかり。仕事以外の話をしたのが久しぶりすぎて、スマホの通知が鳴るのが待ち遠しかった。しばらくすると彼女から『何かお礼がしたい』と連絡がきました」
イベントの特典配布のため、ライバーに住所を教えることは以前にもあったので、特に警戒はしなかったという。
「ある夜、ポストを開けるとペイズリー柄のハンカチが一枚入っていて、直後に彼女から『ポスト見た?』とメッセージが届いたんです。家に直接来られたことに一瞬恐怖を覚えましたが、当時はそれ以上に『家まで来るほど特別な存在』という歪んだ高揚感に、理性が吹き飛びました」
彼女の“束縛”がエスカレート
この日から彼女の“束縛”はエスカレートしていった。「僕のアカウントを監視して他のライバーに投げ銭をすれば、『なんで私に投げないんだ』と鬼のごとき叱責が届き、旅行先では『私は配信中なのに』と責め立てられ、罰として帰りの電車賃と同額を投げ銭させられたこともあった。
直接の投げ銭は月に50万円から多いときは100万円超。佐々木さんの献身はそれだけにとどまらず、彼女のチャンネルに他のライバーのファンを誘致するため、手土産的に少額の投げ銭をする“外交”にも及び、合計200万円ほどが消えていった。
「もう、自分でブレーキを踏むことはできませんでした。気づけば“ガーディアン(守護神)”と呼ばれる、配信を支える支援者の筆頭として欠かせない存在になっていたんです」
それまであった貯金400万円だけでは当然足りず、車を売却した250万円も瞬く間に底を突いた。さらに、友人や消費者金融からの借金が600万円。失った金額は、1250万円以上に膨れ上がった。増え続ける借金に心は蝕まれ、不眠症を発症。限界を迎えた佐々木さんが「この先2人の関係に進展がないなら手を引きたい」と切り出すと、返ってきたのは、あまりにも無情な言葉だった。
「私はプロ。気があるフリをしたのは投げ銭のため。不快なのでブロックします」
その後、「詐欺に問えないか」警察と弁護士にも相談したが「自由意思による贈与」と、法は佐々木さんを冷たく突き放した。癒えぬ不眠と、返済の絶望だけが残る現在、任意整理による5年間での支払いを継続中だ。
生け贄を育てる配信界の集金システム
そう断言するのは、業界の裏側を熟知する現役ライバーのR氏だ。ライバーがリスナーを依存させる「集金システム」について次のように指摘する。
「収益の仕組みは至ってシンプル。視聴者が購入したギフトと呼ばれる投げ銭を募る形で、ライバーの取り分は売り上げの1割強ほど。多くは運営会社と事務所の手に渡ります。ライバーは『苦手な歌への挑戦』『目標額達成まで終われない配信』など、努力の過程を見せる『ストーリー戦略』を仕掛けて成長の物語を演出することで、視聴者に“支えたい”という感情を芽生えさせ、気づけばライバーとともに熱狂してるんです」
その熱狂をカネに換える装置の象徴が、前出の“ガーディアン(守護神)”の制度だ。最上位のサポーター1人のみが名乗れる称号で、任期はわずか1週間。その座を巡る争いは、事実上の無制限オークションと化している。
「この“1週間”という短さが絶妙で、地位を守るためには他のリスナーに負けないよう投げ銭を上乗せしていくしかない。その座に就けば「あまたいるファンの頂点」という万能感に浸れる一方、奪われれば同じ上位サポーターたちからやる気がないと責められる。配信者からの期待と、ファンからの同調圧力。この上下から挟まれる構造が、破滅へと加速させます」
明白な搾取に大人が抗えない理由は…
なぜ大人は、これほど明白な搾取に抗えないのか。精神科医の山下悠毅氏は、その深層心理を「ネーミングの魔力」にあると分析する。「人間は社会との関係の中でしか自分を認知することができません。そのため名前を付けられ、画面越しの相手に一人の人間として認識されることは、孤独な人間にとって強烈な報酬系として機能します。彼らにとって『守護神』という称号を与えてくれる人は、それこそ『神』のような存在。役割から逃げられなくなるのです。投げ銭の真の目的は応援ではなく、ライバーにとっての『重要他者』として承認され続けること。
つまり、お金を投じることでしか自分の輪郭を保てない、悲しき自己保存の闘いなのです。佐々木さんが投げ銭という舞台に固執したのは、そこで主役級の役割を演じる自分に価値を感じていたからでしょう。彼は推しを救っていたのではなく依存することでしか自分を定義できなくなっていたのです」
孤独な魂を狙う地雷は、今日も音もなく埋められている。
同い年という縁で仲良くなった男性配信者とのDM。携帯代47万円を払う目途が立たず、7日後に回線が止まるタイミングで苦しい状況を打ち明けた
【精神科医 山下悠毅氏】ライフサポートクリニック院長。日本外来精神医療学会理事。著書に『依存症の人が「変わる」接し方』(主婦と生活社)など
取材・文/週刊SPA!編集部
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