―[インタビュー連載『エッジな人々』]―

M-1王者や、関西のお笑いを背負う重鎮たち。その中に、場違いとも思える局アナが立っていた。
進行役として笑いを“整える”側のはずの彼女は、芸人たちと同じ土俵に足を踏み入れた。修行ライブを打てば即完する、“ボケる局アナ”にボケない信念を聞いた。
「すべてを捨てていい。クビになってもいい」カンテレ竹上萌奈ア...の画像はこちら >>

クビ覚悟でボケる局アナ

「すべてを捨てていい。クビになってもいいと思っていました」。

大喜利や即興力で芸人たちが火花を散らす人気番組(※1)『千原ジュニアの座王』。本来は進行役に徹するはずのアシスタントが、突如手を挙げた。スタジオの空気は一瞬凍りつく。だが次の瞬間、想像以上の切れ味で場をさらい、大爆笑を巻き起こした。普段は報道番組や特番で安定感のある進行を見せる局アナが、あえて“一線を越えた”理由はなにか。(※2)第1回「関西アナウンス大賞」特別賞部門大賞を受賞するなど、今注目を集める関西テレビの竹上萌奈アナウンサーに、その覚悟を聞いた──。

――番組収録中、千原ジュニア氏の一言が大きな分岐点になったそうですね。

竹上:はい、「この芸人嫌やなと思ったことはある?」と聞かれて、何げなく「特にないですね……」と答えたんです。東京での収録だったんですが、ビジネスホテルに戻ってからハッとなった。
「あれは大喜利のフリだったんだ」と。「私、こんなつまらない人間じゃない」と思って、悔しさで涙してしまいました。そこで火がついたのかもしれません。

「機会を見てボケよう」心に決めていた

――今ならなんと返しますか?

竹上:今でしたら……、「楽屋でずっと政治の話をしている方ですかね」と返すかもしれません。まあ、(※3)ほんこんさんのことなんですけど(笑)。実際のほんこんさんはすごく良い方なんですよ。廊下ですれ違うと「おお! 頑張れよ」と声をかけてくださいます。

――悔しさで涙した後、悩んでいた期間がありましたか。

竹上:中途半端な状態を続けるくらいなら「機会を見てボケよう」と心に決めていました。アナウンサーが芸人さんの番組で出しゃばるようなことをして、どう思われてもしょうがないと腹をくくったんです。正直に言うと「私もやっていいですか?」と手を挙げた時は、「すべてを捨てていい」「もうクビになってもいい」という覚悟でした。

「すべてを捨てていい。クビになってもいい」カンテレ竹上萌奈アナが、進行役の立場を捨てて大喜利に挑んだ“真意”
エッジな人々
――お題の「ど偏見国語辞典『女子アナ』の欄にはなんと書いてある?」という大喜利で、竹上さんは「東京や横浜に実家あり、手当たり次第就活し、地方局に内定するも田舎での生活に耐えられず3年でフリーに。なんとかインストラクターなどの謎の資格を取り、二足の草鞋とぬかすが、しょせん実家のカネで生きている女」と回答されました。


竹上:あの回答には、実は私自身の羨ましさも入っているんですね。私は一生働くぜ、というような羨望も含まれているんです(笑)。そもそも、なぜこういう回答が思いつくかという話になりますが、私はフリーであれ局員であれ、どこの地域の方であれ、一生懸命仕事をしている人たちは本当にリスペクトすべき仲間だと思っています。だからこそ、そういう人たちが報われる世の中であってほしいとの願望が根底にあるんです。放送後、一番怖かったのは視聴者の方からの反応よりも、周りのアナウンサーからの反応でした。「余計なことを言うな」とお叱りを受けると思っていると、人づてに聞く意見も含めて意外にも「よく言ってくれた」という賛同の声ばかりでした。その時、「あ、間違ってなかったんだ」とすごくホッとしました。

――3年前の(※4)noteで「女子アナ辞めましょ」と書かれています。笑いに昇華させるのは難しかったのではないでしょうか。

竹上:随分と減ってきましたが、いまだに「女子アナ」とカテゴライズされて言われることについて、もしかしたら私たちの態度や甘んじている部分も良くないのではないか、という自戒もあります。もちろん、現状に満足している人もいますし、誰かを責めるつもりは一切ありませんが、世間一般の人もそう思っている部分があるからこそ、番組では「局アナである私が言ったら笑いになるのでは?」と踏み込んでみました。

「誰も傷つけない」がポリシーです

――お題、女子アナへの悪口川柳で、「さあ君も、名乗れば誰でもフリーアナ」と回答。ジュニア氏も絶賛していました。


竹上:恐縮です。同じアナウンサーで同じ土俵に立っているからこそ、「ここまでなら許されるかな」と考えながらやっています。ただ、大前提に「誰も傷つけない」というアナウンサーとしてのポリシーがあることと、アナウンサー以外の職業のことを題材にはしません。

「すべてを捨てていい。クビになってもいい」カンテレ竹上萌奈アナが、進行役の立場を捨てて大喜利に挑んだ“真意”
エッジな人々
――ネタ帳も持っているとか。

竹上:(※5)座王修行ライブのオファーを頂いた直後から始めました。日常の小さな気づきを携帯のメモに記録しています。「人は一生毛に悩む」とか、「インド料理店のインド人、食べているとこ見つめてくる」とか、その時に面白いと思ったことを打ち込んでいるだけです。学生時代、学校に全然なじめない子だったので友達が全然いなくて、いつも一人ぼっちでした。それで人間観察が好きになったかもしれません。

「自分らしさ」なんて、アナウンサーに要らない

――どんな学生でしたか?

竹上:かろうじて勉強ができたから生きていけたタイプの人間で、高校時代は登校できない時期もありました。本と漫画ばかり読んで、ゲームをするにしても「マリオパーティ」はコンピュータを相手に一人でやるんですよ。誰かとやりたいという気持ちもなかったです(笑)。放送部に入っていて、最初はテレビドキュメントやラジオドラマを作る制作班だったのですが、部員が少なくて3年生の先輩がNHKのコンクールに出る時に風邪をひいてしまい、アナウンス部門に出られなくなってしまったんです。
そこで「1週間くらいしかないけど、ちょっと萌奈ちゃんやってくれる?」と頼まれて、自分で取材した90秒くらいの原稿を読むことになったんですね。学校で「おはよう」も言えないような私にスポットライトが当たり、みんなが私の話を一生懸命聞いてくれているのがすごく嬉しくて。「私のような人間でも、将来アナウンサーになれたらいいな」と、その時に初めて思ったんです。

「すべてを捨てていい。クビになってもいい」カンテレ竹上萌奈アナが、進行役の立場を捨てて大喜利に挑んだ“真意”
エッジな人々
――どちらかというと芸人さんに多いタイプですね。

竹上:アナウンサーは学級委員タイプのほうが多い気がします。私は自分の本性が社会になじめるものではないと知っているので、普段の仕事場ではそれを出さないようにしています(笑)。むしろ「自分らしさ」みたいなものは、アナウンサーには要らないとさえ思っているんですね。局アナはやはり公正中立でいるべきですし、発言のバランスを取って進行をサポートする役割も担っています。あとは災害が起こった時にどう動くべきか。それが仕事のすべてなので、局のアナウンサーの仕事で「自分らしさ」を出すのはおこがましいかなと……私は感じています。

「ボケ殺し」と名付けられたことは忘れられません

――群馬出身で幼少期から大学まで関東で過ごされた。アナウンサーとなり大阪に移り住んで大変だった思い出は?

竹上:カンテレに入社して常にお笑いが身の回りにある環境に変わって、最初は早口の大阪弁の会話が聞き取れずに苦労しました。
漫才や新喜劇を見たことがほとんどなかったので芸人さんがボケても、「それ間違ってますよ」と真面目な返しをしてしまって(笑)。ツッコミすら入れられず、「ボケ殺し」と名付けられたことは忘れられません。

――でも、今は大阪に染まり、大胆なボケをする。

竹上:スタッフの方に「緊張しないよね」とも言われるんですけど、いやいや、本当はどの仕事よりも緊張しています。普段はしないのですが、収録の当日、家の近くのご神木にお賽銭を納めてお祈りしました。座王は由緒ある場なので、ウケるかどうかよりも中途半端なことをして芸人さんたちの邪魔をしたくない。フルパワーで挑めますようにというお願いです。

――では、今後の目標を。

竹上:一番は、今ある仕事に心を込めて向き合うことです。そのうえで、創作が好きなので、「書く仕事」にも挑戦したいです。仕事の合間に小説を書いたり、勉強したりしています。番組ですと、『100分de名著』(NHK)のような番組に将来、携われたら嬉しいですね。


【Moena Takegami】
1992年、群馬県生まれ。慶應義塾大学卒業後、’15年に関西テレビにアナウンサーとして入社。『千原ジュニアの座王』でアシスタントを務める一方、情報番組『newsランナー』ではキャスターとして活躍。座右の銘は「どうにかします」

(※1)千原ジュニアの座王
MCの千原ジュニアが考案した「イス取りゲーム」をベースに、大喜利・ギャグ・モノボケ・歌などさまざまなお題で芸人がショートネタを競い合う番組。毎週金曜、深夜0時45分~カンテレにて放送中。昨年3月に初のライブを開催。日本武道館に8000人を動員し、大盛況で幕を閉じた。第2弾のライブは2大ツアーとなり、今年11月に大阪城ホール。来年3月には再び日本武道館でライブを行う

「すべてを捨てていい。クビになってもいい」カンテレ竹上萌奈アナが、進行役の立場を捨てて大喜利に挑んだ“真意”
©カンテレ
(※2)第1回「関西アナウンス大賞」特別賞部門大賞
関西エリアの放送局12社で構成される関西アナウンス責任者会によって創設された賞で、アナウンサーの表現力や活動成果を会社の垣根を越えて評価し合う新たな取り組み、竹上アナはお笑い活動への挑戦で、特別賞部門大賞を受賞

(※3)ほんこんさん
吉本興業所属のお笑いコンビ130Rのツッコミ担当。ピンで活動する機会も多く、『マルコポロリ!』(カンテレ)ではレギュラーとして出演中。SNSなどでも政治的発言が多い

(※4)noteで「女子アナ辞めましょ」
noteで手書き日記などを公開している。’22年8月に「【女子アナ】辞めましょ。」とのタイトルで、女子アナと呼ばれる違和感を、実体験を通した心境を交えて包み隠さずに綴った。文藝春秋SDGsエッセイ大賞の優秀賞を受賞

(※5)座王修行ライブ
トークライブハウス「梅田Lateral」のオファーにより、座王修行ライブが実現。その後、プレーヤーとして座王に出場すると見事優勝を果たした。今年2月には「よしもと道頓堀シアター」にて第2弾の修行ライブも行った

取材・文/加藤慶 撮影/小澤勇佑

―[インタビュー連載『エッジな人々』]―
編集部おすすめ