アメリカのトランプ政権によるイランへの軍事攻撃のニュースで、アメリカのメディアは「カミカゼ」という言葉を頻繁に使っていることをご存知だろうか。アメリカがテヘランを爆撃したのも「カミカゼ」、報復でイランがアメリカ寄りの中東諸国を攻撃しているのも「カミカゼ」だ。
ここでいう「カミカゼ」とは、もちろん敵に自ら突っ込んで相手に甚大なダメージを与えるドローンのことだ。
「カミカゼ」は一般的な英語辞書にも単語として記載されているので、ドローン兵器が「カミカゼ」と称されるのは致し方ないのだが、旧日本軍の「神風特別攻撃隊」の重い過去を背負う日本人としては、米国メディアの「カミカゼ」の「乱用」には少々、違和感を覚える。

太平洋戦争末期、絶望的な劣勢と物資の困窮の中で、爆弾を積んで連合軍の艦船に突撃していった神風特攻隊。異常な作戦は「戦争の狂気」そのものだが、約4000人の若者が軍の命令1つで散った無念を、兵器の俗称として軽々に使用していいものだろうか。そんなわだかまりは決して少なくない。

「情報屋」が口にした「カミカゼ」の言葉

ドローンを指して使われる「カミカゼ」言葉を初めて聞いたのは15年ほど前だった。日本とは縁遠い、アルゼンチンとブラジル、パラグアイの3カ国が交わる蒸し暑い国境の町でのことだ。

南米のこの地域は、脆弱な国境管理と汚職による法執行の甘さから麻薬の密売やマネーロンダリング(資金洗浄)、模造品製造などの国際犯罪の拠点となっている。都市名を明らかにはできないが、この地域で南米の闇社会の実態を取材していた。密輸組織の「大物」につてがあるという「情報屋」の男と知り合い、人目につかない建物2階のレストランでビールを飲みながら地元料理が出てくるのを待っていると、「情報屋」が「カミカゼ」を口にした。

「イランがベネズエラにドローンを作らせているようだ。イランのドローン技術はなかなかなものらしいぜ。カミカゼっていうんだ」

「情報屋」は「カミカゼ」の由来などまったく知らなかったが、敵に自ら突っ込んでゆくことをこう呼ぶことは理解していた。


3カ国の国境地帯は、イランが支援するレバノンのイスラム教シーア派武装組織「ヒズボラ」が様々な違法行為で莫大な活動資金を生み出していることでも知られる。はるか中東のイランの動向が、この地で噂にのぼっても不思議ではなかった。

突然の「カミカゼ」という言葉にびっくりし、「情報屋」にひとしきり神風特攻隊のことを説明した。「情報屋」はそれを聞いて「この辺のワルより怖いな」と目を丸くしていたのを覚えている。

この時は、密輸組織の「大物」のことで頭がいっぱいで、ドローンの話を深追いしなかったが、ほどなくして、ベネズエラのチャベス大統領(当時)が、イランとの軍事協力の一環でドローンの製造を始めていることをテレビ演説で明らかにした。2012年6月のことだ。自らの甘さで特ダネを逃したことに地団駄を踏んだ。

チャベス大統領はこの時、「すでにドローン3機を所有している。いずれも偵察機で誰かを攻撃する意図はない」と話したが、アメリカ政府は大きな衝撃を受けた。もちろん「偵察機」などという言葉を信用しなかった。これ以降、アメリカは中南米・カリブ海ににらみをきかす南方軍を中心に「イラン・ベネズエラ反米連合」のドローンによる攻撃の脅威に真剣に取り組み始めた。そして、アメリカのメディアでも「カミカゼ」という言葉がしばしば登場するようになった。


「カミカゼ」ドローンを主力兵器に使ったロシア

「カミカゼ」という言葉が一段と使われるようになったのは、ロシアによるウクライナ侵攻以降だ。ロシア軍が「カミカゼ」ドローンを主力兵器として攻撃に使ったからだ。この中にはイラン製のドローンもあり、ベネズエラで製造されたドローンもロシアに輸出されているとの疑いを持たれている。このためアメリカは、ここ数年、イラン製「カミカゼ」ドローンの研究を加速させた。

そして昨年12月3日、中東を担当するアメリカ中央軍が、中東に「カミカゼ」ドローンで構成する飛行部隊を編成していることを発表した。米国メディアは、この「カミカゼ」ドローンはイランのドローンを解体、分析して、構造や設計、機能を把握した上で製造したものだと報じた。簡単に言えばイランの「カミカゼ」ドローンをまねして製造したということだ。12月30日にはイランとベネズエラのドローン製造関係者らに対する資産凍結などの経済制裁を発表した。そして2月28日、アメリカはイスラエルとともにイランに対して大規模な戦闘作戦を実行した。

国防総省幹部がドローンでの戦果を強調する際に、必ず持ち出すのは、兵器としての費用の安さだ。1機当たりの製造コストは約3万5000ドル(約550万円)で、ミサイルなどの兵器システムよりかなり経済的だ。「お安く敵を撃つ」と米軍関係者は胸を張る。


また実践面では、標的周辺の上空に留まりながら狙いを定めることができることがミサイルなど既存兵器との違いだという。「周辺上空に留まりながら」ということを説明する際、軍関係者は「あてもなくぶらつく」ことを意味する「Loitering(ロイタリング)」という言葉をよく使う。一般のアメリカ人がこの単語をよく目にするのは、マクドナルドなどファストフードの店舗だ。ホームレスを店から追い出すため「No Loitering(ぶらつくな)」と表示されている。

「カミカゼ」ドローンの最大の特徴を一言で表現すると「安くてお得で、敵の上空をホームレスのようにぶらつく」ということになる。日本のために死んでいった英霊の墓前で、こんな話ができるだろうか。ドローン兵器を「カミカゼ」と呼んでいるのを聞くたび、そんな気持ちが強まってしまう。

【谷中太郎】
ニューヨークを拠点に活動するフリージャーナリスト。業界紙、地方紙、全国紙、テレビ、雑誌を渡り歩いたたたき上げ。専門は経済だが、事件・事故、政治、行政、スポーツ、文化芸能など守備範囲は幅広い。
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