なお、今回の取材は、公演を数日後に控えたタイミングで行われた。1日2ステージのみの公演となったが、その初舞台の映像はDVDとしてリリースされる。
過去に傷ついた言葉の“受け取り方”に変化
——長濱さんは、普段から言葉に対して真摯に向き合われている印象があります。以前、ラジオ番組で「高校生のころに『みんな辛いんだから』と大人に言われて傷ついた」というお話をされていましたが、改めてそのお話を伺いたいです。長濱ねる(以下、長濱):現在は「みんな辛いんだから」というその言葉に対して、そこまで過敏には捉えていないんです。
——そうなんですか!? 共感する人も多いと思ったのですが。
長濱:当時の私は、親にいろんなことを教えてもらいきる前に、10代で社会に飛び込み、環境が変わって、本当にいっぱいいっぱいでした。不安なことや、わからないことを相談するのも怖かったし、自分ができないことを素直に「できない」と言うこともできなかった。ただただ、できるふりをして、わかったふりをしてやっている感覚がありました。人に弱みを見せたくないからこそ、「自分のこの気持ちは、わかってもらえるはずがない」と思い込んでいたのかなと思います。
長濱:その時は「受け取り手の視点」でしか見ていなかったのだと思います。その言葉を投げかけた人は、素直に励ましたのかもしれない。
——「その人がどんな思いで投げてくれたのか」を想像する。
長濱:私自身、言葉足らずの時もあるし、言葉の選択を間違ってしまうこともあります。だから、あまり言葉に固執しすぎず「どういう気持ちでかけてくれたのかな」と想像して、できるだけちゃんと相手の気持ちを受け取りたい。「自分は善意のつもりだったのに」とか、そういう日々の誤解は起こりがちです。だからこそ言葉の表面じゃなくて、人の本当の気持ちを受け取れる人であれたらと思っています。
時に嫌いな自分が出ちゃっても「まあいいか」の精神で
——もうひとつ、伺いたい言葉がありました。昨年の『QJWeb(クイック・ジャパン ウェブ)』のインタビューに、「18歳の自分に宛てた手紙」が載っていました。そこに「決して自分を肯定できなくてもいい、ありのままを受け入れて認めてあげられると、少しだけ呼吸しやすくなる」と書かれていて、特に「自分を肯定できなくてもいい」というところに心を打たれました。長濱:ありがとうございます。嬉しいです。
——そうした気持ちにたどり着くまでは、ご自身の中でいろいろと考えることもあったのでは?
長濱:そうですね。その気持ちは今も変わっていません。
長濱:肯定できないところが出てしまったときに「悲しい」と思うんじゃなくて、自分を認めたり好きになることが100%は無理だとしても、「まあいいか」と少し気軽に思えたほうが、受け入れられる近道のような気がします。私も未だにちゃんとはできていないんですけどね。ずっと心がけるようにしています。
活動再開直後に抱えていた「よそ者感」と葛藤
長濱:「知名度がある」とは自分では思っていないので、そこに悩んだということはありませんでした。ただ、お芝居で俳優さんとご一緒させていただく時に、そこを主戦場として向き合って戦っている人たちの中に、「途中から参加してもいいのだろうか」という思いはあって。「よそ者がお邪魔します」という感覚のままでの参加でした。
——NHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』にもレギュラー出演したりと、順調に映りましたが、ご本人としては葛藤があったのでしょうか。
長濱:お芝居を突き詰めて命がけでやってる人たちの中に、右も左もわからずに参加している自分が本当に恐縮で怖くて。そこの悩みはありました。どこに行ってもよそ者の気がするというか。その感覚は今もどこか消えないでいます。
例えばドラマの現場で自己紹介をする時に、「アイドルグループに所属していた」というのは間違いなく自分を構成している要素の一つですし、自分としても大事な過去です。そこがあっての今。だからそこを無理に塗り替えていこうというよりは、そんな自分が「真摯に向き合わせていただきます」という姿勢で居続けることでしか、自分を納得させられないなと。
先輩の金言「ちゃんと人一倍準備して現場に入らないといけないよ」
——お仕事をしていくなかで、少し気持ちを軽くしてくれた先輩はいますか?長濱:YOUさんです。バラエティ番組で自分のことを相談する企画があって、そのときにお話ししたんです。「お芝居にも興味があるんですけど、お芝居を第一線でやってきて磨いてきた人たちの中にいきなり入るのは気が引ける。挑戦してみたいけど、挑戦できずにいます」と。YOUさんも数ある素晴らしい映像作品にたくさん出られていて、「素敵だな」といつも思っていたので。
——YOUさんはそのときなんと?
長濱:YOUさんも「私も現場に行く時、いつも“よそ者がお邪魔します”という気持ちがある」と。「だからこそ、ちゃんと人一倍準備して現場に入らないといけないよ」と教えていただきました。
——たしかにYOUさんといえばタレントとしてはもちろん、映画『誰も知らない』に始まり、多くの作品で存在感を残しています。
長濱:無理に「キャリアを塗り替えていかなきゃ」と思わなくてもいいのかなと思えて。すごく楽になったひと言でした。いまは本当に、ひとつひとつの作品に、誠実に向き合っていくしかないんだなと思っています。
「東京大空襲」が舞台だが、テーマは今に繋がっている
長濱:初舞台ということに加えて、一人での朗読劇ということで「自分にできるのだろうか」という不安はありました。いまは本読みや、稽古を重ねていくうちに、少しずつ見えてきているものがあります。
——台本を読まれて、現時点で強く感じていることはどんなことですか?
長濱:東京大空襲をテーマにしていますが、空襲の直前直後だけでなく、海老名さんが生まれてからの幸せだった頃の記憶や、当時の下町の生活、そうした暮らしがどのように変化して失われていったのかという過程が描かれています。その様子に、今の私たちが平和に暮らしている生活も、いつ急変するかわからないと感じました。読みながらある種、ぞっとしましたし、世の中の見方の解像度が少し上がるのかなと思います。
——たしかに今につながる見方ができると、深度が変わりそうです。
長濱:今まさに、ニュースに目を向けると、戦争が行われています。それが遠い国の戦争の話ではなく「香葉子さんみたいな罪のない子供たちが巻き込まれていくんだ」と、ちょっと思うだけで、私自身、見方が変わりました。そういったことが物語を通して自然に届いたらいいなと思いますし、ただ「おばあちゃん元気かな」と連絡してみるといったことでもいい。生活の何かのきっかけになればと思います。
<取材・文・撮影/望月ふみ>
【望月ふみ】
ケーブルテレビガイド誌の編集を経てフリーランスに。映画周辺のインタビュー取材を軸に、テレビドラマや芝居など、エンタメ系の記事を雑誌やWEBに執筆している。親類縁者で唯一の映画好きとして育った突然変異。X(旧Twitter):@mochi_fumi
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