速くて快適で、日本を代表する公共交通機関の”新幹線”。インバウンドに湧く日本では、外国人観光客にも今や大人気な乗り物です。
ただ、中には乗車中に悲惨な経験をしたという人もいます。 
 不運としか言いようがない今回のエピソード。一体何があったのでしょうか。

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出張で利用した新幹線で感じた“嫌な予感”

 須藤さん(仮名・32歳)は、自動車部品製造会社に勤めるサラリーマンです。月の半分は地方の工場を巡り、生産現場の環境や人事状況を細かくチェックするのが仕事だといいます。

「正直、オンラインでチェックすることもできるのですが、やはり面と向かって相手の表情を感じながら接することは非常に重要なんですよ」

 そう語る須藤さんは、この日も新幹線移動で、今回は新大阪で下車するとのこと。いつもなら、トイレに立ちやすい通路側の席を選ぶのですが、この日に限っては満席に近く、空いていたのは3列席の窓側だけでした。

「とりあえず席についたのですが、いつもと違う座席になんだかテンションが下がりました」

 さらに須藤さんの気分を曇らせたのが、隣に座った若い夫婦の存在です。年齢は20代後半から30代前半ほど。派手でもなく、ごく普通の格好をした二人でしたが、なぜかピリピリした空気をまとっていたといいます。

「会話はないのに、沈黙が重たいというか……なんとなく嫌な予感がしたんですよね」

 その直感は、残念ながら的中します。

いきなり始まった夫婦喧嘩

 須藤さんにとっての新幹線移動は、いわば“移動オフィス”で隣の席が気になりながらも、いつものようにテーブルを出し、駅の売店で買ってきたホットコーヒーを飲みながらノートパソコンを開いて作業を始めたといいます。

 そのとき、隣から小さな音が聞こえました。「チッ」という、明らかに苛立ちを含んだ舌打ちです。
続いて、女性の甲高い声が車内に響きました。

「何よ!!」

 突然の声に、周囲の乗客が一斉に視線を向けます。男性はそれに気づいたのか、慌てて小声で「ごめん」と謝ったそうです。しかし、それが火に油を注ぎました。

「もう嫌! もう無理だから!!」

 女性の声はさらに大きくなり、車内の空気が一気に凍りつきました。須藤さんは思わず肩をすくめたといいます。

「いやぁ、マジかよと思いましたよ。座席位置にもストレスを感じているのに、おまけに隣が喧嘩をおっ始めるなんて……」

 須藤さんは、なるべく視線を落とし、仕事に集中しようとしました。しかし、事態はそのまま収束するほど甘くはありませんでした。

まさかのノートパソコンが壊滅的な被害に

 決定的な瞬間は、ほんの一瞬でした。女性が身振り手振りを交えて何かを言おうとした際、肘が須藤さんのテーブルに当たったのです。

「ガタン、って音がして……次の瞬間、あ、終わったって思いました」

 紙コップのホットコーヒーが倒れ、中身がそのままノートパソコンのキーボードに流れ落ちました。須藤さんが反射的に身を引いた直後、さらに悲劇が重なります。


 女性がバランスを崩し、それを抑えようとした男性の動きが重なり、今度は女性の上半身がテーブルに激突。外付けハードディスクが接続されたノートパソコンは、勢いよく床に落下しました。

「正直、文句を言う余裕もなかったです。頭が真っ白でした」

 須藤さんが真っ先に拾い上げたのは、ノートパソコンではなく外付けハードディスクでした。そこには、これまで担当してきた工場の生産データ、人員配置、改善履歴など、会社の根幹ともいえる情報が詰まっていたのです。

「頼むから……って、心の中で祈ってました」

「新幹線で隣に座った夫婦が喧嘩し始めて」出張中のサラリーマンを襲った悲劇。「頭が真っ白になりました」
パソコン
 ノートパソコンに再接続すると、画面に表示されたのは無情なメッセージでした。
 
”このディスクは読めません”。

気がつけば怒鳴っていた自分

 命よりも大切だと言っても過言ではない、重要なデータが詰め込まれたハードディスクが壊れたことに対して、須藤さんの怒りが一気に込み上げたといいます。

「いい加減にしろ!!」

 思わず怒鳴った声に、若夫婦は我に返ったような表情を浮かべたといいます。二人は顔を見合わせ、深く頭を下げました。

「本当にすみません」

「申し訳ありませんでした……」

 須藤さんも、その場ではそれ以上責め立てることはしませんでした。怒鳴ったことで、多少は気持ちが収まったのも事実です。
しかし、問題はそこではありませんでした。

 新大阪に到着すると、そのまま梅田にあるハードディスク復旧センターに直行したといいます。しかし、ドライブが物理的に壊れているらしく復旧は不可能だと告げられました。

「今回の件を通じて、いろいろ学びました。ハードディスクはいつでも簡単に壊れる、そして、悲劇は突然やってくる、ということです」

 今回の被害をきっかけに、データのバックアップはこまめに行うことを誓った須藤さん。そして、外出先ではドライブでのメモリーを使用せず、SSDに変更するとのことでした。

<TEXT/八木正規>

【八木正規】
愛犬と暮らすアラサー派遣社員兼業ライターです。趣味は絵を描くことと、愛犬と行く温泉旅行。将来の夢はペットホテル経営
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