飲食店や小売店に対して、無理難題の押し付けや恫喝など、カスタマーハラスメント(カスハラ)と呼ばれる事象が目立つようになってきた。SNSの普及による迷惑行為の拡散や、2025年4月に施行された東京都の「カスハラ防止条例」による定義付けが進み、社会的な認知も高まっている。
その矛先は、飲酒運転を防ぐという重要な役割を担う「運転代行」の現場にも向けられている。福岡県に拠点を持つアクイーユ運転代行の山上理貴氏(23歳)に、その実態と苦悩を聞いた。
「迎えに行くとパトカーが…」運転代行を待つ間に“駐車場から車...の画像はこちら >>

道を聞いただけで恫喝された経験

運転代行業は飲酒運転の抑止に欠かせない仕事だが、業者へカスハラを行う客は、自ら飲酒運転をするリスクも高い。山上氏は以前、強面の男性から代行依頼を受けた際の体験をこう語る。

「目的地を尋ねたんですが、電話中で答えてもらえず、謝りながらも何度か聞くと、『あぁ! うるさいな! A町!!』と怒鳴られました。発車後しばらくして、右折・左折が分かれる交差点で道を聞いたのですが、『邪魔するな!』と恫喝され、最後には顔をグッと近づけて『お前、ずっとうるさいんだよ! 降りろ!』と言われました」

山上氏が「ここで降りると飲酒運転を誘発する」と説明しても聞き入れられず、やむなく降車した。すぐに警察へ通報し、利用者は飲酒運転で検挙されたという。料金も受け取れず、無駄足となってしまった。

酩酊した利用者からしつこい電話が…

「迎えに行くとパトカーが…」運転代行を待つ間に“駐車場から車を出してはいけない”切実な理由
山上理貴氏
山上さんによれば、「泥酔したうえでのカスハラはタクシーより少ない」とのこと。その理由を次のように続けた。

「タクシー利用者は、居酒屋などを出て通りすがりを捕まえることが多いですよね。ですが、運転代行は自分がいる店や場所、駐車場の番号、車種とナンバーを申告できないといけないので、泥酔している人にはハードルが高いのでしょう」

しかし、電話口で場所すら言えない利用者も存在する。

「電話がきて『どちらまでお迎えに行きましょうか?』というと、『どちら……わかりません』とおっしゃるんですよ。改めて聞いても『筑紫野市』としか言ってくれない。
電話を切ってもまた同じ方からかかってきて『1台お願いします』と言うので場所を聞くと、やっぱり『わかりません』と。これが何回も続き、困り果てました」

駐車場から出したら当然アウトなのだが…

飲食店で、食後の食器を重ねることや、ホテルをチェックアウトする際にベッドをキレイに整えることなど、「よかれと思ったことでも、実は迷惑になっていること」もある。

運転代行業においても、同様のケースは存在するようだ。同業者の中では“あるある”なのが「車をコインパーキングから出して待っている客」。

「お迎えに行くと、立体駐車場の前にパトカーが停まっていて、若い女性が『ただ、駐車場から出しただけなのに』と、泣いていたことがありました。どうやら、パーキングから出してすぐに警察に捕まったようで。駐車料金が上がるのを避けるために自分で出してしまう人もいますが、その女性は『見つけてもらいやすいように』『わざわざ立体駐車場に登って来てもらうのは申し訳ない』と気を利かせたみたいですね」

飲酒しての車の移動は大変危険であるため、絶対にしてはいけない行為。ただ、こうした事例は後を絶たず、山上さんの会社では「駐車場から出さずに待っていてください」と伝えている。

到着を伝えてから、数十分経っても現れないことがある。

「指定場所に到着したのに何度電話しても出てもらえず。もちろん依頼された時刻どおりです。40分近く待っても繋がらないので、ショートメッセージを送って帰ったこともあります。
時間通りに出て来ていただければ、もう1箇所くらいできたはずなんですけどね私も酒を飲むので気持ちは分かりますが、不毛な待ち時間と売上の減少は、精神的にも経済的にも辛いものです」

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飲酒運転事故を減らすために貢献している運転代行。彼らが快適に仕事に従事できるよう、利用する側も普段の行動を見直す必要があるだろう。

<取材・文/Mr.tsubaking>

【Mr.tsubaking】
Boogie the マッハモータースのドラマーとして、NHK「大!天才てれびくん」の主題歌を担当し、サエキけんぞうや野宮真貴らのバックバンドも務める。またBS朝日「世界の名画」をはじめ、放送作家としても活動し、Webサイト「世界の美術館」での美術コラムやニュースサイト「TABLO」での珍スポット連載を執筆。そのほか、旅行会社などで仏像解説も。
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