2026年も長く続いた受験の冬ですが、そろそろほとんどの大学の合否発表が出そろってきました。
これから後期日程の受験がある方もいらっしゃいますが、新居探しや入学手続きで忙しくする方も多いのでは。
個人的な注目は、やはり3月10日の東京大学合格発表。
今年は「御三家」と名高い開成高校が史上最高クラスの合格実績をたたき出したり、近年失速気味だった巣鴨高校が13名の合格者を輩出したりと、多くのニュースがありました。
東大の合格実績は、進学校における人気の指標。これを見て、来年の受験者数は大きく増減しますから、どの学校も必死です。
一方で、昨年から30名も大きく数を減らした横浜翠嵐高校や、「御三家」の一角ながら開成・麻布に水をあけられている武蔵高校など、一見すると凋落したようにも見える学校も。
しかし、高校研究家として活動する現役東大生の村瀬理紀さんは「決して落ち目ではなく、長い目で見れば納得できる理由がある」と話します。
今回は、「東大合格者数増減の裏側」について伺います。
凋落ではなく平常化
ーー今年の東大合格者数にて、横浜翠嵐高校は前年より33名減と、大きく数を減らしてしまったようですが、これには原因があるのでしょうか?村瀬:これは、去年との比較をしていること自体が間違いなんです。
ここ数年、同校の東大合格者数は40~50名程度で安定しており、2023年・2024年はともに44名でした。しかし、2025年に偶然が集中したのか、74名の合格者を輩出した。
これは翠嵐の歴史から見てもかなり高い数字で、むしろ74の方が例外的な数字なんです。
だからこそ、私は「いつも通りに戻った」とみています。とはいえ、去年の74名合格がもたらす影響は非常に大きい。
なぜなら、今年横浜翠嵐を志望した方は、みんな「東大合格74名の名門校」を意識して受験していると考えられるからです。
東大志望や東大を検討するようなエリート層は、こぞって同校に出願したでしょう。もちろん入試選抜はさらにハイレベルになり、例年よりも優秀な生徒が多数入学しているはず。
となれば、今年の受験を勝ち抜いて横浜翠嵐に入学する新高校一年生の代からは、やはり多くの東大合格者が出ると予想できる。
これは、受験における「4の法則」と呼ばれています。ある年の合格実績が、その4年後の合格実績に影響する傾向がある、とする説です。
「御三家」は受験強豪校の称号ではない
例えば、いわゆる御三家(開成・麻布・武蔵)は中学受験でも非常に人気が高い学校ですが、開成(197名)麻布(77名)に比べて、武蔵は23名と大きく差が着いている印象があります。どうしてこのような差が生まれるのでしょうか?
村瀬:そもそも、武蔵高校は戦前に設立された日本初の私立7年制旧制高等学校であり、開成・麻布にも劣らない歴史の深さを持った、由緒正しい伝統校です。
近年の中学受験ブームでは、どうしても進学実績ばかりが注目されがちですが、本来「御三家」とは、こうした歴史や伝統、品格などを含めたブランド価値までを指した尊称。
勉強ができればいいとか、受験に強ければいいとか、そういうものではありません。
とはいえ、進学実績が目立つのも確かです。開成高校は過去最多レベルの東大合格者を記録しました。
なんなら東大入試始まって以来の現役合格者数であり、これは大ホームランといっていい。麻布も77名であり、例年並みとはいえ、やはりかなり多い数字。
一方、武蔵は全盛期こそ80名以上を記録したにもかかわらず、近年はずっと20~30名で停滞中。こればかりを見ると「武蔵も凋落した」と感じるかもしれませんが、大きな間違いです。
“武蔵の凋落”が間違っているワケ
武蔵のカリキュラムは教養主義によっており、例をあげれば、大学入試と関係がない第二外国語の授業があります。基本的には受験戦争サバイバルとは全く異なる文脈での指導が行われ、受験対策については、当人の自己管理能力に大きく依存するのは否めない。
じゃあ塾に頼ればとなりますが、2012年には東大生御用達の超進学塾である「鉄緑会」の指定校からも外されてしまいました。
中学受験入試の開催日が、開成・麻布などと被る2月1日なのも逆風。
進学実績を第一に見る層は、開成や麻布に集中します。これらを受けると、自動的に武蔵は受けられません。かといって、武蔵は妥協で受かるほど簡単な学校でもない。
最近は海城高校や早稲田高校などの東大進学実績が伸びていますが、これは中学受験の入試日を2月1日からずらすとか、複数設けるとかして、「開成落ち」「麻布落ち」をうまく拾っているのも大きいのではないかと感じます。
便宜上不合格者には間違いありませんが、それでも開成受験者の大半は、大人でも敵わないほど頭が回る秀才児ばかり。
とはいえ、これは学校側としてもそこまで気にしていないでしょうね。鉄緑会メソッドの中核をなす「超ハイスピードの先取り学習」と「徹底的な演習漬け指導」は、武蔵の目指すところの正反対に位置しますし、進学実績を盛るために中学入試の日程を増やしたりズラしたりなんて、天地がひっくり返ってもやらないでしょうから。
武蔵は、武蔵大学と共通のキャンパスで広々としており図書館も充実しています。受験勉強以外で才能を開花させる方も多く、科学オリンピックでは日本代表輩出校の常連です。
自分の興味を伸ばしやすい環境であるのは間違いなく、今後東大推薦入試など推薦・総合型選抜がより広範に採用されたり、海外大学進学を視野に入れたりしたときに、ペーパーテスト以外で戦う力を育てるには、うってつけかもしれません。
進学実績が全てではない
東大合格者数は、各学校にとって、翌年志願者の数・質を大きく左右する重要な数値。筆者自身、母校から初めて東大合格者が出た際には、「○○君おめでとう! 祝東大合格」という垂れ幕が作られて、学校の外壁に掲げられたことを思い出します。
これを見て「自分も垂れ幕にかかるような実績を出そう」と感じたのは確か。「東大合格」は、やはり一定の層へキラーフレーズとなって突き刺さります。
とはいえ、本来大学受験、ひいては勉強とは実利のみを求めて行うものではないはず。
学ぶことが楽しいから学ぶのであって、学びそれ自体を効率よくクリアしていくような方法は、どちらかといえば邪道に位置します。
進学実績はどうしても気になる存在。ですが、受験に強いことがイコール幸せとはなりません。受験や実学ではなく、興味関心を伸ばす自由な学びでしかたどり着けない境地もまた、存在します。
人生の貴重な青春時代を過ごす環境だからこそ、実利より「自分らしく生きられる環境」を優先するのもアリなのかもしれません。
<取材・文/布施川天馬>
―[貧困東大生・布施川天馬]―
【布施川天馬】
1997年生まれ。世帯年収300万円台の家庭に生まれながらも、効率的な勉強法を自ら編み出し、東大合格を果たす。著書に最小限のコストで最大の成果を出すためのノウハウを体系化した著書『東大式節約勉強法』、膨大な範囲と量の受験勉強をする中で気がついた「コスパを極限まで高める時間の使い方」を解説した『東大式時間術』がある。株式会社カルペ・ディエムにて、講師として、お金と時間をかけない「省エネ」スタイルの勉強法を学生たちに伝えている。MENSA会員。(Xアカウント:@Temma_Fusegawa)
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