’19年12月、広島地検の男性検事(当時29)が自宅で自殺した。遺族は長時間労働と上司の不適切な指導(パワハラ)を理由に国を提訴。
“白ブリーフ判事”こと元裁判官の岡口基一氏は、「広島地検「検事自殺」問題で国が和解」について独自の見解を述べる(以下、岡口氏の寄稿)。
「検事自死」が早期和解で幕引き、地裁承認は解決金1億9400万
’19年12月、広島地検の検察官(当時29歳)が自殺した。上司の次席検察官から「こんなもん司法修習生以下だ」と、机を叩きながらどなられ、長時間勤務も重なって精神的に追い込まれた、という。元同僚だった弁護士が代理人になって法務省に公務災害申請をしたところ、法務省は「長時間労働による公務災害」自体は認めた。だが、上司の言動がどうだったのか、その評価は避けた。ここがまず、いかにも役所的だ。
「過労では落ちた」が、「誰の言動が何を壊したか」には踏み込まない。責任の所在だけが、最初から霧に包まれる。
次に遺族らは国に国家賠償訴訟を提起した。すると国は、パワハラを認めるのか否かをはっきりさせないまま和解協議を進める、という訴訟戦略に出た。真相に踏み込まれる前に、出口だけ用意するやり方だ。
遺族側の請求額は遅延利息込みで1億9400万円。国はその全額を「解決金」として支払い、さらに「国が十分な調査をしなかったこと」「遺族への情報提供が不十分だったこと」を認める内容で和解が調整された。加えて国は口頭で、次席検察官らの対応が不適切だったとも言い、検察庁が在庁時間の管理把握に努めること、ハラスメント相談窓口を組織内で周知する通知を出すことも約束したという。遺族側もこれを是として、事件は1審の東京地裁で和解終了となった。
だが、条項に残らない「口頭の約束」は、担当が替われば消える。再発防止を“約束”で済ませるのは、制度としては心許ない。
「誰が何を誤ったのか」検察庁や検察官の不祥事が相次いでいる
国家賠償訴訟は普通、最高裁まで争われ、時間もカネもかかる。にもかかわらず本件は、早期に遺族側の全面「勝訴」で終わった。代理人は、仕事をしすぎるほどした──そこは認める。だが俺は、どうにもスッキリしない。結局、何が問題だったのかが、国民には一切わからないまま、ウヤムヤで終わった感が強い。
そもそも国が和解に応じるのは珍しい。
ところが本件では、訴訟上はパワハラを一切認めず、証人尋問などの証拠調べもない段階で、「損害賠償金」ではなく「和解金」という名目で、2億円弱が血税から支払われたかたちである。公式の和解条項にはパワハラをうかがわせる文言もない。肝心な部分は「口頭の約束」に回された。便利すぎて、怖い。
税金を使う以上、「誰が何を誤ったのか」を言えない決着は、納税者に対してフェアじゃない。
これでは、被害者を自殺に追い込んだかもしれない次席検察官に、何の責任も取らせられない。本来なら裁判に呼ばれ、実名を明かして、当時の様子を証言させられるはずだった。
被害者との関係では一定の決着がついた。だが真相は明らかにならず、こちらはまさにこの国お得意の「ウヤムヤ終了」でもある。
近時、検察庁内部の問題や検察官の不祥事が続いている。
<文/岡口基一>
―[その判決に異議あり!]―
【岡口基一】
おかぐち・きいち◎元裁判官 1966年生まれ、東大法学部卒。1991年に司法試験合格。大阪・東京・仙台高裁などで判事を務める。旧Twitterを通じて実名で情報発信を続けていたが、「これからも、エ ロ エ ロ ツイートがんばるね」といった発言や上半身裸に白ブリーフ一丁の自身の画像を投稿し物議を醸す。その後、あるツイートを巡って弾劾裁判にかけられ、制度開始以来8人目の罷免となった。著書『要件事実マニュアル』は法曹界のロングセラー
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