生活保護世帯で育った子どもは、貧困から抜け出そうとしても簡単には抜け出せない。アルバイトを禁じられ、マイナンバーカードを取り上げられ、進学しても奨学金を親に使い込まれるーー制度の“はざま”と親による搾取に苦しみ、自立の意思があっても前に進めない若者たちがいる。
生活保護二世の当事者証言から、見えにくい若者貧困の実態を追った。

10代の生活保護受給者は減少傾向にあるが…

「支給額が減るからバイト禁止」生活保護世帯で育った18歳女性...の画像はこちら >>
3月4日、’25年の生活保護申請数が現在の集計方法となった’13年以降で、最多の25万6438件であったことが厚生労働省の調査でわかった。経済的に困窮しているのは、大人だけでなく子供も同じだ。厚労省のデータによると、10~19歳の生活保護受給者の人数は1960年の80万人弱から、’23年には約16万人と減少傾向にある。だが、生活保護世帯で育った、いわゆる生活保護二世は働きたいのに働けず、制度の“はざま”と親ブロックに苦しんでいるという。

現在、関東近郊に暮らす山下優那さん(仮名・18歳)もその一人。物心ついたときから生活保護世帯で育った。母子家庭で、母親は精神疾患を抱えており、就業できなかったためだ。

「同級生とうまくコミュニケーションが取れなくて高校を中退してしまったんですが、イラストの勉強がしたくて、美大を目指し通信制高校に入り直そうと思い立ったんです。親からの援助は望めないので、自分で学費を稼ごうと思ったんですが、親から『アルバイトはダメ』と止められた。ウチが普通じゃないのは、小さい頃から感じてましたが……」

生活保護世帯では、世帯員の収入が一定額増えると保護費が減額される仕組みになっている。山下さんの収入が家計に影響するため、母親は彼女のアルバイトを禁じたのだ。

「無断でアルバイトをしないよう、私のマイナンバーカードを取り上げて、応募自体ができない状態にされていました。
身分証がなくても働ける、歌舞伎町のコンカフェでバイトしようとしましたが、そこでも年齢を理由に断られました。結局、パパ活でお金を稼ぐしかなかったんです」

「支給額が減るからバイト禁止」生活保護世帯で育った18歳女性の苦悩。抜け出せない“貧困の連鎖”
U35貧困の惨状

ようやく家を出ることができたが…

その後、何度も頼み込んだ末、ようやく家を出ることができた山下さん。現在は友人のシェアハウスに居候しているが、いつ住む家がなくなるかわからない。収入も月5万円と乏しく、生活は綱渡りだ。

「家を借りようにも親は保証人に絶対なれない。それに『もう帰ってこないで! 18歳になったんだから一人で頑張れ』だって。今の制度は親は助かるかもしれないけど、子供は困る。親があんまりいい人じゃなかったら、子供に自立する意思があってもできないんですよ」

我慢。仕方がない。山下さんは自分にそう言い聞かせ、今を生きている。

山下さんのような生活保護二世のために、働きかけを行っている人がいる。自身も生活保護世帯出身で、大学で貧困について研究している儚さん(24歳)だ。

「3歳のとき、アルコール依存症で家庭内暴力の激しい父から逃れるため、母に連れられて京都に夜逃げしました。
まともな食事習慣がなくて、部屋も汚かった。母に包丁を向けられたこともありました」

大学に進学するには「世帯分離」が必須

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高校生になり、大学進学を目指した儚さん。努力の末、地方の国立大学に志望校を決めるところまできた。

「母には『大学行くなら、保護費が減った分はお金入れて』と言われました。大学生は、原則として生活保護の対象外。生活保護世帯の子が大学に進学するには、世帯分離する必要があります。生活保護法は、戦後間もない昭和の頃に作られた法律で、当時は大学進学率が低かったので、大学は贅沢品という扱いです。生活保護では、世帯普及率が7割を超えるものは『生活必需品』と見なされる。今は大学・短期大学、専門学校を合わせると、8割の人が進学しているのに……」

儚さんは国立大学に見事合格したものの、彼女の前には数々の困難が立ちふさがった。

「役所の窓口に合格通知書を持っていって、コピーされて、役所の人は『はい、これ保険証。これで世帯分離しました』みたいなあっさりとした対応で、生活支援関連の説明はまったくなかった。私はそのとき初めて保険証を見たんです。生活保護世帯は保険証がないので何かわからなかった」

親元を離れ、下宿生活が始まった。
世帯分離となった人の生活費や医療費は、生活保護費からは支給されないため、生活費はすべて自力で稼がなければならない。それに加え、国民健康保険料も支払わなくてはならない。

「月6万6700円振り込まれる奨学金が頼りだったのですが、母にキャッシュカードを取られていたので勝手に使われていました。親にお金を取られることは、貧困世帯にはよくある話なんです」

一番苦しいのは「親だから嫌いになれない」こと

それどころか、クレジットカードや携帯電話なども儚さんの名義で無断で契約され、30万円分のカード払いや未払いの携帯代の請求書が届いた。

「生活保護世帯の子供は経済的な問題だけでなく、虐待を受けているケースも珍しくありません。私の場合、奨学金があっても、親に取られてしまったので、奨学金が機能しないんです。それに、学費が賄えたとしても、生活費をつくるためにアルバイトをする必要があり、大学の学業と両立させる苦労は避けられない。そのせいで留年や休学になったら、奨学金は打ち切られてしまいます」

塾講師や水商売などのアルバイトで生計を立て、体調を崩しての休学も挟みながら、儚さんは6年かけて大学を卒業。今春、大学院への進学が決まった。

「生活保護を使って大学に通いたいと言っているわけではありません。何らかの事情で奨学金が機能せず、最低限の生活が維持できない大学生の選択肢としても生活保護があってほしいのです。生活保護があれば、万が一のとき安全な環境に身を置くこともできるし、病院にも行ける」

2人に共通するのは、経済的な困難だけではない。
「親だからこそ嫌いになりきれない」という葛藤を抱えることだと、儚さんは語る。

「たとえ虐待されていたとしても、親は親なんです。親とのいい思い出もあるし、全部嫌いにはなれない。だから支援団体に繫げようとしても、嫌がる人が多いんです」

制度のはざまで、自力で生きるすべを探している。

【現役大学生 儚(@hknin)】
Xで弁護士同伴のお悩み相談会を運営。大学で貧困に関する研究を行っており、生活保護世帯で育った子供たちとの交流もある
「支給額が減るからバイト禁止」生活保護世帯で育った18歳女性の苦悩。抜け出せない“貧困の連鎖”
現役大学生の儚(@hknin)
※2026年3月24・31日合併号より

取材・文/週刊SPA!編集部 

―[U35貧困の惨状]―
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