実家を貸し出すことになり、手を挙げたのは…
会社員の鈴木誠さん(仮名・51歳)は3年前、地方都市にある実家を相続した。両親が相次いで他界し、立派な庭付き一戸建てが空き家になったためだ。「生まれ育った家ですし、思い出も詰まっているので手放したくはありませんでした。でも、維持管理費もバカにならない。どうしようかと悩んでいました」
地元の不動産会社に相談したところ、ファミリー向け戸建て賃貸の需要は高く、予想以上の賃料が見込めることが判明した。「売るよりも貸した方がいい。状況が変われば自分が住む可能性もある」と判断した鈴木さんは、実家を賃貸に出すことを決めた。募集をかけるとすぐに反応があり、その時は早期の成約に安堵していたという。
入居を希望したのは、外国人夫婦と小学生の男の子の3人家族だった。日本語は片言だったが、不動産会社の担当者が間に入り、意思疎通に問題はなさそうに見えた。「ご主人も日本で働いていますし、きちんとした方々ですよ」という担当者の言葉を信じ、鈴木さんは契約書に判を押した。
「正直、最初は少し不安もありました。でも、家賃は保証会社を通していますし、定期的に振り込まれていましたからね。最初の半年間は順調だったんです」
しかし、契約書の中に「ペット飼育」に関する明確な取り決めがなかったことが、後に大きな禍根を残すことになる。
「犬を飼い始めました」の衝撃報告
入居から半年ほど経ったある日、不動産会社から「入居者が犬を3匹飼い始めた」との連絡が入った。鈴木さんは耳を疑った。1匹ならまだしも、いきなり3匹である。「契約書にペット不可の条項を入れていなかったんです。戸惑いましたが、断る根拠がないことに気付かされました。戸建てで庭も広いから、きちんと管理してくれればいいか……と、渋々承諾してしまった。それが間違いでした」
この甘い判断が、取り返しのつかない事態を招くことになった。
思い出の庭が、犬のフンだらけに
数ヶ月後、鈴木さんが実家の近くを通りかかると、家の数メートル手前から強烈な異臭が漂ってきた。「なんだこのニオイは……と思いながら庭を覗き込んで、言葉を失いました」
そこには、かつての美しい庭の面影はなかった。父と植えた柿の木の周りも、母が手入れしていた花壇の跡も、一面が犬のフンで埋め尽くされていたのだ。
「踏み場もないくらい、そこら中に放置されていました。
異臭は近隣にまで広がり、苦情が殺到した。地元の友人からも「お前の実家、すごいことになってるぞ」「あの辺を通る時は息を止めるよ」と連絡が来るようになった。
「地元に帰るたびに『あのフン屋敷の鈴木さん』とネタにされるようになりました。笑い話にしてくれるだけマシですが、情けなくて。思い出の実家が地域の汚点として有名になってしまった現実に、深く傷つきました」
契約書の大切さを再認識
その後、鈴木さんは弁護士に相談し、契約更新のタイミングで細則や衛生環境の保持を盛り込んだ新契約への変更を求めた。改善が見られない場合は退去を求める旨も通知したという。「外国人入居者とのトラブルで大切なのは、文化の違いを責めることではなく、契約書でルールを明確にすることだと痛感しました」
「きちんとした人たちだから大丈夫だろう」という希望的観測が招いた今回のトラブル。鈴木さんは高い勉強代を払うことになった。
「大切な実家を貸すなら、もっと慎重に条件を詰めるべきでした。
鈴木さんの悩みの種は、まだしばらく消えそうにない。
<取材・文/maki>
【maki】
ライター・エッセイストとして活動中。趣味は人間観察と読書。取材からエッセイ、コラムまで幅広く執筆している
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