「酒……。酒を体に入れないと!」
コンビニに駆け込み、「ストロング系」と呼ばれる缶チューハイを買い、そのまま胃に流し込む。
ようやく吐き気も震えも止まる。完全にアルコール依存症の状態だ。それを1日に何度も繰り返す。

いくら飲んでも酔いつぶれることができなくなった。しかし、体は確実に蝕まれていくーー。

本連載では、20代でアルコール依存症になった、ひとりの編集者の転落と回復の日々を追う。

「好きでもないのに吸わないと体調が悪い」“毎日5本のタバコ”...の画像はこちら >>

タバコを吸わないと日常生活がままならない

アルコール、エナジードリンク(以下、エナドリ)、睡眠薬、ノンアルコールなど、一体なににどれほど依存していたのかわからない筆者だが、タバコまで吸っている。それも10年。もう、救いがない。

とはいえ、かつてストロング系缶チューハイ(以下、ストロング系)を1日10本、エナドリを1リットル、そして今はデエビゴやロラゼパム、ゾルビデムといった睡眠薬をラムネのように毎晩ポイポイ飲んでいるのと比べれば、タバコは朝に3本、夜に2本と、1日5本しか吸っていないため、そこまで大した量ではない。

かかりつけの医者も筆者が喫煙者であることはわかっているが、「まずは酒と糖質をなんとかしたい」ということからか、「今すぐやめるように」とは言ってこない。

ただ、アルコール依存症だった時代にエナドリしか飲めなかったように、どこか体質がおかしなことになり、今でもタバコを吸わなくては日常生活すら、ままならなくなっている。

そこで、今回は筆者がアルコール依存症になった結果、酒をやめられなくなり、タバコも手放せなくなったことについて振り返りたい。


10代のころ、早くタバコが吸いたかった


酒と同様、幼い頃から大人がタバコを一服してリラックスをしている様子を見て、ある時から筆者も「タバコを吸ってストレス発散したい」と思うようになっていた。

というのも、中学と高校をアメリカで過ごしていた筆者は、学校ではロクに英語を話せず(必死で覚える気がなかったので、授業についていけるまで3年はかかった)、家に帰っても遊び相手は家族しかいなかったため、常にストレスを溜めていた。

では、そのフラストレーションをどこにぶつければいいのか? 筆者の唯一の楽しみは日本から持ってきた書籍だった。マンガ、小説、雑誌……。当時はインターネットにも詳しくなかったため、「活字中毒」を抑えるためには日本語の書籍がもっとも役に立った。

そして、読んでいる作品の中で登場人物たちが燻らせるタバコに憧れた……。ただ、マンガではなく、大正や昭和の文学、そして筒井康隆だ。今と時代背景が違うため当然のことだが、いわゆる文学作品ではページをめくるごとに誰かしらタバコを吸っていたのだ。

そのため、いくら若者が喫煙に興味を持たせないようにしても、アニメやマンガの喫煙描写の規制はあまり意味がないと思う。高校生になって文芸に興味を持ち出すと、そこからタバコに興味を抱いてしまう可能性もある。それに筆者が読んでいたマンガの主人公でタバコを吸っていたのはブラック・ジャックくらいだ。

仮にマンガのキャラクターの影響でタバコに興味を持ったといえるのは、『笑ゥせぇるすまん』の第2話「切る」に出てきた理髪師である。この理髪師は理髪店で働いているのに、顔剃りがとにかくヘタ。
そこで、喪黒福造は彼に「リラックスさせる効果のある薬用タバコ」を授けて吸わせてみたところ、落ち着いて顔剃りができるようになり、店一番の名人になるという話だ(オチは書かないが、このとき喪黒が渡したのは薬用タバコではなく、普通のタバコである)。

「タバコを吸えば今抱えているストレスから解放される……」

周りの大人や文学から影響を受け、そう信じ込んでしまった筆者はイライラすると、「タバコを吸う仕草」で心を落ち着かせていた。まるで、厨二病か『あたしンち』のしみちゃんである。

ひとり暮らしのタイミングで、まずは禁煙パイポ


本気で吸おうと思えば、父親が眠っている間にタバコを拝借することもできたが、残念ながらライターの付け方がわからないのと、吸い方もよく理解していなかった。

「肺に煙を入れるとはいうが、だったら口から出している煙はなんなんだ?」

結局、タバコを吸えないまま、大学進学のために日本にひとりで帰国。寮生活を始めたので、とりあえずドラッグストアで禁煙パイポを買った。理由は未成年だからだ。

ただ「私はこれ(禁煙パイポ)でタバコをやめました」というキャッチフレーズの通り、あくまでもこれは禁煙のための商品である。ニコチン中毒でもなければ、これまでタバコを吸ったことのない筆者にしてみれば、シャボン玉を吹くときのやつと大して変わらない。本当に意味のないことをしていた。

そんなこともあったが、大学に入ってしばらくして成人したので、堂々とタバコも買えるようになった。そこからは、もう暇さえあればタバコを吸うことになる。当時はまだキャンパス内にたくさん喫煙所があったため、講義が終われば1本、昼食後に1本と何かにつけてタバコを吸う。
アルバイト中も休憩に入ればまずは一服していた。

先輩たちに教えてもらって、タバコの吸い方とライターの付け方を教わったのだが、結局タバコの持ち方がわからず、「日本赤軍の重信房子と同じタバコの吸い方だね」と言われてしまった。

また、「中央大学 4号館」で検索してもらえるとわかるのだが、当時の筆者は廃墟のようなサークル練に講義以外の時間はたむろしており、この建物の階段の踊り場などではタバコが吸えた。そこで、サークル活動でフリーペーパーを作っているときなどは、徐々に集中力が切れてしまうため、校了期間中は2時間に1回はタバコ休憩に入った。

さらに、今では考えられないが、もうひとつ所属していた軽音楽サークルは、サークル室内でタバコが吸えたため、1曲演奏するごとにタバコ休憩に入っていた。

当初はストレスから逃れるためにタバコを吸っていたはずが、いつからかタバコを吸わないとストレスを感じるようになった。完全に血中のニコチン濃度がある一定以下になると不快感を覚え、喫煙を繰り返してしまう「ニコチン依存症」である。多分、1日8~10本は吸っていた。

喫煙所での人間関係に疲弊


そして、卒業後は出版社で社会人生活を始めるのだが、出版人の喫煙率は高い。社内には喫煙室があったが、常に人でいっぱいだった。

本来であればここで「タバコミニュケーション」などといって、先輩たちに話しかけるべきなのだが、20歳以上も歳の離れた大人たちと何を話していいのかわからない。また、会話しながらではなく、自分のペースでタバコを吸いたいため、徐々に喫煙所に行くのが億劫になり、1日の喫煙本数は減った。そもそも、タバコ休憩が多いと嫌味を言われてしまう気がした。


そのため、帰宅してからカロリーの高い弁当を、アルコール度数の高い酒で流し込んだあとに吸うタバコが至福だった。疲れ、酔い、満腹感……。すべてがタバコをうまくしてくれたのだ。

ただ、タバコの本数が減っていくのと比例して、酒の量が増えていくと、体の調子がおかしくなってきた。働いている間はタバコを吸わなくても、集中力は途切れないのだが、タバコを吸わないと吐き気を催し、体中が痺れ、なんだか熱っぽく感じてしまう。

そのような体調だと最良のパフォーマンスを発揮できないため、出社したらとりあえず会社が入っているビルの喫煙所でタバコを2本吸った。すると、目眩や吐き気などはなくなり、その日はそれ以上タバコを吸わなくても平気になった。

だったら、そのまま禁煙すればいいのだが、やはりタバコを吸わなければ、1日中吐き気が止まらず、落ち着きもなくなるため、無理にでも吸う必要があったのだ。

ここまでくるともう「タバコおいしい!」なんて思うことはなくなった。義務のように吸っていたため、「不便な体になったな」と感じる始末だ。血中のニコチン濃度が一定以下になったときにタバコを吸いたくなるはずである。それを朝の2本で済ませられるということは、一度に1日分のニコチンを摂取できたのだろうか……。


風呂場で仕事しながら水をがぶ飲み、そして一服


こうして、タバコを吸うことが楽しくなくなった筆者は、喫煙者なのに飲み会でもタバコは吸わなくなり、むしろ喫煙者の副流煙に腹を立てる始末だ。勝手な話である。

しかし、相変わらずタバコを吸わないと朝は前日の酒が残っているせいか、体は熱っぽくなり、吐き気を催す。それを解消するために、タバコを連続で2本吸っていた。

そして、新型コロナウイルス感染症の世界的流行で会社にも行けなくなり、木造アパートの1階の自室で仕事をするようになる。

そうなると、早起きの必要も、人の目を気にして生きる必要もなくなったため、昼に起き出して深夜まで仕事をし、終わったらストロング系を5缶飲み干して昏睡状態に陥り、翌日はまた昼過ぎに起きる生活に変貌した。

ただ、テレワークへの切り替えは突然のことだったため、筆者の部屋にはちゃぶ台しかなく、その高さでパソコン作業はできなかった。そこで、風呂場の割と深めのバスタブにお湯を張らずにクッションを敷いて着衣のまま入り、風呂ふたを机の代わりにして仕事をしていた。

そして、作業をしながら、水をがぶ飲みして喉を潤してタバコを吸う。タールは8mgと重かったせいか、吸っている途中に嗚咽が止まらなくなる。

しかも、以前は2本で済んだタバコの本数も徐々に増えていき、結局5本吸い切らないと体調は元に戻らなくなった。それでも、タバコを連続で吸いながら水を飲めば、体からアルコールが抜けていく感じがしたのだ。

吸い殻は水の溜めた焼酎の瓶の中に捨てていき、いっぱいになってもすり潰すように、吸い殻を瓶の中に押し込んだ。
時間をかけてゆっくりゆっくり、作業をしながら夕方になるまでに5本吸い切った(吸うときは早い)。

ちなみに、なぜ風呂場で吸っていたかというと、部屋に匂いがつかないのと、窓が付いていからだ。「それはそれで、近所迷惑では?」と思うかもしれないが、コロナ禍に突入して住人のほとんどが在宅勤務になった途端、アパート全体がタバコ臭くなったので問題ないのだ。多分、喫煙者ばかりが住んでいたのだろう。

引越しを機に電子タバコデビュー…あっさり前言撤回


そんな生活を1年近く続けていたのだが、築40年の木造アパートに急にネズミが出るようになったため、退去を余儀なくされる。そこで、転職をしたばかりの妹とファミリータイプのマンションで暮らすことになった。

「家賃折半で今よりもいい部屋に住めるんだからいいじゃない」と思われるかもしれないが、マンションは基本的に「禁煙」である。最良の提案だし、今の部屋から出ていかざるを得ないのだが、入居予定のマンションはベランダでタバコを吸うことも禁止されていたため、「嫌だ、嫌だ」と騒いでしまった。完全に「ヤニカス」である。

それと、これは筆者だけかもしれないが、タバコを吸っている姿を家族には見られたくないのだ。なんだか、後ろめたい気がする(酒は別にいい)。

仕方がないので中国製の「空気清浄搭載の喫煙用マスク」という、『東京喰種トーキョーグール』の主人公が付けている拘束具のような商品の購入も本気で考えた。しかし、レビュー欄は散々だったため、買うのもバカらしくなってやめた。

ただ、朝に5本吸えば済む話なので、近所の喫煙所を引っ越し前にくまなく探したのだが、この時代そんな都合のいい場所は存在しない。

いよいよ、引っ越しの日が近づいてきたため、不動産屋に相談したところ、「電子タバコなら匂いも出ないから大丈夫だと思いますよ」と言われた。そこで、数日後に電子タバコを買った。禁煙という選択肢はなかったのである。

それまで、「電子タバコを吸ってる奴は男じゃない」などと豪語していたが、あっさり切り替えられた。自室にこもって窓を開けて、外に向かって見えない煙を吐き出す……。よく、「焦げたとうもろこしの匂いがする」と喫煙者の間では言われているのだが、そんなことよりもタバコの匂いが衣類に付着しないから、もう普通のタバコは吸えない。

それに、これまでは紙巻きタバコを5本連続で吸わないと体調は元に戻らなかったのだが、電子タバコは3本で事足りるようになった。電子タバコのパッケージにはニコチンとタバコの含有量が記載されていないため、それはそれで怖い。なぜ、3本で落ち着けているのだろうか……?

なぜ吸わないと体調が悪くなるのか


さて、電子タバコに変えたことで、歯にもヤニが付着しなくなった。吸う本数も減ったため、経済的ではあるが、物足りなさを感じたのも確かだ。

そこで、電子タバコを吸い始めてしばらくして、以前吸っていた紙巻きタバコを吸ってみたのだが、味が気持ち悪くてもう吸えなくなってしまった。

その代わり、1日に飲むストロング系の量がとうとう10缶を超えてしまった。結果、「γGT 2410(平均値は40~60)」という数字を出してしまった。ここでドクターストップがかかり、酒を断つことになる。

「酒をやめたんだから、朝の吐き気、嗚咽、熱っぽさからも解放されるのか」

そう思っていたのだが、結局1日のはじめに電子タバコを3本吸わないと、以前ほどではないが、今も体調は悪い。吐き気と嗚咽はなくなったが、みぞおちあたりが痛くなり、落ち着きがなくなる。ということは、やはりニコチン依存症なのだろうか?

また、酒をやめてから、夜に睡眠薬をノンアルコール飲料5本で流し込むのも虚しいため、寝る前に2本追加で吸うようになった。

医者に聞いても「意味がよくわからない」と言われてしまう。しかも、吸う量も1日に5本のため「その程度なら自力で禁煙できないものですかね?」と言われたこともある。それはそうだ。

20代のときに稼いだ金はほとんど酒とタバコに消えた。しかし、結局残ったのは中途半端に不健康な体だけだった。

<TEXT/千駄木雄大>

―[今日もなにかに依存中]―

【千駄木雄大】
編集者/ライター。1993年、福岡県生まれ。出版社に勤務する傍ら、「ARBAN」や「ギター・マガジン」(リットーミュージック)などで執筆活動中。著書に『奨学金、借りたら人生こうなった』(扶桑社新書)がある
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