コンビニに駆け込み、「ストロング系」と呼ばれる缶チューハイを買い、そのまま胃に流し込む。
いくら飲んでも酔いつぶれることができなくなった。しかし、体は確実に蝕まれていくーー。
本連載では、20代でアルコール依存症になった、ひとりの編集者の転落と回復の日々を追う。
酒は飲みたくなくなったけど…
「薬が足りない!」糖尿病患者のための治療薬「GLP-1受容体作動薬」がダイエット女子たちに処方されまくって、在庫がないという話ではない。
筆者の睡眠薬(睡眠導入剤)が底をつく寸前なのだ。
30歳になる前までに500リットル近くのアルコールを摂取した結果、肝機能の指標であるγGTが、一般的に40~60が平均値とされる中、「2410」という数字を叩き出した筆者は現在、断酒を継続中でその代わりに毎晩、睡眠薬を1.4リットルのノンアルコール飲料で流し込んで寝ている。
もともと、眠れないからアルコールの大量摂取に逃げてしまった経緯があるため、アルコール依存症の病院に通い始め、睡眠薬をもらうようになってからは、スパッと酒を飲むことはなくなった。むしろ、アルコール依存症のときの目眩や動悸が止まらないといった経験をまだ覚えているため、今さら酒を飲みたいとは思えないのだ。
「薬ってすごい」
とはいえ、それもアルコールが睡眠薬に取って代わっただけの話である。結局、睡眠薬を飲まないと寝付けないため、防災セットは一切準備していないが、急な外泊や災害など、なにかあったときのために常に睡眠薬はカバンに常備している。
「酒浸り生活から、今度は睡眠薬依存かよ……」
眠れない…入眠方法を模索し続ける
第4回の記事では筆者がストロング系によってアルコール依存症に陥るまでの経緯を紹介したが、そのオチは「酒以外のものに依存することになる」というものだった。つまり、今は睡眠薬とノンアルコール飲料なしでは生きていけないのだ。どうやって、酒を飲まずにいられるようになったのかというと、アルコール依存症の病院で処方された、人間の中枢神経系に作用して、飲酒欲求を抑える作用を持つ「レグテクト」というアルコール依存症の治療薬やビタミン剤のおかげだろう。
また、アルコール依存症のときも、なんとか休肝日を設けようと「Yakult(ヤクルト)1000」と市販の睡眠改善薬、それと「メンタルバランスチョコレートGABA」で、酒を飲まずに眠ろうとしたことはあった。
しかし、大量飲酒で失神するかのごとく無理やり眠らせていた身体にそれらは通じず、結局朝まで一睡もできずに終わってしまった。すると、眠れないのがわかっているため、その後は休肝日と決めた日でも、酒を飲まずにはいられなくなる。
一応、酒を飲まない努力はしていた。ただ、身体は言うことを聞いてくれない。それが、レグテクトという薬一錠で飲酒欲求が一切なくなるのだ。
「薬ってすごい」
問題は10年の間に破壊された「入眠方法」をどう取り戻すかである。数年前まで、酒なくしては眠ることができず、飲み会で散々飲んでも、家に帰ると追加で急速にアルコールを摂取して酩酊状態に入らないと、眠気さえも感じることができなかった。
そこで、アルコール依存症の病院で「マイスリー」と「デエビゴ」を処方された。マイスリーは「ゾルピデム」が正式名称の非ベンゾジアゼピン系の睡眠薬である。
筆者もアルコール依存症の真っ只中に、都内の有名なメンタルクリニックで処方してもらったことがあった。
その日の晩は、マイスリーを一錠飲んでホットミルク片手に、子どもの頃にやってみたかった『ピクミン』というゲームをやりながら自然と睡魔に襲われようと考えたのである。
わざわざ中古ゲームショップでコントローラーなども購入したのだが、いざ始めてみると自分の操作ひとつでピクミンたちは死んでしまう。しかも、ピクミンたちは言うことを聞いてくれないため、その場に留まって夜に巨大生物に食べられてしまう。そして、毎晩のように死んだピクミンの累計を報告されてしまうため、一気に気分が落ち込んでしまい、眠れなくなってしまった。
「もう、睡眠薬なんて飲まない……」
「断酒薬セット」で寝落ちが最適解?
そこで、アルコール依存症の病院では初診の際に「マイスリーだけでは眠れない」ということを伝えた。すると、デエビゴも処方されることになった。これはオレキシン受容体拮抗薬に分類されている比較的新しいタイプの睡眠薬だ。脳内にある覚醒状態を維持する「神経ペプチド(オレキシン)」の働きを低下させて、眠りに誘うという作用がある。
デエビゴを5mg、マイスリーを5mg、レグテクト、そのほかビタミン剤、そして「ロラゼパム」というベンゾジアゼピン系の抗不安薬で構成される「断酒薬セット」を毎晩一気に飲み込む。すると、1時間も絶たないうちに「寝落ち」してしまうのだ。これまでに感じたことのなかった「快楽」である。
「もう、お酒飲まなくてもいいや!」
こうして、筆者はアルコール依存症から抜け出せた。病院に通い続け、あるときからデエビゴが10mgに増えたり、トリンテリックス(抗うつ剤)や、ベンゾジアゼピン系のトラゾドン(抗うつ剤)とロフラゼプ酸エチル(持続性心身安定剤)が追加されたり減らされたりを繰り返して今に至る。
改めて、今回の原稿執筆にあたり、「おくすり手帳」を見返したところ、いつの頃からかアルコール依存症の治療薬のレグテクトは処方されなくなっていた。完全に酒への未練は断つことができたと医者からのお墨付きをもらえたのだろう。
とはいえ、睡眠薬の量が増える分にはまだ理解できるが、抗うつ剤、抗不安薬、持続性心身安定剤などが追加されるようになった経緯はよく覚えていない。確かに、お酒を飲まなくなった分、ストレスと緊張感をこれまで以上に抱えるようになったのは事実だ。
「まぁ、処方されるに越したことはないか……」
ただ、体内からアルコールが抜けた分、今度は睡眠薬の影響で寝起きは「せん妄」のような状態に陥ることが増えた。
「この間、雑誌のインタビューを受けたんだけど、お母さんが裁縫部だったことを伝えたよ」
当時、一緒に住んでいた母いわく、筆者を朝起こしたところ、意味不明なことを繰り返していたという。そして、恐ろしいことに、そのときの記憶は一切残っていない(さらに母は裁縫部ではない)。
睡眠薬の作用が抜けきっていないままに目覚めると、酩酊状態と同じようになることを、そこで初めて知った。ただ、その症状も3カ月くらいでなくなった。
「やった! 睡眠薬さえあれば、真っ当な人間として生きていける」
毎晩、断酒薬セットをノンアルコール飲料で流し込む……。
「10時間睡眠」がデフォルトになった経緯
こうして、健康的な睡眠生活を手に入れたと思われるかもしれないが、実際はそうではない。筆者は昔から寝付きが悪かったのだが、逆に一度寝ると簡単には起きられない。そのため、第1回でも紹介したが、学生時代は9時半に始まる1限の講義はすべて寝坊してしまう恐れがあったため、カリキュラムは11時に始まる2限の講義から1日が始まるように組んでいた(それでも、寝坊していた)。
社会人になってからも働く時間が不規則な「編集者」という仕事を選んだ。
「新入社員なのだから、10時には出社しよう」
入社当初はそう心に決めていたものの、勤続年数が増えるに連れて10時、11時、11時半、12時……と、出社時間は遅くなる。その分、家で寝ていた。
もちろん、仕事をしていないわけではない。前日遅くまで仕事をしていたため、出社時間が12時半になったり、仕事の付き合いの飲み会が深夜まで続き、二日酔いの影響で時には14時頃に出社することもあった。それでも、「裁量労働制」という「出来高制」なので咎められることはなかった(代わりに先輩社員たちからは叱られたが、その先輩たちも昼過ぎに出社していた)。
そんな「朝に弱い」人間たちを社会が「許してくれる」時代が訪れる。新型コロナウイルス感染症の世界的流行の影響で、テレワークになったのだ。
持ち帰ったパソコンはVPN接続などで会社に監視されているわけでもないため、深夜まで働いて昼過ぎに起きて、また作業を再開するというスタイルでも、与えられた仕事さえ達成していれば特に問題ないのである。
「さすがに寝過ぎでは?」
アルコールの影響でしっかりと睡眠が取れていないのか、「10時間睡眠」がデフォルトになってしまったのだ。もはや「過眠症」の粋だが、特にそのような診断はされていないので原因はわからない。ただ、深夜にたらふく酒を飲んで翌朝、起きられないのは当然の結果である。
このように酒で睡眠サイクルは破壊されてしまった。それが睡眠薬を飲んで常識的な時間に眠ることで、真っ当な生活を送るはずだった。
しかし、次第に筆者の身体はアルコールと同様に睡眠薬にも「耐性」がつき始める。
負のループから抜け出せなくなってしまう
酒を絶った筆者は「11時出社を目標とする」編集部に業務委託として転職する。ついに、昼過ぎまで寝る社会人生活は送れなくなったのだが、それでも入社当初は11時半頃には出社していた。ただ、徐々に仕事量が増えていき、家に持ち帰って残業するようになると、睡眠薬を飲んでいるにも関わらず、作業に集中してしまっているせいか眠気が訪れることがなくなり、眠りにつくのも3時や5時というがデフォルトになってしまう。これでは朝に起きるのは無理だ。
そうならないために、以前は帰宅後に仕事をしても、すぐに寝落ちできるように事前に断酒薬セットをノンアルコール飲料で流し込んでいたのだが、最近はもう寝落ちすることもなくなった。
そこで、10mgのデエビゴを2錠飲んだこともある。
さらに、アルコール依存症の病院は10時~12時の午前中にしか空いていない。デエビゴは1回で処方できる量が法律で決まっているため、毎月眠い目をこすりながら近所のアルコール依存症の病院に通って薬をもらっていた。それが、今はもはや12時までに起きられれば「上出来」という生活リズムのため、ここ最近は何度も予約を寝坊で無断キャンセルしてしまっている。
結果、手元には数錠のマイスリーとデエビゴしか残っていない。3日以内に病院で診察してもらわなければ、睡眠薬はなくなってしまう。そうすると、きっと眠れなくなる。
「いよいよ、残り一錠になった。明日、病院に行けなかったらどうしよう?」
この原稿もそのような不安にかられながら、深夜に執筆している。
睡眠薬なしでは生きられない…
アルコール依存症からは脱却できたが、今度は睡眠薬への依存を強めている。「そんな状況であれば、市販の睡眠改善薬に切り替えたらいいのでは?」
そう思う読者もいるだろう。しかし、一度で睡眠薬での「寝落ち」の気持ちよさを覚えてしまうと、市販薬では物足りなくなるのだ。
そもそも、睡眠改善薬は睡眠薬と異なり、風邪薬や鼻炎薬などに含まれる抗ヒスタミン剤の一種「ジフェンヒドラミン塩酸塩」が配合されており、その作用で不眠症状を「緩和」してくれているだけだ。つまり、風邪薬を飲んだときに、少し眠くなるのと同程度の作用であるため、睡眠薬とはまるで「効き」が違う。
おまけに睡眠薬もそれなりの値段がするため、安いストロング系を何缶も買っていた時代の酒代と、1カ月に処方してもらえる薬の代金がトントンである。やっぱり、釈然としない。
筆者はこの先しばらくは睡眠薬に頼りながら生きていくしかない。酒を断って数年は経つのに、一体いつになれば「なにかに依存しなければ生きていけない体質」から抜け出せるのだろうか……。
<TEXT/千駄木雄大>
―[今日もなにかに依存中]―
【千駄木雄大】
編集者/ライター。1993年、福岡県生まれ。出版社に勤務する傍ら、「ARBAN」や「ギター・マガジン」(リットーミュージック)などで執筆活動中。著書に『奨学金、借りたら人生こうなった』(扶桑社新書)がある
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